12話 冒険者の街クレイザ
ユフィナが仲間に加わってから3日後。
この3日間、ミトハとユフィナにはほとんど会っていない。
この世界の勇者という存在は、俺が思っていたより大きいものだった。
町はいまだにお祭り騒ぎが続いているし、ミトハもずっと式典などの行事に参加している。
ユフィナは冒険に出るまでセレスタのところにいることになった。
――俺はというと、この3日間、王城の倉庫にこもって準備している。
この世界にきてから武器と言えば剣しか見ていないため、対して種類はないものと思っていたのだが、この倉庫にはかなりの種類の武器があった。
普通の剣、ショートソードにロングソード、斧、槍、色々な形の盾、弓、ボウガンとかなりの種類がある。
だが、俺がひそかに期待していた魔剣はなかった。
セレスタが言うには――この世界の剣術は体内で魔力を流用し、肉体を強化している。
そして、剣も体の一部とみなし剣にも魔力を流す。
それによって、剣の強度を上げ、切れ味をさらに良くする。
この世界において魔法も剣術も同じ魔力を使うが、全く別の技術と考えられているらしい。あくまで人間の中でだが。
グラディスは剣に魔力をまとわせて、魔剣のようなものを作り出していたが――
まあ、あいつも人間にはできないと言っていたし、この世界の人間には魔剣という発想はでないのだろう。
明日には勇者の出発式が行われる。
それまでに持っていくものを決めなければならない。
どうしたものか――
――その後時は流れ、一週間後――
俺たち三人は冒険者の街、クレイザにきていた。
クレイザはグラン・ゾア王国の南端にある、アルミラの森に一番近い街である。
アルミラの森はこの国で唯一、魔物が発生する場所であり、その森の一番近くにあるクレイザの街には冒険者が多く集まる。
そのため、冒険者の街と呼ばれている。
俺たちは冒険者ランクをプラチナまで上げるために、この街まで来たのだが。
――セレスタが言うには、プラチナというのは冒険者の最高ランク。
今までの勇者でもプラチナまで上げるのに大体一年はかかったらしい。
やはり、あのドラス王の条件はかなり不条理なものだったようだ。
――02が言うには、召喚の儀式にかかる準備期間は半年。
それまでに俺たち二人を殺しにくるということだ。
半年もあるなら修行させてくれたっていい気がするが、よほど余裕がないんだな。あの王様。
実際、この街に来るまで毎晩のように襲撃を受けていた。
旅に出て、王都を離れた途端に容赦なく暗殺者を送り込んでくる。
――まあ、全員もれなく仲間になってもらっているが。
三カ月以内にプラチナ冒険者になれば勇者と認められ、暗殺者を送り込んでくることはなくなるだろう。
だが、セレスタは歴代最強クラスである前回の勇者でも半年かかったと言っていた。
普通のやり方では三カ月以内にプラチナに上げるのは不可能だ。
さらにプラチナまで上げたら即刻、魔王領に入らないといけない。
今の実力であのグラディスより強い、幹部と戦うなんて考えたくない。
何かの手違いでプラチナに上がれたとしても、魔王領で簡単に死ぬだろう。
俺はこれからの方針をすでに決めている。
「――俺たちはランクをプラチナまで上げるため、こうして冒険者の街まで来たわけなんだが、こっからは別行動にしないか?」
俺はここ最近、考えていたことを提案した。
「べ、別行動って……私たちまだ王都出てから一回も戦闘してないのよ?」
そうあの初日以来、俺たちは全く戦っていない。
あくまで俺たち勇者一行はだが。
王都を出てから馬車でここまで一週間、魔物どころか動物すら見ていないのだ。
「それはそうなんだがな、三カ月以内にプラチナにまでランクを上げられたとしてだ、今の実力で幹部に勝てると思うか?」
「それは……」
ミトハは答えられない。
そう、勝てるはずがない。
「特にお前だミトハ、お前ただ剣振ってるだけだろう? 素人丸出しだぞ? スキルのレベル関係なく、この先それじゃあ勝てない」
俺は続ける。
「戦い方を考えなきゃいけないのは俺もだが、俺は戦闘技術を磨いてもスキルがそれについてこない。だが、お前は違うだろ? 師匠を探して剣術を学んだ方がいいと思う」
「たしかにそうだけど、冒険者ランク上げるために依頼も受けないといけないのよ?」
「――ランク上げは俺が一人でやる」
実際は02たちとだが。
「そんなの危険すぎる!」
まあ反対されるのは分かっていた。どうやって説得したもんか。
「あの、わたしは何をすればいいですか?」
ユフィナが不安そうに聞いてくる。
ユフィナにも暗殺部隊の話をしている訳じゃないので、街に待機していてほしいのだが――
「ユフィナにも戦うための準備をしてほしいんだが……」
これは明日からでいいか。
「まあ、まだ着いたばかりなんだ。とりあえず、今日は情報収集といこう」
「わかったわ」
「……」
ユフィナは答えない。不安そうな顔をしている。
――まずいな、この子はかなりネガティブだ。これまでの経験がそうさせているんだろうが。
早くこの子も戦えるようにしてあげないとな。
道中でこの世界の魔法については一通り知った。
やりようはあると思うんだが、それには準備期間が必要になる。
今日はもう夕方だし、明日から準備してもらおう。
「とりあえず二人は宿を取っておいてくれ、俺は冒険者ギルドに登録してくる」
冒険者ギルド――冒険者と依頼主の仲介をする組織――
もちろんこの世界にも冒険者ギルドは存在する。
しかし、この世界には冒険者ギルドの建物はかなり少ない。
この世界でもっとも盛んな産業は戦争産業であり、冒険者業ではないからだ。
この国では魔王軍との戦争、他国では他国同士の戦争。
よって、冒険者は騎士団に入団できなかったものがやっているケースが多い。
もちろん冒険者もこの国には必要な存在である。
この国ではアルミラの森からしか魔物は生まれないが、冒険者が駆除していないと国全体に住処を広げてしまうだろう。
――ちなみに俺たちが目指しているプラチナランクは騎士団以上の扱いらしい。
強すぎて騎士団にも手に負えないし、一人で戦局を変えてしまうので集団での戦闘を基本としている騎士団に入られても困る。
そういうぶっ飛んだ強さのもの、偉業を成し遂げたものがなれるらしい。
現在、現役で活躍しているプラチナランクの冒険者はいないようだ。
みんな引退しているらしい。
道中、ユフィナに聞いたがセレスタもプラチナランクらしい。
セレスタもあれで引退しているようだ。
――俺は冒険者ギルドに入る。
――冒険者ギルド――
私は魔王軍幹部、ヴァリディア・インヴィディア。
わたし何物でもない、だから何物にでもなれる。
きっとずっと前からそうなんだろう。長い時間そうやって生きてきたような気がする。
いや生きているかは分からない。あたしは生物なんだろうか?
生き生きと鬱々と生きている人間が羨ましい。
きっと、だからこんなにも殺したいのだろう。
殺すことは奪うこと、唯一の私の存在理由。
「――ねえねえ、おじさん? 勇者さん見なかった? 赤髪のお姉ちゃんなんだけど……」
「勇者ってお前、ガキじゃないか。ここはギルドだぞ? 子供が来るところじゃねぇんだ! 親はどうした?」
「あたしパパのお迎えに来たの! それより勇者さん見なかった?」
「このギルドに子持ちのやつなんかいたか?」
男は小声で言った。
「勇者が召喚されたのは聞いたが、今この街はそれどころじゃないんだ。分かるだろ?」
使えないやつだ。人間の男に聞くなら若い女の方がよかったか?
わたしが今日はこの男を殺そうと思った瞬間、薄暗いギルドに光が差し込む。
ギルドの扉が開けられたようだ。




