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27.カラオケ

 四人でカラオケボックスに来ると、示し合わせたわけでもなく俺と小春、恭平と栞がそれぞれ隣同士になるように座った。


「お。おれからだな」


 恭平の選んだバラード曲が流れ始め、彼はマイク片手に立ち上がる。そして男性アイドル顔負けの甘く優しい歌声を響かせた。


 やっぱり歌もうまいなー恭平は。この後歌うのか……うん。バラードはやめよう。


 俺は恭平の耳心地の良い歌声を堪能しながらタッチパネルを操作する。そうしているとふと、隣に座る小春が俺の服の裾を摘み、クイクイと引っ張った。


「ねぇ陸。こういう時って最初は何歌ったらいいの?」


「うーん……有名なバラードとかが無難じゃないかな」


「そうなんだ。ありがとう」


 そう言って小春は俯き、唇に一指し指を当てて難しい顔をした。


 ん? 小春、どうしたんだろう……。


「あ、もしかして小春ってカラオケ初めてなの?」


「あはは……実はそうなんだよねー。それでわたし、流行の曲は聞くんだけどちゃんと歌ったことあるのって合唱曲くらいだから困っちゃって」


「それなら俺と一緒にデュエットしない? うろ覚えの曲でも簡単な曲なら、一緒に歌えば歌えるんじゃないかな」


「いいの?」


「うん」


 頷き、タッチパネルを渡すと、小春はパッと花が咲くように明るく笑った。


「ありがとう陸っ! ……それじゃあ、陸はこの曲知ってる?」


「うん。大丈夫だよ」


「じゃあこの曲にするねっ?」


 曲決定ボタンを押すと、小春は気分よさそうに足を揺らし始める。


 小春も楽しめてるみたいだね。よかった。


 そして恭平が歌い終わる。


「栞。おれの歌はどうだった?」


「ん。ま、うまかったんじゃない」


「ははっ! そっかそうか。ありがとな」


 栞を見つめて距離を詰める恭平と、目を逸らしながら素直じゃない褒め方をする栞。二人の甘いやり取りを見て微笑んでいると、俺たちのデュエット曲が流れ始めた。


 俺は立ち上がってマイクを持ち、小春にもマイクを渡す。


「小春、一緒に頑張ろうね」


「うんっ! 陸の足を引っ張らないように頑張るよ!」


 マイクをギュッと握り込み、フンスと意気込む小春。かわいいけど硬くなりすぎだよ?


 俺は小春の頬を人差し指でつつく。小春の頬は餅のように柔らかくて弾力があって、指が沈み込んだかと思えばぷにぷにと押し返された。


「いやいや、そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ? 遊びなんだから楽しもう?」


「あっ、それもそっか……」


 目からうろこと言わんばかりに落ち着く小春に、俺は思わず笑ってしまった。


「フフッ……! 小春は真面目だなぁ」


「むぅ……それ絶対バカにしてるじゃん!」


「ごめんごめん。それより歌、始まるよ?」


 俺は言い終わると同時に歌い出す。すると小春も慌ててマイクを口に寄せ、一小節終わったところから一緒に歌い始めた。


 小春は息継ぎのタイミングがずれてところどころ歌えていなかったり、伸ばしや入りがちょくちょくずれていたりとぎこちない歌唱だった。


 けれど、音程バーと歌詞を見て頑張っている横顔は真剣で、自転車の練習をする子どものように見守ってあげたくなるものだった。


「小春ガンバ」


「心矢さんファイトー」


 ラストのサビ前になり、栞と恭平が小春を応援すると、小春の表情はほんの少しだけ和らいだ。俺も小春の手を握り応援する。すると、小春の手はそっと握り返してきた。


 顔を上げると、小春の澄みきった瞳と目が合った。頬に汗をにじませた小春は、いつの間にか楽しそうに目元を緩ませていた。


「二人ともお疲れ。すごくよかった!」


 デュエットを終えると、恭平がパチパチと拍手をくれた。


「ま、初めてにしてはいいんじゃない」


 栞はいちごミルクを飲み、素直じゃない誉め言葉をくれる。


「えへへっ……! 栞も目里くんもありがとう。やったね陸!」


 小春は薄っすらと頬を赤らめ照れ笑いを浮かべると、片手を上げた。


「うん。小春も初めてなのに最後まで歌い切れるなんてすごいよ。えらいね」


 俺も片手を上げ、微笑む。


「えへへっ……! もぉー。みんな褒め過ぎだよー」


 そうして俺と小春はパチンッとハイタッチした。


 一方で、恭平と栞はというと。


「見せつけてくれるねぇー。どうかな栞。おれたちもデュエットやらないか?」


「……っ!? はぁっ!?」


 飲んでいたいちごミルクを吹き出しそうになりながら目を丸くする栞。対して恭平は頬杖をつき、からかうように栞の顔を覗き込む。


「ん? 嫌だったかい?」


「……嫌じゃないわよ」


「ははっ……! そっか。じゃあ栞は何歌いたい?」


 普段より小さな声を出し、栞は足を組み替えて顔を逸らす。恭平は白い歯を薄く見せて爽やかに笑い、栞の答えがわかっていたかのようにサラッとタッチパネルを操作しだす。


 そんな栞に、俺の横に座った小春はニヤニヤとした上目遣いを送った。


「あー! 栞、照れてるー」


「うっさい!」


 そんなこんなでデュエット歌唱をメインに歌い続けているうちに、制限の二時間はあっという間に過ぎ去った。


***


「それじゃあ、おれたちはこっちのバスだから。じゃあな陸、心矢さん」


 カラオケからすぐにある、街灯に照らされた駅前バス乗り場。俺と小春、恭平と栞の二組に分かれて別々のバス停に並ぶ。


「うん。またね」


「栞っ! 今度は学校でねー!」


「ん」


 短いやり取りを終え、先にバスが来た恭平たちがバスに乗り込む。二人を見送った後、残された俺は小春を振り替えった。


「あのさ小春。どこかで夜ご飯食べてから帰らない?」


「いいねっ! だったらわたし行きたい店があるんだー」


 こうして四人での遊びを終え、俺と小春は二人並んでバスの座席に座った。

この話を読んでいただきありがとうございます!


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