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17.眠れないっ!

*** 心矢小春視点 ***


「おやすみ。小春」


「う、うん……おやすみ」


 間も無く灯りは消え、わたしたちはお互いに背を向けて目を閉じる。普段なら五分も目を閉じていれば眠れるのだが──。


「……………………」


 ……って、寝れるわけないじゃんっ!


 さっき、転びかけたわたしをお姫様抱っこで受け止めてくれた陸の顔が脳裏にチラつくせいで全然興奮が収まらない。わたしは掛け布団に潜り、膝を抱えて丸まった。そして、声に出さずに叫んだ。


「陸あの表情はズルすぎるよぉー! かっこよすぎだよっ!」


 一緒に暮らすようになってから「もしかしてわたし、陸のこと好きなの?」って思うことはあった。そんな漠然な気持ちだった。だけどさっきのことで確信した。もうわたしは、完全に陸に惚れちゃっている。


 明日からどうしよう……陸と今まで通りに過ごすの? ううん。そうじゃないよねわたし。


 今までは、陸に女の子としてのプライドをズタズタにされたお返しに、陸をドキドキさせてやろうとからかっていた。だけど明日からは、異性として意識させるだけじゃなくて彼女にしたいって思ってもらえるように頑張ろう。


 そうだなー……今まで通り陸をからかうのは続けるとして、他に何をしたらいいんだろう……? ……プレゼントとか?


 そんなことを考えていると少しは心が落ち着いてきたけれど、それでも全く眠れる気がしない。


 ……お父さんも、お義母さんと出会った時はこんな気持ちだったのかな……? だったらいいな。


 わたしがいたせいでお父さんにはずっと苦労をかけてきた。だからお父さんにも幸せになってほしい。今頃二人で一緒に寝ているはずの両親を思い浮かべると、自然と笑みがこぼれた。


 結局、一睡もできなかった。ようやく落ち着いてきたと思ったら、時計の針は五時半を回っていた。六時に起きるわたしからすると、今からじゃとても眠れない。絶対寝坊するから。


 だけど、おかげで一ついいことがあった。


「陸の寝顔……やっぱりかわいいなー」


 普段はわたしより早く起きるせいで見られなかった陸の寝顔を拝むことができた。普段より無防備で、いつもより幼く見える陸の横顔を眺めていると、なんだか心が温まる。ずっと眺めていたい。


「あっ、いいこと思いついた」


 わたしはニヤッと微笑み、スマホのアラームを解除する。時刻は五時四十八分──そろそろ陸が起きる時間だ。


 わたしは陸の耳元に口を近づけ、息っぽい囁き声で言う。


「陸、起きて? 朝だよ?」


 そして続けざまにおはようのキスを唇──は流石にまだ早いよね……。代わりに、ちょっと恥ずかしいけど、陸の頬にキスをした。同時に、陸の目が開く。


「……んん。……小春?」


「りり陸!? お、おはよっ!」


 え? これどっち!? 今わたしがキスしたの、陸は気付いてるの?


 我ながらいきなりキスなんてやりすぎた。きっと徹夜後の変なテンションで勢い任せになっていたのだろう。


 は、恥ずかしすぎるっ!


 今更こみ上げてくる羞恥心に顔を覆うわたし。対して陸はまだ寝ぼけているのか目をパチパチさせている。


 それから陸は「あ、もしかして」と呟き、上体を起こす。


「小春もおはよう。小春の方が早いなんて珍しいね」


 そう言って陸は、わたしの頬にキスをした。


「……っ!? なななっ!? なな、なんでぇー!?」


「えっ? 違った? 外国の、お互いの頬にキスする挨拶をやりたかったんじゃないの?」


「違──」


 いや、その線で誤魔化そう!


 どうやら、陸も寝ぼけているらしい。もしかしたら素なのかもしれないけど……。


「うん。そうそれ! どんな感覚なのかなーって気になったんだよねー。あはは……」


「そうなんだ」


 作り笑いを浮かべて誤魔化すと、陸は納得したらしく立ち上がった。


「それより小春。走りに行かなくていいの?」


「うん行く行く今すぐ行くよっ!」


 わたしは勢い任せに頷き、ジャージを持って脱衣所に飛び込んだ。そして扉に寄りかかり、熱くなった顔をジャージにうずめる。


 あんなに平然とキスするなんて……やっぱり陸って、手強いなぁ……。

この話を読んでいただきありがとうございます!


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