28話 ミトハの帰還
ヴァリディアの拘束に成功してから数分、俺の目には血だらけになったヴァリディアが映っていた。
忍たちの攻撃をすべてまともに受けたのだがまで死んでいない。
「フフ、フハハハハッ! 確かに魔力やスキルじゃなきゃ僕の『鏡写の瞳』は発動しないよ! でもね、魔力もこもっていない攻撃を何回したってかすり傷くらいにしかならないよ!?」
「たしかに、そうかもな。じゃあこんなのはどうだ?」
俺はスキル『編集者』で、出来るだけ大きく地面を伸ばしヴァリディアの真上に巨大な岩の塊を作った。
「これで岩を支えている柱を無くしたら、お前はぺちゃんこになるのか?」
「フンッ、やってみな。岩の重みでこの拘束が解けないように気をつけろよ?」
これだけ巨大な岩を目の当たりにして、まだ軽口をたたける余裕があるようだ。
希望通り、俺は巨岩を落とした。
落とした巨岩はヴァリディアの頭に当たった瞬間に砕け、十数個ほどの大きな岩に分かれる。
俺はヴァリディアを確認する。
「まじか……」
ヴァリディアは無傷ではない、頭からかなりの流血をしている。
だが、倒れることなく堂々と立ったままだ。
「やっぱり、魔力の込められていない岩じゃ、痛いくらいのダメージだな」
魔人とくに幹部クラスの魔人の体の強度がどれほどなのか、図書館からの情報では詳しくわからなかった。
実際に戦って分かる。鉄板を貫通するくらいの威力がないと、まともなダメージにならない。
「そろそろ、この拘束も飽きてきた」
ヴァリディアがそういうと、体が黄色いオーラに包まれ、どんどん大きくなっていく。
忍たちは必死にワイヤーを引っ張り何とか拘束し続けようとしている。
そして、黄色いオーラの発光が収まると、ヴァリディアは赤いドラゴンと姿を変えていた。
――砦の防衛戦。
「今からわたしが言うとおりに動いてもらいます!」
わたしは作戦を伝え終わると、魔法陣を書く準備を始める。
この作戦中にラグレイザがこちらに来たら、ひとたまりもないだろう。
わたしは魔法陣を書きながら、ギルド長の戦いを横目で見る。
ギルド長が突っ込んだことによりラグレイザ以外の魔物は吹き飛び、現在一対一のバトルの最中である。
もっともわたしには速すぎて、何をしているのか分からないが……
「まずいな、速く魔法陣を書き上げろ! あまり時間はないかもしれない」
青年がせかしてくる。
「苦戦しているんですか?」
「いや、互角だ。ギルド長は脳みそまで筋肉だから戦いとなったら本気で勝つきでやる。時間稼ぎとかできないんだ、あの人。そして、剣術を使った互角同士の戦いは長く続かない。いそげ!」
「もう、書けました! それぞれ配置についてください!」
次の瞬間、ものすごい衝撃波が伝わってくる。
どうやら、決着がついてしまったようだ。
お互い片腕を失う重症のようだが、魔物であるラグレイザは全く気にする様子もなくこちらに向かってくる。
おそらく今、発動しようとしている魔法の魔力に引き寄せられているのだろう。
魔法は途中……でも、これをあいつに打ち込むしか……
そもそも当たらないかもしれない、だったらあの魔物の大群に打ち込んだ方が?
頭の中で色々な思考が行われるが、本能があの魔物に打てと言っている。
本能のままにわたしが杖をラグレイザに向けた瞬間、爆風と共にラグレイザは吹き飛ばされた。
わたしたちの目の前に赤い髪の少女が立っていた。
「遅れてごめん、ユフィナ! あいつは私に任せて!」
前よりも長くなった赤髪を揺らしながら、ミトハはそう言い残し、ラグレイザにとどめを刺しに行った。
一瞬の出来事に何が何だか分からなくなり、魔力コントロールが乱れそうになるが、意地でも抑え込んだ。
魔力の操作だけがわたしの使命!
魔法陣内にいる十人の魔法使いのうち五人が火玉を作り出す。
そして残りの五人が風を作り出す。
この魔法陣内で作り出された魔法はすべて、わたしが操作することができる。
協力してくれる魔法使いがいて、相手が魔法完成まで待ってくれる。
こんな条件がそろわない限り、できない大技。
そういえばセレスタ様はこれを一人で難なくやっていたな。
でも、わたしにも今同じことができる。
生み出された火玉を風魔法でできるだけ、高熱にする。
わたしの準備が整ったのを確認すると、魔法陣の外にいた水魔法使いたちが一つの大きい水玉を迫ってくる魔物の行列に打ち込む。
水玉が魔物に当たる直前にわたしは水玉めがけて、限界まで高温にした火玉を槍の形状に変化させ打ち込む。
放たれた火の槍が水玉に触れた瞬間、水玉の水分が一気に蒸発して大爆発を引き起こした。
『ヘイズサージ』師匠が地形を変えたいときにたまに使っていた爆発魔法。
爆風が収まり、ミトハを確認するがすでにラグレイザにとどめを刺した後だった。
見ていなかったから、どうやったのかは分からないが地面が広範囲にひび割れていた。
多分つらい修行を乗り越えてここまで来たのだろう。
その立ち姿から、以前とは全く別人のオーラがにじみ出ていた。
「――おいおい、なんだ今の爆発。おれの熱量なみじゃねえか。ムカつくなぁ! イライラすんなぁ」
突然、その男はわたしたち魔法使いの前に現れると同時に、さっき水玉を打ち込んだ魔法使いたちを切り刻んだ。
その勢いのまま、こちらに向かってくるがわたしは反応できない。
ドッ――わたしは誰かに思い切り押される。
キィーーンッ
「お! おれの速さについてこれるのか、お前が勇者か? いや、ちがう勇者は赤髪だもんな! 腕試しなら死ぬだけだぜ?」
「私は遠距離部隊なんだけどね……」
わたしをかばってくれた?全身黒装束の女は、突然現れた男と戦いだした。
なにが起きているの?
「大丈夫!? ユフィナ!」
声を掛けられるまで気が付かなかった。
わたしはミトハに受け止められていたようだ。
わたしが倒れる前にあんな遠くから一瞬で……
「え、ええ。問題ありません。それより、あれ……」
「あいつは私がやるわ。ユフィナは残りの魔物をお願い! こうなったら行進祭を終わらせるのを優先、残念だけどバルグの正体は後回しよ!」
的確な状況判断。わたしは未だにミトハと一緒に戦ったことがないから戦闘中のミトハを初めて見るけど、あきらかに以前とは別人だ。
「わかりました、行進祭はわたしが終わらせます!」
「任せたわ!」
ミトハはそういうと、超高速で走っていった。




