34話 その魔人は
俺たちの前にその魔人は現れた。
赤い肌に金色の長髪を後ろで一つにまとめている青年。
一目でわかる、他のやつとは違うと。一瞬、こいつが魔王なんじゃ?と思ったほどのオーラ。
情報のない魔王軍幹部のうちの一人だろう。
今までの幹部たちは確かに強かったが、精神的には脆かった。
ミトハの話を聞く限り、イグニスもそうだろう。実際、誕生してから半年なのだから当然なのだが。
大きな力を持ってしまった子供という印象だが、目の前のこいつは違う。
セレスタと同様に何年も生きてきたことで滲み出る貫禄のようなものを感じる。
他の皆も似たような感覚なんだろう。目の前の男から目を離さない。
「これは中々の粒ぞろいだな、こんな馳走は久しぶり――」
一人でべらべらと話していた魔人はユフィナを見て、話を止めた。
「おまえは、たしか……十年位前に魔力を奪ってやった小娘じゃないか?」
こいつ今何て言った? 奪った、こいつがユフィナの魔力を?
「それは……どうゆうことですか?」
「どうゆうって……そうか、そうか人間は幼いころの記憶を忘れる仕組みだったな」
俺は話している隙にエルナが岩が飛んできてできた影に潜むのを確認する。
「話してやってもいいが、それはお前ら全員から奪ったあと特別講義を開講してやるよ」
「ふざけないでください!」
ユフィナは石弾を取り出し魔人めがけて撃ち込んだ。
撃ち込んだ石弾はあっさり躱されるが、そのスキにエルナが影から飛び出し背後から追撃を行う。
だが、魔人は躱した勢いのままエルナに蹴りを放ち、エルナを吹き飛ばした。
「エルナ! 大丈夫か?」
俺は彼女のもとに駆け寄る。
「はい……あいつは魔力探知を自分から半径二メートルほどに絞っていました、遠距離攻撃のほうが効果があるかもしれません」
どんな攻撃でも二メートルもあれば防げるというのか。
「『ラス・デトラヘレ』」
――俺は気が付くと辺りは暗く、足元だけが光っていた。
「ようこそ我が祭儀へ」
俺の真横にさっきの魔人が立っている。
俺はとっさに短剣を投げつけるが、剣は魔人をすり抜け暗闇に消えていく。
「はぁ、ここは精神世界だぞ? 物理攻撃は意味がないぞ? もちろん、こちらからもな」
精神世界? こいつのスキルか。やっぱり幹部のようだ。
「お前は?」
「オレの名前はオークリア・アヴァラティア。魔王軍幹部なんてのを何百年とやらされている」
何百年……やはり未だに倒されたことがないようだ。
「で? お前は……そうか、そうか。前回勇者が奪っていった力に呼ばれたのか。災難だったな」
なんだこいつ? 俺のことを知っている?
「お前のことなど知らん。この空間内にいる人物の能力が分かるだけ、他のはオレの勝手な予測だ」
俺のスキルから俺が召喚された経緯を推測したらしい。
あきらかに今までの幹部とは違う。
「お前、今まで勇者と戦ったことは?」
「ん? もちろんある。一回だけだがな。オレは全部欲しいんだ、今の状態に全く満足していない。そのためには、負ける可能性がある戦いは極力控えるようにしている」
負ける可能性がある戦いは控えるか。今回は勝てると判断したのか?
俺たち四人に勝てるというのか?
ミトハはあの行進祭からさらにレベルを上げているんだぞ?
「お前ら幹部は別に死んだって、すぐに復活できるんじゃないのか?」
「たしかに肉体はすぐに生み出されるだろうな、だがその肉体にオレの記憶はやどらない。オレはすべてが欲しい、勇者の力もルシヴェルの力も地位も」
強欲。スキルは身体に適合するか……
「そろそろ始めるか」
「はじめる?」
「オレがさらなる高みに至るための儀式だ」
オークリアがそういうと足元の道の光が強くなる。
「選べ、自分が何を失うか」
失うものを選ぶ?
「夢、夢を叶えるための才能、夢を追うための肉体。さぁ何を失う?」
オークリアはそう言うと姿を消し、道は三本に分かれていた。
――グラン・ゾア王国某所。
「それでお前たちは何物だ?」
「私たちは忍、ソウマ様の配下です! お願いがあってまいりました」
私は旅の途中で黒装束の少女たちに声をかけられた。
正直、ここ数日ずっとつけられていたのでうんざりしていた。
あと一日、声をかけるのが遅かったら一発かましていただろう。
「セレスタ様! 私たちと共に戦ってください!」
話を聞くと、どうやらあの坊やはこの国を乗っ取るために戦争を引き起こすつもりらしい。
「話は分かったが、その戦争はわたしに対してメリットがあるのかな?」
「ソウマ様は王様を打倒した暁には魔法の研究を大体的に進めると、魔力をエネルギー源とした研究も進めるとおっしゃいました」
魔力をエネルギーとして利用した装置の研究か……
「いいだろう、その話受けようじゃないか」
「ありがとうございます!」
「ところで君たちは私をあの剣聖に当てようと考えているのだろうが、私では時間稼ぎにすらならんぞ? 十分と持たないだろう」
「剣聖は王都を出てきません、なので――」
「王都直前まで攻め込み、ソウマや勇者が帰ってきたら共に王都に攻め込む。私は万が一の保険と言うわけか」
「さすがです」
思ったより大雑把な作戦だな。
王都前に陣取っている時の食料はどうするんだろうか。王都に攻めると言うからには、それなりの人数がいるはず。
それに勇者たちが帰ってこなかったら確実に負ける。
まさか、こんなに早くに魔王領に入ろうとは……
ユフィナには相当な試練になってしまったな。
「作戦の詳細を聞かせてもらうぞ」




