23.フードコート
「陸、一緒にラーメン買いに行かないか?」
四人掛けの席に着くと、対面に座る恭平が誘ってくる。同時に、斜め前に座る栞からギロリと睨まれた。
お気付きかもしれないが、栞が俺を嫌う理由は嫉妬だ。特に中学時代なんか俺と恭平はずっと一緒にいたし、恭平は人気者でいつも周りに人がいた。
俺と栞と恭平の三人でいる時も多く、なかなか恭平と栞の二人きりになることがなかった。だから恭平が好きな栞は、恭平と二人きりになれる俺に嫉妬したんだろう。
一応、俺は気を遣って二人きりになれるようにしてたんだけどね……。
「あ、俺は今日はラーメンの気分じゃないかなー。モクドナルドにするよ」
「だったらわたしもモックにする!」
「そう?」
食い気味に身を乗り出す小春に、もしかして一緒のものを食べたいって思ってくれてる? と驚き半分に嬉しくなっていると、恭平がなんだが爽やかにニタニタした目で俺を見ていた。
「ふぅんそうか。なら栞はどうだ? 一緒にラーメン食べないか?」
「……ん。た、食べる」
いつになくか弱い声で頷く栞に、小春は吹き出しそうになるのを堪えるのに必死だった。
小春、最初は怖がってたけど今はだいぶ栞に心を許してくれてるね。
二人の心の距離が縮まりつつあるのを感じて微笑んでいると、恭平が立ち上がる。
「じゃあそれぞれ注文してからこの席に再集合な」
そうして俺たちはテーブルの上に人数分の紙コップを残し、俺と小春はモックの待ち列に並んだ。
待ち列はポールとロープで作られた狭い通路だ。必然、小春との距離が近くなる。一歩でも横に動けば小春と肩がぶつかるだろう。
「思ってたより空いてるね」
「うん。まだ十一時過ぎだしね。恭平のスケジュールのおかげだね」
前には二組並んでいるが、混む時間と比べればはるかに人が少ない。壁に張られたメニューをぼんやり眺めていると、小春が俺の裾をクイクイ引っ張ってきた。
「あっ、見て陸。寺川さんと目里くん、いい雰囲気じゃない?」
小春が指さす先を見ると、ラーメン屋の狭い待ち列に並んでいる栞と恭平の姿があった。
俺たちと同じく肩が触れそうな距離感にいる二人は、互いに見つめ合って話していた。その間、栞の手は恭平の手を掴もうとして躊躇い、また掴もうとするを繰り返していた。
「青春してるなぁ……」
「陸、羨ましいの?」
「うーん。どうだろう。確かにちょっとは羨ましいけど、それ以上に友達の恋が進展するのは嬉しいよ」
「ふぅん……そうなんだ。意外だなぁー。陸っててっきり恋愛に興味ないんだと思ってた」
「そんなことないけど、俺には無理かなー。クラスでぼっちだし」
「なるほどなるほど。でしたらここに『学校一の美少女』という名の超優良物件がありますけどぉー?」
ニヤリと口角を上げた小春は腰に手を当て、モデルみたいなポーズをとった。そして挑戦的な上目遣いを向けてくる。サッと揺らした前髪からは、シャンプーのいい匂いが漂ってくる。
「はいはい。小春はかわいいねー」
俺は微笑み、小春の頭をポンポンと撫でて小春の冗談を流す。すると小春は頬を膨らませてジト目を向けてくる。
「むぅ……わたしは本気なのにぃー!」
「フフッ……それは光栄だなぁ」
「信じてないなーもぉ……」
ため息交じりにジト目を解く小春。ちょうどその時、前の客が注文を終えた。
「お次の方どうぞ」
俺と小春はそれぞれ違う種類のハンバーガーセットを買い、さっきのテーブルに戻った。
***
俺と小春がテーブルに戻ると、ちょうど栞と恭平もラーメンを持って戻ってきた。
「じゃあ、食べようか」
恭平の一言で、みんな食べ始める。そして、チーズハンバーガーを一口食べた小春が話題を振った。
「そう言えば、三人はどうやって仲良くなったの?」
そう聞かれて、俺と栞は恭平を見る。なにせ馴れ初めなんて覚えていないから、唯一覚えていそうな恭平に託したのだ。
「小学三年生でおれたち三人とも同じクラスになって、たまたま席が近かったんだ。それでグループワークや給食で一緒の班になることが多くなって、いつの間にか仲良くなってたのさ」
「へぇー。そうだったんだ」
小春は俺たちが仲良くなった劇的な出来事がなかったことに、少しだけ目を大きくして驚いていた。
それもそうだよね。クールな怖ギャルにサッカー部期待のイケメンルーキー、教室の片隅にいるぼっち。こんなデコボコな組み合わせが自然と出来上がったって言われたら俺でも驚く。
「そう言う心矢さんは、陸とはどういう関係なんだい?」
「それはえっと、うーんと……秘密?」
恭平の質問に答えあぐね、小春は唇の下に人差し指を当てて首を傾げる。すると、恭平の瞳の奥に妖しい光が灯った。
「へぇ」
あ、これ、恭平のからかいスイッチ入ったな……。
「陸、おまえも隅におけないな」
「一応言っておくけど、俺たちは恋人じゃないよ?」
「ふぅんそうか。……じゃあ、心矢さんは陸のことどう思ってる?」
「ふぇっ!? わふぁふぃ!?」
急に話を振られ、ハンバーガーに齧り付いていた小春はパチパチと瞬く。それから小春は口を動かしつつ俺をじっと見て、ゴクンとハンバーガーを飲み込んだ。
「……えっと、一緒にいて楽しい人、かなぁー」
「ははっ! そっかそうか」
実質告白だろそれ! とでも言いたげに腹を押さえて笑う恭平。彼の隣に座る栞は、うえぇ……こんなののどこがいいのよ……。とでも言いたげに虫を見る目を向けてきた。
「そっ、それで? 陸は心矢さんのことどう思ってるんだ?」
笑いの混じった声で聞いてくる恭平に、俺は即答する。
「俺にとっての小春は、守ってあげたくなる──」
「へっ!? それって──」
頬を赤く染めて焦る小春と、爽やかな笑顔をいっそう強める恭平。そして白い目を向けてくる栞。三人の変化に気付かず、俺は微笑む。
「──守ってあげたくなる小動物、みたいなものかな」
「もぉー! なにそれひどい!」
「だって小春、甘えん坊でかわいくて、それでいて無茶しがちでしょ? お節介も焼きたくなるよ」
「……っ!」
その後なぜか、昼食を食べ終わるまで小春は目を合わせてくれなかった。恭平は「陸にも春がきたか」と呟き、温かい目を向けてきた。
昼食を食べ終えてしばらく、不意に栞が立ち上がる。
「心矢さん。一緒にトイレ行かん?」
「うん。いいよー」
平常運転に戻った小春をつれて、栞は二人でトイレに行く。きっと、当初栞が小春と二人で話そうとしていたことを話すのだろう。
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