第5話〜危機〜
こんにちは!
新田洋次郎です!今回も楽しんでいただければ幸いです
(なんだここ…安心する…)
史郎は今、全身を包み込むような温かさに包まれていた
その温かさはまるで布団
もう目を開けたくない
「んんっ…」
何とか目を擦って起きようとする
しかし、体温高めの手がその手を止める
「もう少し寝てても良いんですよ?」
高めな声
少しジトっとした雰囲気を感じる
「この声は…」
史郎は目を開ける
そうすると視界全面に満面の笑みを持った美女の顔が映る
その顔は史郎と目が合うと更に笑みを深める
「やっほ〜♪」
「……真奈…」
「緋色真奈」
彼女は傑雄大学2年であり、史郎と同じ文学部に所属していた女性
学園のマドンナであり、高嶺の花として崇められていた
そんな彼女は今、史郎に膝枕をしていた
「いや〜モテモテだねぇ〜♪私としても嬉しい限りだよ〜♪」
「意味…分からねぇな…」
「分からなくて良いよ〜♪いずれわかるからさ〜♪」
彼女は史郎とは友人をキープしていたが、かなり不気味な女だった
史郎がカラビナ、凪璃と肉体関係を持つようになったのは彼女の吹き込んだことにも関係している
それほど彼女は史郎の人生に関わっている
「じゃ、この端末は預かっとくね〜♪」
いつの間にか真奈の手には坊の端末が握られていた
彼女はそれを懐に仕舞うとそのまま史郎を立ち上がらせる
「いや…俺が返す」
「ダメダメ〜君は違うことしなきゃ〜♪今、選択肢は出ないでしょ?」
「ッ!?」
(こいつ…なんで?)
「あ〜!今乙女の秘密を探ろうとしたでしょ!ダメだよ〜乙女は秘密と嘘がアクセサリー!」
史郎の[アバター]について何故か知っている真奈
問い詰めようとするが、先に真奈に口を抑えられる
「じゃあ、頑張ってね?」
口を抑えたまま、真奈は史郎をポンっと押す
史郎は急速な勢いで後ろに引っ張られていく
「君は…こ……ね」
真奈が最後に何かを言う
そのまま史郎は意識が途切れる
「はっ!?」
史郎は布団から跳ね起きる
何か夢を見ていた気がするが気のせいだろうか
(そうだよな…あんなに立て続けに会いたくないやつに会うわけない……)
しかし、しっかり覚えている煌木に口羽、カラビナに凪璃、真奈との出来事
(はぁ…)
史郎は時計を見る
時間は4時15分
日にちは翌日になっている
「ちょうどいい時間か…」
史郎はそのまま着替える
今日は扉に鍵がかかっていない
(あの人が手配してくれたのか)
そのまままた本部の中庭へ向かう
そこには数人の男女と部隊長の男が立っていた
「ふん。遅れずに来たか。では出発する」
史郎が質問する隙もなく、部隊長の男を先頭に歩き始める
そのまま入口に止まっているバスに乗る
「失礼します…」
「……」
史郎は空いている席に座る
その際に隣に座っている人に声をかけるが返事は帰ってこない
(気まずいな…)
そのまま車は走る
車内で会話は一切ない
(話そうにも誰も話してないしな…)
そのまま時間だけが過ぎていく
窓もないバスでは外の様子は分からない
数十分か…数時間か分からないほど時間が経った頃、バスは速度が落ちていき、停止する
「降りろ」
部隊長の男の指示に従い、バスから降りる
そこは崖
空は赤く、冷たい風が吹いている
「ここでやるんすか?」
「…………」
史郎の問いかけに誰も答えない
史郎は一番後ろにいるが、何か嫌な雰囲気を感じる
「おい透晶級。そのまま前に出ろ」
部隊長の男に言われるまま、史郎は1番前まで歩いていく
視線が痛い
「ここで…何をすればいいッ!?」
史郎は1番前に来ると部隊長の方を向き何をするのかと聞こうとした
しかし、振り向いた史郎が見たのは10丁の銃が向けられている光景だった
「な、何を…」
「平和ボケしてるのは本当だったんだな。本当にお前みたいなゴミを戦闘に参加させると?」
部隊長の男は蔑みの視線を隠そうともしない
他の隊員もくすくすと笑う
(いや…最悪の可能性で考えてたけど…まさか本当になるとは…)
史郎は「廻」を使って身体強化しようとする
しかし、その瞬間に肩を弾丸が貫通する
「ッグゥ!?」
「オーラ操作なんて見え見えなんだよ。お前ら全員撃て」
そのまま全員からフルオートで射撃される
「丗」も間に合わず、全身を撃ち抜かれる
「ッが…」
血塗れの史郎はその場に仰向きに倒れる
もはや身動きすら取れない
「はぁ…そのまま落ちてくれたら楽だったのにな」
部隊長の男が史郎の襟首を掴むとそのまま崖の方へ引きずっていく
「あ…や…」
「ったく…手間かけさせやがって」
部隊長の男はそのまま崖の淵に立つと史郎を宙に放り投げる
史郎の体はそのまま弧を描きながら崖下へと落下していく
「よし。これで上からの命令も終わった。みんな帰るぞ〜今日は早上がりだし焼肉だ」
隊員は歓声を上げる
人を殺したとは思えないほど皆和気藹々としながらバスに帰っていく
部隊長の男は崖の底を眺めるとそのまま帰っていった
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橘side
史郎達来訪者が来て半年
橘はようやく本部へと帰ってきていた
数ヶ月の防衛任務
「橘さん!帰ってきてたんですね!」
「ああ。私が居ない間にも頑張っていたようだなね」
その間も来訪者達の訓練の様子を聞いており、情が湧いた彼女にとってはその報告はかなり癒しになるものだった
「そういえば…畑田は?」
橘は来訪者の中でも特に畑田史郎を気にかけていた
だから橘の元へ来ていた子にも聞いた
しかし、彼女は気まずそうに視線を泳がす
橘は少し違和感を覚える
そして、来訪者の彼女は恐る恐る口を開いた
「あの…彼なんですが…」
「どうした?」
「訓練すらせずに逃げ出したと言われてて…」
「は?待て。私はたしかに訓練を指示したが………はぁ…まぁいい。畑田の部屋は何処だ?」
「あっちです」
彼女が指差したのは本部の寮ではなく、別館
それを見た橘は何かを理解し、頭に手を当てる
「もういい。やることができた。失礼するぞ」
橘はそのまま彼女の横を通って本部に入る
そのまま階段をのぼり、最上階の最奥にある部屋の扉を蹴破る
「なっ!?誰だ!?」
「橘第1部隊長!急に押しかけるなんて無礼じゃないか!?」
「黙れ。今その椅子に座ってる老害に話があるんだよ」
橘はそのままツカツカと椅子に座っている男性に近づいていく
彼は少し怯えながらも姿勢を正す
「軍隊長。言いましたよね?畑田史郎に専属の訓練をさせてやって欲しいと。透晶級の彼がこのまま放っておかれるなんてあんまりだと」
「確かに言っていましたね…しかしあのようなゴミに時間と人材、資金を割くよりも他の来訪者を鍛えた方が…」
「それで?畑田を別館に移したと?」
橘は一定のリズムを続けながら軍隊長の前で話を聞く
しかし、軍隊長はそれ以上の言い訳じみた言葉を口に出さない
「はぁ…まぁいい…なら私が育てる」
橘は見切りをつけると軍隊長室から出ようとする
しかし、ある1人の男に呼び止められる
「畑田ならもういねぇぞ」
「……どういうことだ?」
「あいつ、身の程を知らずに訓練に参加したいって行ってきたんだ。自主練で自身もあったようだったし、いっちょ戦闘に参加させてみたんだ」
「何?」
橘はその男…第2部隊長「阿部」の言うことに眉を顰める
「戦闘に参加させた?まともな訓練も受けさせずに?」
「ああ。オーラ技術は人並に出来てたし腕試しだよ腕試し。そこで生き残れば俺の訓練を受けさせようと思ったんだが…ッ!?てめぇ何しやがる!」
橘は阿部の首を掴み、壁に叩きつける
橘の膂力は壁に阿部がめり込むほどだ
「てめぇ…嘘言ってんじゃねえよ」
「う、嘘?何言っ…グゥ!?」
「腕試しじゃねぇだろ?お前…畑田を殺すためにそこに行っただろ?」
「ハハッ……デタラメ…言いやがって…」
鬼気迫る表情の橘
それに対して阿部は首を絞められて苦しそうだが、まだ余裕そうだ
「フンッ…」
橘はこれ以上は時間の無駄だと判断し、阿部を放り投げる
阿部は様々な観葉植物を薙ぎ倒しながら地面に倒れ伏す
「もういい。お前らに何を言っても無駄だな」
「どうするつもりだい?」
「畑田は…もう助かってないだろう…なら、あいつの友を生かすために鍛えるのが私の使命だ」
橘はそう言うと軍隊長室から出る
橘は拳を握りしめ、本部の寮の方へと歩く
「橘さん!お久しぶりです!」
訓練場で訓練をしていた煌木が橘に気づき近づいてくる
他の来訪者達も橘に気づくと近寄ってくる
「久しぶりだな。元気だったか?」
「はい!橘さんがいない間もしっかり鍛えてました!明日から任務に着いていけるそうです!」
「そうか…」
半年…早いものだが、若者の彼らは吸収が早く、ほぼほぼの人が軍人に引けを取らない戦闘力を保有している
「1つ聞きたい。お前らは畑田をどう思っている?」
「畑田…ですか?」
皆の雰囲気が変わる
皆、互いに目を合わせ、なにかコソコソと言い合っている
そんな中、煌木が声をあげる
「あいつは1人だけ逃げた卑怯者です!訓練もせず、人にまで暴力を振るうんです。口羽も東京にいた頃、彼氏でもないのにストーカーされて、暴力を振るわれていると言ってました!」
まるで確信しているかのように言う煌木
周囲の反応を見ると煌木ととくに仲がいい佐藤やその取り巻きはニヤつきながら頷いてそうだそうだと便乗している
他の来訪者は特に頷くなどはしないが、コソコソと畑田の悪口を言っている
「どうした口羽?体調でも悪いか?」
そして、名前の出た口羽だが、顔を青くし、下を見つめている
「橘さん、口羽が体調悪いようなので医務室に連れてきます」
「そうか」
周りの女子に心配されながら佐藤と口羽は去っていく
橘はその背中を見つめる
(あの反応…何かあるな…それに…)
橘は煌木の方を見る
先程の言動、視線の動き、声の抑揚、動作…全てにおいて疑っている時に起こる反応が無かった
完全に言い切っている動きだった
(だが…それだと阿部の話と矛盾するな)
阿部は畑田を殺すために誘い出した
しかし、訓練から逃げていたのなら訓練に参加させて欲しいなどとは言わないだろうし、それの条件としてついて行き、死ぬこともなかっただろう
(やはり…何かがおかしいな)
橘は感じていた違和感を確かなものにする
(畑田が訓練を受けることすら出来ず殺された…あの小物がそんなことを思い切るなんてありえない。なら…外部からの思惑が働いている?)
もし…もしもこの来訪者達の中にある因縁があるとしたら…
もし…その因縁が人の命を奪うところまで来ているのなら…
(私は…必ず止めなければならない…止めなければ…畑田も浮かばれない…)
橘は1度深呼吸をし、気を整える
そして、目を開けて今目の前にいる来訪者達に向けて言葉を発する
「明日からの任務への同行…全員私たちの部隊に異動にする。準備をしておけ。私の部隊は生温くないぞ」
「「「はい!」」」
一斉に散り、荷物を持って寮に向かう来訪者達
橘は覚悟を決める
もう…彼の二の舞は起こさないと
自分たちが巻き込んでしまった…若者をこれ以上死なせないために
読んで頂きありがとうございます
読んだ後に良かった点や気になる点を感想に書いたり、評価してくれると嬉しいです
では、また次のお話で!




