表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/40

2-03 露天休憩所でシャワーを浴びよう

 シークと同じように、王族の作った箱車にもクーリングタイムというのは必要らしい。

 ララたちの乗っている箱車でも、操作板が適度に休憩の提案をしてきていた。


 パレスから近隣の町に移動するにもそれなりに長距離なため、人間にも休憩は必須だ。

 そこで国が作ったのは箱車で泊まれる露天のスポットだった。


 このアイスタニア王国は広大な国土面積だが人口密度がかなり低い。大陸の中央には砂の海が広がり、民は温暖で住みやすい沿岸部に集中している。

 植林をしても維持しにくい地域が多いため、休憩所には大型箱車五台ほどの屋根を設置し、そこにはテーブルと、座ったり横になれる縁台も用意があった。


 ララたち三人を乗せた箱車は、パレスから目的地アデルーンまであと三分の一ほどの距離にある、国が管理している露天休憩所に着いた。


 今日はこれで走るのを終わりにし、朝までとどまることにする。ララは平気だが、トーレは身体の作りが違う。


「箱車、今晩はここで休むわね。ジェレミー、これでいいの?」


「多分ね。僕、御者をやったことがないから。レオーネ兄さんの車しか乗ったことがないんだ。あの人性急な行動が基本だから、朝まで休むなんてことはしないからね。夜中だって〝ちょっと休んだら走る〟の繰り返しさ。王族は休まなくて大丈夫だから、箱車のほうに合わせて休むだけ」


 ララは操作板というものを今日初めて操作した。

 王族が作った小さな額縁のような操作板は、木枠の中に紙が挟まれている。

 ララがシークで服を設定する時に、タバサがデザイン画をたくさん入れてきたのも操作板だ。あれはこの箱車の操作板よりもいい物だ。三十もの服のデザイン画が記憶されていた。

 こちらの箱車の操作板は、登録された者が一定期間指示を出せる。紙には短い返事のような文字が浮かび上がり、簡単なやりとりができる。


 いままで白い紙のようだった操作板の中心部は、本の装丁のような見た目に変化した。まるで本を閉じたみたいだ。


 箱車から降りる三人。

 外側に柱が六本立った長方形のエリアには、ララたちの箱車四台が停まる。


 夕方になると気温が下がり気持ちのいい風が疲れた身体を癒す。

 空にはもうすぐ落ちそうな光と闇が織りなす幻想的な色の下、鳥が急降下や乱舞をするように飛んでいる。もう繁殖期なのかもしれない、ジェレミーはしばらく目で追っていた。


 この休憩所は王族でバリヤーの能力があるものが作っているため、野生動物が襲って来る心配もない。安心してゆっくりできる。


 しかし、この最高の休憩を味わえていない者が一人。


 縁台の上で、トーレは横になっていた。


「後ろ三台の箱車がちゃんと付いて来ているか、しょっちゅうきょろきょろしてたからねー」

「すまなかった⋯⋯」


「トーレ、明日も酔いにくい設定にして走りましょうね」

「ありがとう⋯⋯やさしいな⋯⋯」


 ただでさえ舗装されていない荒野だ。騎馬には慣れているトーレでも、でこぼこ道の揺れと後ろ三台の確認ですっかり酔ってしまった。


「お酒は無いから酔えないけど、車で酔えたね」

「種類が違うんだが⋯⋯」

「もう、ジェレミーったら! そうだトーレ、パレスで大使たちと食事をする機会があれば、ワインだったら飲めるかもしれないわよ」


 トーレは細く開けた目で姫を見る。気持ちが悪い時に別の酔う話をする姫が可愛い──と思えるまで、吐きそうだった状態から早くも回復してきた。


 ララはトーレの目の上に手をそっと置いたり、耳や頭を自分の両手で包む。パレス研究棟に居る、寝車(ねぐるま)のカミルとは違う感覚だったが、こうすればトーレの酔いが和らぐような気がした。


 空の光はほぼ隠れ、停めてある箱車の前照灯と、中の灯りもつけた。


 この露天休憩所にはシャワーも設置されている。もちろん七つ星の印が刻印されている王族特別製だ、少し離れた横には火を起こせるスペースもある。


「かなり楽になった。もう身体を起こして会話もできそうだ⋯⋯」


 仰向けのトーレが深い呼吸をする。


 ララは吐き気が治まったトーレの胸に手を置き、箱車の正面についている星印の彫刻を見ていた。


「この箱車(はこぐるま)にはシートベルトがないのね⋯⋯」


 ララは三日間眠り込んだときに少しだけ思い出した別の生の記憶から、つい自動車と比べてしまった。家族と車に乗っていたが、家族に関することは全く思い出せてはいない。アイドルの歌をうたっていたことと、車に関する情報だけ頭に残っている。


 しかしこの箱車は安全だ。今日乗っていて、スピードも進路も、事故を起こすような動きは感じられなかった。


「必要ないわね」ララは一人で答えを出す。


「ベルトなんて何に使うの? あ、荷物を留めるのにいいよね。酔って横になったトーレも固定できるし」


 ジェレミーの言葉を聞き、トーレはゆっくりと身体を起こす。


「俺は荷物か。でも本当に便利だな、この箱車。御者なのに何もしなくても走り続けるし、雨と土埃を気にしなくていいなんて。なんだか作りもかなり丈夫な気がする。馬車とはがたつきが違うんだ。さすがに大砲にやられたら壊れるかもしれないが」


「あははは、大砲なんてこの国にあるわけないのに!」


「トーレったら無駄な心配ね、ふふふ」


 二人は笑い出した。大人目線の疑問を投げかけたつもりが、軽くディスられた気分になったトーレだった。



 空の光が落ちたあと、露天休憩所で三人はシャワーを浴びていた。周りには別の箱車も人も見えない。


 壁は無いが三人とも服は脱ぐ。熱い気候、身体を清潔にする習慣のあるアイスタニア王国では自然な光景だ。

 この状況を取り立てて言うなら外国では危険、アイスタニアなら安全、それだけだ。

 ここには強盗や人さらいも存在しない。

 兄弟のように過ごしてきたリリアーナ、ララ、アリー、ジェレミー、ランドールもよく一緒に水浴びをしていた。

 ハクラスカ王国で育ったトーレも全く抵抗なく服を脱ぐ。


「この石鹸は昨日セルソから貰ったんだ、皆で使おうね。春にとれたばかりのヒヤシンスの香りなんだって」


 一番にシャワーを浴びたジェレミーが、さわやかで甘い香りを発している。


 セルソは失礼の(かたまり)な発言で周りをひやひやさせる研究者で、サルヴァドールのいとこだ。研究棟見学会の時にはサーラン王国にいきなりかまし(・・・)ていた。


 二番目にララがシャワーを浴びようとしたところ、ちょっとした問題が起きた。ララの銀色下着シークは、人前だと脱げない仕様になっているようだった。

 仕方がないので下着を着けたまま、シャワーを浴びている。こうなったら手を突っ込んで洗うしかない。


 猫柄の下着はララが触れれば伸びるが、ジェレミーが試しに触ったらびくともせず、しかも銀色は硬くなった。シーク製作者の意図が含まれているのだろうか、徹底的に守られている。


「ララは何故着たままシャワーを浴びるんだ?」


 次にシャワーを浴びるトーレがズボンを脱ぎながら疑問を口にする。もうシャツは脱ぎ終えているので、あとは下着だけだ。


 シークのことは言えない。しかしララは嘘をつく習慣がなく、誤魔化すことも不得手だった。


「ええと⋯⋯下着が私を守ってくれているような気がするの」


 先に浴び終えたジェレミーは自分の下着を履きながらトーレに淡々と伝える。


「王族の意思が詰まった下着なんだ。貴族のトーレは関係ないというか、王族の秘密だからそっとしておいてくれないか」


「王族の意思と秘密⋯⋯よくわからないが、わかった。もう触れないでおく」


 トーレには王族という枕詞を付ければ何でも丸め込めるとジェレミーは気づき始めていた。王子も下手な嘘や誤魔化しはせずにシークの事を隠し、姫とともに貴族へ頷いた。


 最初にシャワーを浴び終えたジェレミーは濡れた髪を掻き上げる。おでこをだして、シャツを着る前の身体にはまだ少し水滴がついていた。

 身体を洗った後の男性はイケメンに見えるといわれるが、もともと美少年のジェレミーもいい感じに格好良くなっている。


 しかしせっかくの美少年も、ララにはそう思ってもらえていないようだ。


 ララにとってシャワーを浴びるのはただの作業であり、まだ特別な感情も抱いてはいない。


「ジェレミー、ヘアブラシ貸してくれるかしら」


「いいよ、袋に入ってる。ララ忘れちゃったの?」


「ううん、持ってこなかっただけ」


 ジェレミーはその言葉に違和感を覚えた。


 目の前のお姫様はずぶ濡れの猫のように、雫をぼたぼた垂らしながら佇んでいる。


 箱車の収納から荷物を取り出したついさっきの光景を思い出そうとするが、おかしい、ララの荷物の袋があったかどうか記憶にない。ジェレミーの顔に恐怖の表情が浮かぶ。


「⋯⋯そういえば出発の時も、何も持っていなかった?」


 ララがえへっと肩を上げた。ずぶ濡れで顔にへばりついた髪の隙間から、屈託のない笑顔が覗いている。


「もしかして僕がララを慌てて引っ張ってきちゃったからかな⋯⋯」


 泡で身体を擦っているトーレが動きを止めた。水の滴る美青年が眉に皺を寄せ、ララに睨みを利かせている。


「ううん、初めから荷物は用意していなかったわ」


「てっ、手ぶらぁー?」


 ララの衝撃的な言葉に、ジェレミーは大声を上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ