31.放課後デート
小春を息抜きに誘った俺は今、制服姿のまま彼女と並んでバスに揺られていた。
「ねぇ陸。それでこれからどこ行くの?」
「それなんだけど、小春、見たい映画があるって言ってたよね? 今から見に行くのはどうかなって思ったんだけど」
「いいねそれっ! ……あっ、だけどわたしの見たい映画って恋愛ものだよ? 陸ってそういうのに興味あったっけ?」
「うーん……正直恋愛ものはよくわからないけど、俺は小春が好きなものならなんでも興味が湧いてくるかなー」
「はえっ!?」
小春は急に間の抜けた声を上げ、俺を二度見してくる。
「ん? 小春、どうしたの?」
「な、なななんでもないっ!」
俺、何か変なこと言ったかなぁ……?
耳まで赤くして俯く小春に、俺は首を傾げるのだった。一呼吸置いて、小春はジトっとした上目遣いを向けてきた。
「陸ってば、今日はやけに強引だね」
「え……いやぁ、たまにはいいでしょ」
今度は俺がしどろもどろする番だった。
小春がこれまで過ごしてきた境遇や現状に同情して、俺にできることを少しでもしたいと思ったから、なんて言ったらそれこそ小春に気を遣わせてしまう。
「さっきの話、気を遣わせちゃった?」
「えっと……」
ヤバいバレてる……ここは茶化して乗り切ろう。
俺はナルシスト風に前髪をファッサァーとかき上げ、すまし顔で言った。
「俺だって男だからね。かわいい妹──じゃなくて女の子と遊びたいって欲望くらいあるのさ」
…………え? 無反応!?
俺は顔が熱くなるのを感じながら、横目でチラリと小春の様子をうかがう。すると、小春は腹を抱えて吹き出した。
「ふっ……あははっ! なにそれっ! 陸、そのセリフ似合わなすぎだよぉー」
「うっ……別にいいでしょ……」
俺は小春から目を逸らし、耳の裏をかいた。
***
映画館に着き、座席の予約を済ませた後、俺と小春は飲食品売り場に向かった。
「何食べよっかなぁー」
そう言って小春は目をキラキラさせてメニューを眺めている。
楽しんでくれてるみたいでよかったな。
「じゃあポップコーンのキャラメルと塩のLを一つずつと、飲み物はコーラとジンジャーエールでお願いし──あっ、それとフライドポテト──」
俺は無言で小春の肩に手を置いた。
「ん? どうしたの陸?」
小春はかわいらしく前髪を揺らし、コテンと小首を傾げる。無自覚に散財癖を全開にした彼女に、俺は白い目を向けた。
「小春、買いすぎ。散財癖直すんじゃなかったの?」
「あっ……」
小さく吐息を漏らすと、小春は機械のようにぎこちなく首を回し目を逸らす。
「じゃあポップコーンの塩とジンジャーエールだけにしよっかなー……」
口ではそう言いながらも、小春はよだれが垂れそうな勢いで看板に描かれたキャラメルポップコーンやコーラを見ていた。
フフッ……しょうがないなぁ……。
「キャラメルとコーラは俺が買うよ。それで小春のとシェアしよう?」
「いいのっ!?」
パァっと、一瞬で小春の表情が明るくなった。
単純だけど、そこがまたかわいいんだよなぁ……。
「もちろん。あ、フライドポテトも食べたいんだっけ?」
「うんっ! 食べたい!」
そんなこんなで注文を終えると、すぐに頼んだ品がカウンターに並べられる。
「じゃあ行こうか」
「うん! 映画楽しみだねー」
「ふふっ……ごゆっくりー」
去り際、なぜか店員のお姉さんに温かい目で微笑まれた。
それからシアターに行き、俺と小春は真ん中あたりの席に隣り合って座った。
「俺のポップコーンとコーラとフライドポテト、好きに食べていいからね」
「ありがとう陸。わたしのも好きにしてねっ!」
そう言って小春は早速俺のポップコーンに手を伸ばす。それからすぐにシアターは暗くなり、上映が始まった。
序盤はコメディーパートだった。ふと横を見ると、小春は笑い声を必死にこらえて肩を揺らしていた。
フフッ……! 小春、楽しんでそうでよかった。
俺は安堵に胸を撫でおろし、視線の先を画面に戻した。そしてフライドポテトを食べようと手を伸ばすと、柔らかくて温かい何かに手が触れた。
「……っ!?」
ほぼ同時に、小春が驚き息を吸う。俺が小春の顔を見ると、ゆっくりとした動作で顔を上げる小春と目が合った。
「…………」
「…………」
俺たちは映画に目もくれず、お互い無言で見つめ合う。そんな時間が十秒近く続いた。
『鮎川!』
突然映画の男性主役がヒロインの名前を叫び壁ドンをした。シアターに響いたドンっという効果音に、小春は慌てて俺から目を逸らした。
その後も俺は小春の横顔と映画の両方を楽しんでいると、あっという間に上映時間が終わってしまった。
「いやぁ、面白かったねー!」
「そうだね。自分のことじゃないのにすごくドキドキしたなぁ……恋愛映画って初めて見たけど、こんなに面白かったんだね」
意外と恋愛映画は面白い。新しい発見につい声が大きくなってしまった。そんな俺を見て、小春はなぜか目を細め、抗議の視線を送ってきた。
「じゃあなんで陸はそんなに鈍感なのさー」
「ん? なんのこと?」
「なんでもなーい」
なんだろう? 俺変なこと言ったかな……。
それから俺と小春は帰りのバスに乗り、映画の感想で会話を弾ませた。
「俺は最後の告白シーン好きだったなぁ」
「そうそう! あのラストシーンよかったよねっ!」
映画について語る小春は、影一つない太陽のような笑顔を浮かべていた。
「また一緒に映画見に行こうねっ!」
「うん。小春とならどんな映画も楽しめるよ」
なにはともあれ小春が少しは元気になったみたいでよかった。夜ご飯も、小春が喜んでくれるように頑張って作ろう。
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