35話 一方的な理不尽
「あなた! なにをしたんですか?」
この魔人が何かを言った瞬間、わたし以外の三人の意識が立ったまま無くなる。
「少し、話でもどうだ? このスキルを使っていると力が制限されるんだ。それにオレはお前を殺せない」
「なにを――」
「オレはオークリア魔王軍幹部だ。十年前にも名乗ったがな。教えてやろう十年前お前の身に何が起きたのか」
「わたしの魔力が増えないのに関係しているんですか」
「ああ、オレのスキルは対象者の能力、体、目的のどれかを奪うことができる。拒否権はない」
なんてでたらめなスキル。わたしの魔力も……
「だが、奪えるのは一部。それはランダムだ。例えばお前の場合は運が悪かった、幼かったお前は訳が分からず能力を選択した。そしてその能力のうち魔力が選択され99,9%の魔力をオレに奪われた」
「運が悪かった?」
「ああ、能力にだって色々ある。お前の場合は魔力コントロールの才能もあったからそっちが選ばれる可能性があった。実際、魔力が選ばれたわけだが取れる量もランダムで決まる。大体は30%くらいだな。それが運悪く、オレから見れば幸運にも99,9ってわけだ。お前が成長していくたびにオレの魔力はどんどん増えていった、今も増え続けているぞ」
こいつが、こいつのせいでわたしは……
「それなら、なぜ私の魔力は増えないんですか?! たとえ0,1%しか残っていなくても増えるはずでしょう?」
「身体と同じだ。体が心が成長するためにはエネルギーが必要、魔力にも増えるためにエネルギーが必要なわけだ。お前の残りの魔力じゃ消費された分と増えた分が同じなんだろ。普通の人間は魔力が少ししか増えないだろ、これはもともとの魔力量に比例している」
「それでわたしが死んだら、その魔力がなくなるから殺せないってことですか」
「そんなところだな。いやぁ非常に便利でな、魔力はなかなか取れないから集めるのがめんどくさいんだが、お前のおかげでこの十年魔力にこまっていないんだ」
なんだそれ。
じゃあ、わたしの魔力じゃなくても集めれば結果的に同じってこと?
「かえせ……返せっ!」
わたしは石弾を撃ち込む。
撃ち込まれた石弾はオークリアの魔力障壁に当たり、くだけ落ちた。
「やるな、その魔力量でこれほどの威力をだすとは。それであとほんの少しでも魔力があればな」
「だれが……あなたが奪ったくせに! よくそんなことが――」
「たいていの人間はなんの才もなく生まれ、死んでいく。お前は魔力コントロールの才能があるんだ。それだけでも感謝すべきだろう?」
「あなたが下らない理由でわたしから魔力を奪わなかったら、今頃は……」
「奪われたのが現実だ、仮定の話など聞く気はない。お前はもう失せろ、もう必要ない」
「ええ、たしかに記憶がなかろうと、幼かろうと力を奪われたわたしの責任です。そういう世界でした。でも、わたしは勇者一行としてあなたを倒すまで、ここを離れる気はありませんよ!」
――冷静になれ。
力を強制的に奪われるだけなんて理不尽すぎるスキル存在するか?
最強である勇者のスキルだって強制させるようなものはないぞ。
あいつは急に現れ、色々説明してから消えた。
そもそも、なぜ説明をしたんだ。あいつが欲しいのは能力だろ?
あんな説明をしたら大抵のやつは能力以外を選ぶんじゃないのか?
直感的には夢だ。俺には叶えたい夢なんてないからな。
だが、一方的に奪われるのは癪だ。納得いかない。
この道はあいつが色々と説明してから出てきた。
「色々と考えているようだが気をつけろよ。今この瞬間も現実の時間は動いている。お前の体は棒立ちのまんま無防備な状態だ。悩むのは自由だが現実の体が死んだらお前も死ぬからな」
こんどはせかすための説明か。
こいつが嘘をついている可能性もあるが、真実ならば説明するメリットがない。
説明せずに訳の分からないまま選ばせた方が、あいつにとってメリットが大きい気がする。
説明しなければならない、説明したら道が……
説明がこの道の発動条件? 試してみるか。
「オークリア! お前は夢、夢を叶えるための才能、夢を追うための肉体。さぁ何を失う?」
「チッ! 引き分けだ。この儀式はこれで終わり」
ビンゴか。
俺が目を開けると、まぶしい光が入り込んできた。
「どうやら戻ってこれたみたいだな」
「ソウマ! よかったです」
他の二人はまだ帰ってきていないようだな。
「ユフィナ大丈夫か?」
「はい、あいつはわたしを殺せないようです」
奪ったものは相手が死ぬと使えなくなるってとこか。
「もう出てきたか、しかもルールに気付いたようだな。一方的な理不尽に黙って従うほど馬鹿じゃなかったか」
「あの空間では平等に権利が与えられる、それをお前はあたかもお前だけが奪う権利があるように見せかけた」
「正解だ、そしてお互いの合理的一致により儀式はなくなる」
「なぜ普通に嘘をついてだまそうとしなかった?」
「簡単だ、あの空間で嘘はつけない。そして同じ人間を二度空間内に引き入れることもできない」
なるほど。だが、これであいつはオレを殺す以外に選択肢はなくなったというわけか。
「ソウマ……やはり、わたしの魔力はあいつに奪われていました」
「なあ、お前を倒したらユフィナの魔力はどうなる?」
「倒したら? 不可能な仮定の話に何の意味がある?」
「めんどくさいな、魔力が戻ってくるってわかったらモチベが上がるって話だろうが」
俺はオークリアの足を拘束する。足が拘束された瞬間、発砲音と共に銃弾がオークリアめがけて飛んでくるが、見えない壁に突き刺さり失速する。
「お前のスキルはオレの障壁関係なしのようだ、それに魔力のこもっていない鉄の塊……魔力なしでこの威力? アーティファクトか?」
そんな高尚なものではないがな。
「ソウマ、あいつは半径二メートルの魔力を完璧に支配しています。多分スキル攻撃以外にあいつを倒す方法はありません」
やっかいなやつ。
ミトハとエルナの意識はいまだ戻らない。




