26.服屋
ショッピングモール二階に建ち並ぶ服屋の中からよさげな店を選ぶと、早速小春と栞は女子同士会話を弾ませながら服を選んでいた。
小春と栞、仲良くなったみたいでよかったなぁ……。小春にも女の子同士で話したいことだってあるだろうからね。俺以外にも、心を許せる同性の友達ができてよかった。
ふと俺の隣にいる恭平を見ると、爽やかな微笑みを浮かべたままじっと栞を眺めていた。
「そう言えば、恭平は栞のことどう思ってるの?」
「……珍しいな。陸がそういう話するのは。何かあったのか?」
「小春を気にかけてくれる栞にお礼したいなって思って」
「そういうことね」
恭平は納得を示すと、再び栞に目を向ける。そしてさも平然と言ってのけた。
「おれは栞のことが好きだよ。幼馴染としても、もちろん異性としてもな」
「ならどうして告白しないの? 恭平なら栞の気持ちに気付いてるでしょ?」
「ああ、気付いてる。だけどおれから告白するつもりはないな」
「どうして……」
「勘違いしないでくれよ。おれは別に栞と特別な関係になりたくないわけじゃない。栞から告白されればもちろんオーケーするさ」
そう言ってウインクすると、恭平はスッと目を細め、声のトーンを一段低くした。
「だけどな、おれは今の関係も大好きなんだよ。栞も陸もおれの最高の親友だ。親友も恋人も、おれにとっては同等の価値があるのさ。だからおれは、自分からこの関係性を捨てようとは思えないんだよ」
「そう……」
うーん……正直、好きになった相手なら親友より恋人になりたいものなんじゃないかって思っちゃうけど、恭平の中ではそうじゃないんだよね。
俺は、苦笑混じりに微笑む恭平に微笑みを返す。
「恭平、拗らせてるねー」
「ははっ! おまえもな」
「えっ? なんのこと?」
「おいおい。あれだけべったりなのに自分で気付いてないのか?」
そうは言われても、本当になんのことなんだ?
「おまえなぁ……」
首を傾げる俺に、恭平は呆れてため息を漏らす。そんな時、試着室の前にいた小春が手を振ってきた。
「二人ともー! こっち来てー!」
「栞が試着するみたいだな。おれたちも感想言ってやらないとな」
「そうだね」
あ、小春も服持ってる。小春も試着するのかな。どんなかわいい姿になるのか楽しみだなぁ……。
俺と恭平が試着室の前に着くと、カーテンが開かれ栞が姿を現した。
「ん。……どう?」
腕を組み目を逸らす栞は、長い銀髪が映える黒のニットを斜めに着て片方の肩を出し、下はデニムのショートパンツという、いつも以上に露出多めの服装をしていた。
栞、攻めたなぁ……。
爽やかイケメンを攻略しようと強気に出た健気な幼馴染に温かい目を向けていると、当の爽やかイケメン──恭平は涼しげに言う。
「おー。栞、すごく似合ってるぞ。ザ・クールビューティーって感じだな」
「……あっそ……ありがと」
小さく呟いて、栞は照れ隠しに頬杖をついた。
恭平は相変わらずイケメンだなぁ……。
「陸陸っ!」
いつの間にか栞の隣の試着室に入っていた小春が、カーテンから顔だけを出して手招きしてくる。
「小春も着替えたの?」
「うん。どうかな?」
そう言ってカーテンを開けた小春は、藍色のパーカーの腰あたりからインナーの白Tシャツを覗かせ、薄い色のジーンズを身に着けていた。そして茶色のキャップを被ると、バイトの制服で見た時のようなボーイッシュな小春の完成だ。
小春は自信なさげにチラチラと目を逸らしているが、その服装は彼女の短い髪ともマッチしていて中性的。それでいて隠しきれていないかわいさが目元や口元、後ろに組んだ手のポーズや胸に寄ったパーカーのシワににじみ出ていた。かっこかわいいというやつだ。
「すごく似合ってるよ小春。バイト服の時もそうだったけど、小春ってボーイッシュな服も似合うんだね」
「そ、そそそうなんだよっ! だってわたし、学校一の美少女だからねー! 何を着たって似合うのです!」
俺が思ったことを真っすぐに伝えて褒めると、小春はわかりやすく照れてまくし立てた。そしてすぐに後ろを向いてしまった。と言っても、鏡で赤くなった顔が丸見えなんだけどね。
「じゃ、じゃあ次の服着てみるねっ!」
慌ただしくカーテンを閉める小春。やっぱり見てて癒されるなぁ……。さっきはなんとなく小動物に喩えてみたけど、かなり的を得てたんじゃないかな。
それからも栞と小春はそれぞれ恭平と俺に、いろんな服を着て見せてくれた。
特に小春は、緩いシルエットに落ち着いた色合いの大人っぽい服や、反対にワンピースとチェック柄の上着を合わせたかわいさ全開の服まで、いろんなジャンルのファッションを見せてくれた。
そうして小春は一通り服を着終え、元の薄灰色のパーカーと黒のロングスカートに戻った。
「本当に小春は何を着ても似合うねー」
「えへへっ……! ありがとう」
試着室から出てきた小春の頭を撫でると、くすぐったそうに笑ってくれた。
「それで、どの服買うの?」
「もちろん全部!」
「そんな金ないだろ……」
満開の笑顔で言ってのける小春に、俺は全力の白い目を向けた。
「あっ……」
口を開けて固まる小春。対して俺はじっと小春の目を見つめ続ける。すると小春は、人差し指で頬をかいた。
「……じょ、冗談だよー。陸は本気にしちゃったの? やだなぁーもぉー」
「あの満面の笑みはどう考えても本気だっただろ」
「うぐっ……! しょ、しょうがないじゃん。わたしだって衝動買いはやめようと思ってるんだよ?」
小春は拗ねたように口をすぼめ開き直った。
どうやら、小春が家賃を払えなくなった原因である衝動買い──散財癖は直っていなかったらしい。
とはいえ本人だって直そうとはしているんだから、ここは出しゃばりすぎないように兄としてしっかり見守ってあげないとね。
俺は小春の肩に手を置き、彼女の目を真っすぐに見つめる。
「小春が頑張ってるのはハーゼルダッツの時にちゃんとわかってるよ。だから俺にも、小春が衝動買いをやめられるように手伝わせてくれない?」
「手伝い?」
「うん。小春が衝動買いしそうになったら止めるっていう手伝い」
「それすっごく助かるよー。わたしってテンション上がると考えるより先に手が出ちゃうから、正直衝動買いをやめられる自信なかったんだよねー」
そう言って小春はチロリと舌を出し、あはは……と笑う。こうやって素直に頼ってもらえると、なんだか胸の奥が温かくなった。
「ねぇ陸。陸はどの服が一番良かったと思う?」
「そうだね……どれもすごくよく似合ってたけど、俺は最初に着てたボーイッシュなやつが一番好きかなー」
「じゃあ今日はこの服だけにするねっ?」
そんなやりとりをしていると、横から「ははっ!」と爽やかな笑い声が聞こえてきた。
「陸と心矢さんは兄妹みたいだな」
「そう?」
恭平からもそう見えるんだ……いい兄になれてるってことだよね? 嬉しいなぁ……。
「二人とも話が付いたのなら、締めのカラオケ行かない?」
そうして俺たちは、ショッピングモールを出て近くのカラオケボックスに向かった。
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