22.四人での遊び
五連休の三日目──月曜日。俺と小春が待ち合わせ場所のショッピングモールに着くと、すでに栞が待っていた。
「寺川さんおまたせっ!」
小春が手を振ると、吹き抜けの柱に寄りかかりスマホを弄っていた栞は顔を上げる。
「ん。ども」
「早いね栞。まだ十分前でしょ?」
現在時刻は午前九時五十分。待ち合わせ時間は十時だ。
「いいでしょ別に。あんたには関係ない」
刺々しく俺をあしらう栞は、黒のタンクトップに崩し着して肩を出した白の英字入りカーディガン。足には黒のパンツを履き黒のショルダーバックを下げた、大人っぽくもどこか派手さの残る服装をしていた。
「寺川さんかっこいいー! すっごいおしゃれ!」
「あんがと。心矢さんもおしゃれでかわいいわよ」
「ありがとう! 寺川さんみたいにきれいな人から褒められると嬉しいよー」
今日の小春は、薄灰色のパーカーに黒のロングスカートという、素材の魅力を引き出すシンプルかつおしゃれな服装をしていた。
「言い忘れてたけど──」
しばらく栞と話してから俺の隣に戻ってきた小春は、背伸びして俺の耳に口を寄せる。ニヤッと口角を上げて、息っぽい声で囁いた。
「──今日の陸、おしゃれでかっこいいよ」
「ありがとう。小春もかわいいよ」
「もぉ……陸はすぐにそういうことを言う……」
俺の反応が思ってたのと違ったのか、小春は不服そうに頬を膨らませる。
そういうところがかわいいんだよなぁ。
なんて思いながら小春を眺めて癒されていると、不意に肩に腕を回された。
「おはよう陸。早いな」
「恭平……久しぶり。……なんか、すごい垢ぬけたね」
俺の肩に腕を回した恭平は、相変わらず爽やかイケメン面に細くがっしりとした体つきをしている。さらに落ち着いたオレンジのニットと灰色のワイドパンツを着こなし、ファッションセンスも一級品と来ている。
「ほんと久しぶりだな。学校以外で会ったのは中学以来だもんな」
「うん。高校に入ってからは電話だけだったからね」
恭平とは同じクラスだが、俺の都合で学校では恭平と距離を置いている。が、こうして久々に会えたのは素直に嬉しい。
「あんたら、じゃれてないでさっさと行くわよ」
痺れを切らした栞が、俺だけを鋭く睨みつけてくる。
「オーケー。栞は相変わらず陸には毒舌だな」
「……そうね」
恭平が話しかけると、栞はそっぽを向いた。そうして恭平を先頭に歩き出す。そんな時、小春が俺の服の裾をクイクイっと引っ張ってきた。
「ねぇ陸。最初はどこに行くの?」
「ゲームセンターだよ」
「ゲーセン! わたし行くの久々」
ゲームセンターと聞いて目を輝かせる小春。ちょっと意外かも。
「そうなんだ。小春は何のゲームが好きなの?」
「そうだねー……レースゲームもリズムゲームも好きだけど、やっぱり一番はクレーンゲームかなー。陸は?」
「俺もクレーンゲームが好きだよ。あんまりうまくはないけどね」
「おー! 奇遇だねっ!」
「うん。そうだね」
好きなものが被るのって、なんかいいなぁ……。
なんて、俺が一人で心温まっていると、小春は前を歩く恭平と栞を不思議そうな目で見ていた。
目里恭平と話す寺川栞は普段より大人しくて物腰も柔らかく、たどたどしい。
「あっ! もしかして寺川さんって目里くんのことが好きなのっ?」
「そうだよ。よく気付いたね」
「そりゃあわかるよー。だって寺川さん、女の子の顔してるもん」
「だよね」
栞って、俺と小春に何かあったことをすぐに見破ったくらい他人同士の関係性の変化に鋭いのに、自分がわかりやすいってことに全然気付いてないんだよね。
「ねぇ陸」
俺が前を歩く二人を眺めていると、不意に小春が俺の目の前に躍り出てくる。そして冗談交じりにあざとく俺の顔を覗いてきた。
「なんかこれ、ダブルデートみたいだねー?」
「ああ、確かにそうかもね」
兄妹で出かけることもデートっていう人いるからね。そう考えるとこれはダブルデートかもしれない。
「もぉ……! なんで陸はそんなに平然としてられるのさ!」
「えっ……と、何のこと?」
「陸のバカ……」
なぜか頬を赤くして口をすぼめる小春に、俺は首を傾げた。
「あ、ゲームセンターに着いたよ」
「ゲーセン……!」
ちょうどゲームセンターの前に着いたからそっちを指差すと、小春は一瞬で笑顔になり目をキラキラさせた。
「フフッ……」
小春はチョロくてかわいいなぁ……。
クレーンゲームが並んでいるだけの小さなゲームセンター。そこに入った小春はクレーンをざっと見回し、俺を振り返る。
「陸、何か取ってあげよっか?」
「それ普通俺のセリフじゃない?」
遠くのクレーンで、恭平が栞にクマのぬいぐるみを取ってあげているのを見てそう言ったが、小春は気にすることなく笑った。
「あははっ! そうかもねー。だけどわたしクレーンゲーム得意だから」
えっへんと胸を張る小春に、俺も微笑みが零れる。
「それなら、そのウサギのぬいぐるみお願いできる?」
俺は、炊飯器大のぬいぐるみを指差す。
「おっけー! 任された!」
小春は早速硬化を投入すると、口元に笑みを残したまま目を細め、真剣な表情でクレーンに向きあう。
一回目、小春は正確なアームコントロールでぬいぐるみのお尻側を持ち上げ、ごろんと転がす。
二回目、一回目で大幅に落とし口に近付いたぬいぐるみの、中心より少し落とし口反対側を掴み、落とし口に建てられた透明なアクリル板に人形を立てかける。
そして三回目、人形の接地部分を持ち上げ、見事にぬいぐるみは落とし口の中へと落ちていった。
「やった!」
小春はクレーンゲームからぬいぐるみを取り出し、抱きかかえる。
「すごいね小春。素人の俺でもわかるくらい上手だった」
「えへへっ……! 実はクレーンゲームは中学生の頃にいっぱい練習したんだー」
「そうなんだ。すごく頑張ったんだね」
そう言って俺が小春の頭を撫でると、小春はくすぐったそうに笑った。
「そのぬいぐるみはベッドに置こうか」
「うん! わたしも陸に賛成だよっ!」
小春は頷くと、両手でぬいぐるみを差し出してくる。
「はい。陸も触ってみて。これすっごくモフモフで気持ちいいよー?」
「ありがとう」
小春からぬいぐるみを受け取り、そっと抱きしめてみる。毛並みを再現するためか、もこもことした表面は毛布のように柔らかく温かい手触りで気持ちいい。それに押せば押すほど沈み込む胴体は抱き心地最高だ。
「これ、気持ちいいね」
「でしょでしょ! 陸は見る目いいねー。ありがとう」
「ううん。これを取ってくれた小春のおかげだよ。ありがとうね」
少し間があって、俺たちは同時に吹き出した。お互いお礼を言い合っただけなのに、どうしようもなくおかしかったから。
「ふっ……あははっ! なにやってるんだろわたしたち」
「フフッ……だね」
そうして俺たちが笑いやむと、恭平が声をかけてくる。
「陸、心矢さん。そろそろフードコート行こうか。もうじき混んでくる」
ついでに、恭平は景品を入れるための袋も持ってきてくれた。流石は俺の自慢のモテ男。爽やかにイケメンしてるなぁ。
「うん。そうだね」
「おっけー。ところで目里くんたちもゲーセン楽しめたー?」
俺たちは四人で──まあ主に、コミュ強の小春と恭平を中心に──話しながら、フードコートに向かった。
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