2-08 倒されたトーレ、覚醒のララ
トーレが地面に倒れていくのを、ララはスローモーションで視認した。
箱車の後ろの収納で武器になりそうなシャベル見つけたトーレは、片方の手でふにゃふにゃになる剣もどきで威嚇をしていたが、その剣もどきのせいで、馬で逃げようとした三人は攻勢に変わる。
トーレを囲むように回り込んだ男は棍棒を握っていた。棍棒の先にある棘のついた球が禍々しい。その禍々しい球がしゅっとトーレの手元を擦り、剣もどきが地面に落ちた。
それをきっかけに、真ん中の騎馬の男は剣を落としたトーレの手をぐいっと引っ張り、箱車から身体を引きずり出した。そして背後から硬い棍棒の棘の球で、トーレは思いきり殴られる羽目になってしまった。
タッ。
トーレが棍棒で攻撃されたことにララは強いショックを受けたが、瞬時に自分の感覚が研ぎ澄まされていくのが分かった。トーレがよろけた瞬間にはもう、ララは地面を蹴っていた。姿を消したララはまた空中に高く上がる。
まるで覚醒するかのごとく、次にどう動けば良いか、高速に思考が働く。
地面へうつ伏せに倒れかけたトーレを確認し、馬に踏まれないよう敵を倒す方法と、倒す順番を空中で考える。馬が人間を踏まないように調教されているか分からない。
箱車一台分の幅に、一人と三騎が詰まっていた。
どっちにしてもこんな狭い場所に密集していたら危ない──トーレを殴った、一番奥にいる棍棒の男にララは照準を合わせた。
そこからは瞬きをするほどの時間だった。
棍棒男の前まで行くと、馬の鐙に引っ掛けている片側の足を、コンッと斜め下から小突いて外し──、
同時に手綱をスッと男の手から引き抜き──、
ララはクルッと身体をひねった勢いで、ダンッと男を道の外側まで蹴り飛ばす。
『んっ!』
ララの骨と筋肉は並外れてしなやかに曲がるため、通常では考えられないほどの弾力と威力があった。
明らかに人間ではないパワーとスピードで攻撃され、見知らぬ武器なのか動物か、想像を絞ることもできないだろう。
だが誰もいないのに一瞬で藪に飛ばされた男は、蹴られた瞬間には気を失っていた。何にやられたかも分かってはいないはずだ。
ばきばきっ!
小枝が折れ、男は藪に放り込まれた。
主人を失った馬は少し動いたが興奮はせず、地面のトーレを踏むようなことはなかった。
間を置かずララは残りの二人もコンッスルッ、クルダンッと、後方の藪に蹴り飛ばした。
『ぐぅ!』
『がっ!』
残り二人の男たちもクッションとなった藪の上で全く動かずに、そしていきなり紐で手首を巻かれた。
彼らにとってこれらは全て一瞬の出来事だった──。
後の三人は後ろ手に結ばれたため、目を覚ましてもバランスと筋力を持ち合わせていなければすぐには立ち上がれないだろう。
そして、気を失っていても動けないだけで、聴覚や視覚が生きている場合があることもララは知っている。最後まで気を抜くことはしない。
ララにとってこの覚醒感は特別なことではない。小石や栄養粒を飛ばす時にも普通に覚醒し、普段使いのようにすぐに集中と処理能力が最高となる。
男たちを少しの間そのまま放置することにし、ララはぴょんと屋根の窓から箱車に戻り、隠密を解除した。
トーレを守ることができなかったことに自責の念を覚え、苦い表情になる。
ジェレミーとララはあたかもずっと箱車の中に居ましたというように、「やった! もう大丈夫だね!」「もうやっつけたの? こわかったわ!」とわざと子供っぽく声を張り上げながら、一緒に箱車から出てきた。
「どうする? 足も縛る? それとも木にくくりつける?」
ジェレミーは口では密猟者のことを発しているが、足は倒れているトーレのほうに向かう。
「空の光が強いから、彼らには木陰で保全部が到着するのを待ってもらいましょう。トーレ、背中を動かさないようにゆっくり起こすわよ」
ララがトーレの側で跪き、顔を覗き込む。タバサとフロリアンの作った特命部の特別なシャツは、トーレをどれほど守ってくれたのだろうか。穴は空いていなく、血もついていない。でも確かに骨が軋み、筋肉が潰れる音がララには聞こえた。
「ぐっ」
棍棒で殴られた痛さを味わいながら両脇を二人に支えられ、トーレは静かに身体を起こす。
まぶしい空の光は、箱車の正面で地面に倒れている髭の男と、道端の藪の上に綺麗に乗っかっている三人の足元を照らしていた。
渋い顔になったトーレはなるべく身体を動かさないように、少し前屈みのまま無言で立ち尽くす。
自分が地面に伏せていたほんの短い間に、密猟者が全員倒され縛られていた。
信じられない光景を目の当たりにし、混乱しているのか聞きなれない言葉を発する。
「⋯⋯いずくんぞ⋯⋯」
「(ララが全部やったんだよ。武器は使ってないからね)」
男たちに聞こえないようにトーレへこっそり伝えるジェレミー。
「知らんや⋯⋯」
トーレはまだ『分からないが、分かった』と流せない。この状況が信じられないようだった。
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