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2-07 シークの出番、ララの隠密

 先頭の男が仲間に合図を送ると、三騎が近寄ってくる。


「可愛いなぁ、俺好みだ」


 後ろの真ん中にいる低い声の男が、馬上から声を掛けてきた。ララとの見た目の年齢差は十歳以上あるだろうか。声色も表情もニヤニヤしている。赤茶色の長い髪はぎざぎざに切られていた。


 ララは生まれて初めて全く知らない男性から可愛いと言われ、なんだかとても嬉しくなり、最高の笑顔を返してしまう。でも今はそれを噛み締める状況ではない、密猟の容疑者たちだ、気を引き締め笑顔を消し、小さな口に力を入れた。こんな顔でも可愛いと思ってくれるだろうかと思いながら。


「おいっララ、中に入れ! ジェレミーも出るな!」


 剣のないトーレは武器になるものを探そうと、二列目の座席から背もたれを乗り越え、三列目に移動した。そこからすぐ後ろの収納スペースに手を伸ばす。今、後部の扉は他の箱車で塞がって外からは開けない。


 風が少し吹いている。男たちのほうからする濃い匂い、馬に載せた荷物の袋の汚れ──確定だ。


「アイスタニアの言葉は通じるのね」


 箱車の屋根の上に立つララは大声で男たちに喋りかける。

 しかし次はニルラ共和国の言葉だった。


『ここは保護地域よ。狩猟は禁止されているのだけど』


 ララと向かい合った四人の表情が変わる。


『(何だよ、バレてるじゃねーか。どういうことだ?)』

『(お前誰かに言ったのか?)』

『(何で俺なんだよ!)』

『(慌てるな、ただのはったりだ。全て隠してあるんだ)』


 声を潜めて仲間内で会話をするが、もちろんララには丸聞こえだ。

 右端に居る男は、マントの隙間から武器が覗かないよう前の布を手で締め合わせる。

 左端の男はマントのフードで目元を隠した。


 先頭のサークル髭の男は前を向いたまま後ろの三騎に指示を出す。

『(ずらかるぞ。左だ)』


 道は箱車で塞がっているが、脇に生えた木々の合間には馬の通れる余裕があった。

 後ろの三騎が迷いなく馬を移動させる。動きが商人ではない、隠した武器に手をまわす者もいた。


『きゃーこわい! 私、中に入るわー!』

 棒読みなニルラ語が、しゃがんだララを修飾する。


「くっそ、シャベルが取れない」

 箱車の後部からは、収納スペースに左手を伸ばしているトーレの一人言と、座席三列目の扉を開けて右手でシュッシュッとあの剣もどきを振り回している音が聞こえる。殺傷能力ゼロのくせに、振り回す音は本物の剣のようだった。


「(シーク、布を1枚ちょうだい。合図を出したら隠密ね)」


 ララはすぐに行動を起こす。

 シークと出会って十三日目、パレスの自分の部屋で姿を消す練習はしていたが、実戦での連携は今日が始めてだ。まさかアイスタニア王国内でこんな状況になるとは思ってもいなかった。


 男たちの視線がララから離れたとき、すぐにふわふわスカートのボリュームが減り、代わりに布が左手に現れた。


 しゃがんだままのララは布を両手で広げ、身をさらに隠す。


「(隠密(おんみつ))」


 男たちには聞こえない微かな声で指示を受けたシークは、ララの姿を消した。


 タッ。


 箱車の屋根の上から、助走もない軽い跳躍でララは高く舞い上がった。

 その姿は誰にも見えない。


 主人のいない布は風にあおられたように、男のほうへふわっと飛ばされていった。

 あまりにも自然な舞いかたで、風とは逆の流れで動いていることに男は気づかない。


 スッ。


 山なりの軌道を取り、空中で横に半回転したララは、男の背後に回り込む。

 ゆっくり飛んできた薄い布をさっと掴み、ララは降りながら両手で布を広げ、男の頭から胸までを覆うようにクッと巻きつけた。


「んんっ!」


 男はぐらりと重心がずれ、馬から落ちそうになる。でもぎりぎり落ちていない。

 (あぶみ)に引っかかった足先でなんとか踏ん張り、落ちないように頑張っているが、もう死に(たい)だ。


 上半身を(くる)まれたまま足と腹筋で身体を起こそうとしている男は、肘を上にあげられなかった。

 身体はもう地面に近いため、布を外して手を伸ばせばすぐに地面に届くはずが、なぜか全く布が剥がせない。


 そう、武器にはならないが、シークは強かった。


 地面と平行するような横向きのモゾモゾ姿が、男の筋肉頼りで保っているのがよくわかる。馬もよろよろし始めた。ずっと鑑賞していたい愉快な光景だ。箱車の中にいる笑顔のジェレミーは、前のめりで釘付けになっている。


 そしてなぜか急に──

 ──男の足の付け根、内股がくすぐったくなった。


「くはっ!!」


 とうとう耐えられず、ビクビクッと脚を震わせながら、低い声の男は馬から落ちる。なんとか頭を庇うように落ちたが、急所に強い痛みを感じ、うっと声を上げながら背中を丸めて気を失った。


 ララの早技により、細い麻紐で手首を一瞬で縛られる。


 ジェレミーは落ちそうでなかなか落ちなかったリーダーの男を見ながら大笑いしていたようだ。こっち(・・・)を見ながら顔を歪ませてお腹を抑えている。


 シークだけに聞こえる小声で 布シークを引っ張りながらララは言う。

「(シーク、布解除)」

 ララの身体は消えたままだが、男にへばりついていた布はさっと消えドレスの一部に戻った。


 と、その時、

「えっ」

 耳に入ってきた音にララは驚く。


 骨が(きし)み、筋肉が潰れる音だった。


 他の男たちのほうに視線を向けると、トーレが馬上の敵に背後から棍棒で殴られていた。

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