29話 それぞれの決着
この世界にもドラゴンが存在するらしい。
魔王領とグラン・ゾア王国の間にある山岳地帯。
そのどこかにドラゴンの巣があると言われている。
要するにヴァリディアはそのドラゴンを殺し姿を奪ったということだろう。
問題はヴァリディアの姿を奪う能力が人間以外にも適用されるということ。
もしハエみたいな小さく飛べる姿になられたら簡単に逃げられてしまうかもしれない。
少なくとも俺は捕まえられる気がしない。
なんとしてもドラゴンのうちに倒さねければ……
拘束していた忍たちでも、さすがにドラゴンの力には勝てず拘束を解いた。
「どうだい? 素晴らしいだろ? かっこいいだろ?」
ヴァリディアは浮かび上がりながら自身の体を自慢してくる。
「でも、君たちと戦うのも疲れたし、素直に勇者を殺しに行くよ」
「逃げるのか?」
「そうさ、君たちとは相性悪いみたいだし、戦ってても楽しくないから他の幹部に任せるよ」
俺の挑発など気にも留めずヴァリディアは正々堂々と逃げようとしている。
だが、この距離ならまだ間に合うだろう。
「ヴァリディア! でかくなったのは失敗だったかもな!」
俺の言葉と共に忍たちがワイヤーをドラゴンの翼に向かって投げつける。
投げられたワイヤーをスキル『編集者』で操作し、両翼を縛り上げる。
だが、ヴァリディアは落ちてこない。どうやらドラゴンは翼ではなく魔法で飛んでいるようだ。
「フンッ、こんなものでこの体は止められない」
「安心しろ! 試しにやってみただけだ。本命はこっち」
俺は塹壕に待機しているサワ隊を指さす。
バンッ、バババンッ!
大きな破裂音と共にドラゴンが泣き叫びながら落ちてくる。
俺がエルナに言って作らせた、長銃によって放たれた弾がドラゴンの体を貫いた。
ワイヤーは比較的、簡単に作れたのだが銃に関しては俺の知識もあいまいで実現は不可能かに思われた。
しかし、図書館にあった大昔の本に銃などの兵器の分解図、設計図が眠っていたのを発見し何とか完成に至った。
本来なら勇者でも入れない地下深くの部屋に保存されていたらしい。
他にも昔に存在していたであろう兵器の情報が書かれた本が何冊も発見された。
こんな情報があるのに、なぜドラス王は兵器開発をしないんだろうか。
まあ、なにはともあれ銃は完成した。
魔力も関係ない単純な物理攻撃。ヴァリディアには特に効いたようだ。
ヴァリディアが地面に落ちたのを確認すると、俺はすかさず地面を伸ばして拘束する。
長銃は単発式なので、毎回弾を入れ替えないといけないのだが的が大きいので、すでに何発も命中している。
痛みに耐えらえれなくなったのか、的を減らすためか分からないが、ヴァリディアも元の青年姿に戻っていく。
「なんだこれ? アーティファクトか?」
ヴァリディアは力ない声で言った。
どうやら立ち上がる力も残っていないようだ。
「なあ、ミレスという少女にアーティファクトを渡したのはお前か?」
「ん? ああ、そんなこともしたなぁ、あれは面白かった」
「じゃあ、リカを殺したのもお前か?」
「リカ? ああ、あの。そーだよ、森の中で魔物ごっこしていた時にちょっと火傷させられてさぁ、ムカついたから」
「火魔法使いの男が死に物狂いで守ろうとするからさ、余計にね。わかるでしょ?」
ヴァリディアは淡々と話し続けるが、その姿は見るもおぞましい姿と変わり果てていた。
「おまえ、その姿……」
「これがわたしの正体、ルシヴェル様がくれたこの世界でもっとも……」
ヴァリディアの姿は人間でも魔物でもなかった。
人形のようなシルエット、のっぺらぼう。体中が色々な色をしていた。
とってつけたように、目隠しでもしながら配色されたのだろうか。
整合性もなく芸術的でもない。子供の落書きだってここまで酷くはないだろう。
魔王はなんだって、こんなことをしたんだ。
「あーあ、まだ生まれたばかりだったんだけどなぁ。また半年後かな……」
ヴァリディアはそういうと塵となって消えていった。
他の魔人は死体が消えたりしないが、幹部連中は特別性のようだ。
後味の悪い戦いだったが、何とか幹部の一人を倒すことに成功した。
――砦、防衛戦。
「こいつの相手は私がやります!」
私は黒装束の女性に言う。
彼女に案内されてここまで来ることができた。
ただの案内人かと思ったら、めちゃくちゃ強い。一体何者なんだろう?
「助かります」
彼女はそういうと暗闇の中に消えていった。
「なぁおい? その赤髪、お前勇者だな!? やっとか、探したぜ! おれの怒りぶつけてやるよ!」
半分くらい何を言っているのか理解できなかったが――
「いいでしょう。修行の成果、試させてもらいます」
私がそういうと彼は双剣を構え、自分は魔王軍幹部のイグニスだと名乗った。
「私は勇者ミトハ! いざっ!」
私はそういうと先制攻撃をしかける。
先制攻撃は躱されるが追撃の光刃を撃ち込む。
光刃のレベルは6となり以前とは別物のスキルとなっている。
以前は剣にオーラがまとい、切れ味と強度をあげることしかできなかったが、今はそのオーラごと斬撃として飛ばすことができる。
イグニスは避けきれず、双剣で斬撃を打ち消した。
やはり、直接打ち込まないと簡単に無効化されてしまう。
「いい感じにイライラしてきた! 熱量あげてくぜ!」
イグニスがそう言うと彼の双剣は赤く光り、蒸気を発生させる。
あれに当たったらヤバそうね。
私はレベル8となった身体神化で一気にスピードを上げる。
さっきまで見せていたスピードよりも遥かに速いスピードで光刃をゼロ距離で撃ち込んだ。
キィーーンッ!
イグニスは後方に吹っ飛んだが、双剣で防がれたようだ。
「ちょうどいい。あなたにイグニスの情報を伝えます!」
背後からの声に私は驚く。
あれだけ修行したのに背後の気配に気づけなかったなんて……
「イグニスのスキルは『灼熱怒炎』といいます。感情の高ぶりによって体は高熱となり能力が底上げされます」
「底上げ?」
「身体はより強化され魔力も上昇。そして、あの双剣はその上昇に耐えます。戦えば戦うほど不利になるので、速く決着をつけることをお勧めします」
この人は本当に何者なんだろう。見た目はなんか忍者っぽいけど。
「あの、あなたは?」
「情報は提供しました。かならず勝ってください」
そういうと再び暗闇のなかに消えていった。
今度こそいなくなったよね?
私がそんなことを考えているといつの間にかイグニスが目の前まで戻ってきている。
さっきまでとはあきらかに様子が違う。
全身から蒸気を発し、双剣はさっきよりも赤くなっている。
熱さがこちらまで伝わってくる。
「いいな! おまえ! おれの怒りは簡単に死ぬ相手じゃ発散されるどころか増えるだけだからな!」
また、わけの分からないことを言っている。
時間がたつほど不利になるのならば、光焔衝で終わらせてしまおうか。
光焔衝のレベルは九に到達しているが威力が上がっただけで、一日一発というリスクはそのままだ。
もし、外してしまえばそれで終わりかもしれない。今回はソウマのサポートもない。
そんなリスクから中々決断できないでいると、今度はイグニスが攻撃をしかけてくる。
さっきとは別人と思えるほどのスピードとパワーに私は吹き飛ばされる。
私は後方に飛ばされながら修行の日々を思い出す。
たった数週間だったはずなのに数年の間、修行していたような感覚だ。
私は徹底的に打ちのめされ、教えられた。
スキルを自分の力だと自覚する。使うという意識をもたない。腕や足のように動かせるようになれ。
仲間に依存するな。勇者は一人で完結する存在でなければならない。
このことだけを徹底的に叩き込まれた。
そうだ! 迷う必要なんてない。私は勇者なんだ!
私はイグニスの追撃を軽く避ける。
「ん? なぜそんな簡単に避けることができる? おれの最高速度だぞ?」
「あなたスキルと同時に魔力を使っているわね! 丸見えなのよ」
私のスキル光輪識破は現在レベル8となった。
レベル5になったころから魔力の流れが見えるようになり、今ではその流れのさきまで見えるようになった。
つまり魔力を使えば使うほど、さきの行動が見えてしまう。
イグニスは感情が高まり、スキルと共に魔力もコントロールせずに感情のまま攻撃に乗せてきている。
「あなたは感情が高まれば高まるほど強くなるようだけど、その分、私には先の行動が良く見える。師匠が言っていたわよ! 強い感情は必要だけど、その感情は内に込めてこそ強さを発揮するって!」
「なに意味わかんねこといってんだよ? やっぱお前もだめだわ! 話になんねえよ!」
感情の高ぶりが頂点に達したのか、イグニスは何も考えることなく一直線に私めがけて突っ込んでくる。
「そんなんだから負けるのよ」
私は溜め時間を必要としなくなった光焔衝をイグニスに放った。
「クッソがぁぁっ!」
イグニスは咄嗟に双剣でガードするが光に包まれそのまま消滅していった。
私は光輪識破で魔力反応が消えるのを確認した。
私一人で魔人を――魔王軍幹部を倒したんだ!
私は心臓がドクドクなっているのを感じる。
嬉しさなのか緊張からなのかは分からない。でも、ものすごい達成感が私の心を満たす。
いや、まだ行進祭は終わっていないんだ。
私は急いで砦のような建物があった場所に戻る。
――砦にもどり私が目にしたのは、ものすごい魔法を撃ち込むユフィナの姿だ。
カバンから小さい石?を取り出し魔物の行列に撃ち込む。
撃ち込まれた石は何体もの魔物を貫いている。
「ユフィナ! 魔力は大丈夫!」
これは失礼な発言だったかもしれないが、ユフィナの成長ぶりが嬉しくて無理していないかと心配で口から出てしまった。
「ええ、大丈夫です。まだ何発か撃てます。他の魔法使いの方もいるので」
大丈夫のようだ。
「それよりミトハ、あの魔人を倒せたんですね! さすがです!」
「へ? あ、いや。ありがとう」
褒められるのに慣れていな過ぎて返答に苦戦する。
「ここからは私も一緒に戦うわ!」
「ええ、行進祭を終わらせましょう!」




