11話 井の中の魔法使い
「ちょっと派手すぎるな、もっと動きやすい服ないか?」
――ドラス王との交渉の後、勇者が召喚されたことが、大々的に発表された。
――それから数時間――
ミトハは勇者として騎士団とのパレード、演説、挨拶回りを行っている。
俺は勇者一行ではあるが、この世界にはそんな概念は存在しない。
勇者は勇者であり、一人で完結する存在でなければならない。
それが、この世界の勇者である。
もちろん、勇者が仲間を作ることもある。
しかし、この世界の住民は荷物持ちくらいの認識らしい。
その認識のおかげで、俺はこうして冒険の準備をしていられるんだが。
――実際に準備するとなると、何を持っていくべきなのか分からなかった。
迷った俺は結局、服から選ぶことにした。
ちなみに、ミトハは騎士の制服のような赤い長めの上着に、黒の短パンに黒のタイツ、さらに白の手袋とカッコいい服装をしていた。
俺はどうするか。
正直、今のパーカーのままでいいんだが目立つからな。
ガチガチな西洋甲冑も着てみたが、重すぎてお話にならない。
服装だけでなく武器にも困っている。
戦闘スタイルがまだ、定まっていないからだ。
短剣を投げ、編集でその速度を上げるというスタイルを考えていた。
だが、俺の編集では速さは変えられても、威力は変えられない。
――通常の物理法則ならば、速くなれば威力も上がる。
しかし、俺のスキルはただ物がぶつかるまでの時間を倍速にしているだけなので威力は同じまま。
だから短剣がしっかりと相手に当たるのが前提。
だが、短剣を正確に投げる技術なんて俺にはない。
――結局、俺は準備をほとんど終えることなく、ミトハと共にセレスタの言っていた森まで来ていた。
「ほんとうに、こんなところに私を治してくれた魔女がいるの?」
ミトハが聞いてくる。
無理もない、だだっ広い荒野に、ここだけポツンと緑が広がっている。
――どう見ても、魔法だよな?これ。
「そのはずなんだがな…… ほんとうに、ただの森だ。これじゃあ入り口もわからないな」
とりあえず、森の周りを一周して入り口を探すしかないか――
すると、森の奥から小さい光がユラユラとこちらに飛んでくる。
小さい光は俺たちの周りを一周すると、森に入って行った。
ついてこいってことか?
「いこう」
「――大丈夫なの?」
ミトハは不安そうに聞いてくる。
「へいきだう」
暗殺者たちも引き連れてきているから、ないとは思うが戦いになっても対応できる。
――光を追いかけて森の中を歩くこと数分、少し開けたところに一階建てのウッドハウスが建っているのが見えてくる。
俺たちを案内していた光がウッドハウスまで飛んでいき、ドアの中に吸い込まれた。
コンコンコンッ
あれ、ドアって三回ノックで合ってるよな? まあいいか。
俺がノックするとすぐに、ドアが開き金髪の少女が俺たちを案内する。
「――ようやく来たか、待ちくたびれたぞ」
「あんたが夜中にこいって言ったんだぞ?」
こっちは眠い中きたんだ、昨日なんてほぼ寝てないんだぞ。
「………あ、あの、勇者のミトハです。昨日は治療していただき有難うございました」
「ミトハか、君にはまだ名乗っていなかったな。『祝福の魔女』リュミエル・セレスタだ」
「それでだな」と魔女は話を続ける。
「治療代の代わりの依頼なんだが、依頼というか頼みに近いな。君たちにとっても悪い話じゃない」
――なんか回りくどいな、こんな話し方する人だったか?
この前なんて小僧とかお前とかだった気がするんだが。
「ここにいる私の弟子ユフィナを仲間として、君たちと共に冒険に連れて行ってほしいんだ」
セレスタは飲み物を運んできた、金髪の少女を指さして言った。
そんなことで良いのか。もっと過酷な依頼を予想していたんだが――
それとも、このユフィナという魔法使いはよっぽど使えないのか?
でも魔女の弟子だろ? 弱いなんてことはないと思いたいが。
肝心のユフィナは下を向いて、一言も話さない。
「そんなことか? 魔法使いは探すつもりだったし、こちらとしてもありがたい提案だが、依頼という形にしたってことは訳ありなのか?」
セレスタは言いずらそうに答える。
「――この子はな、魔力操作は天才なんだ。私以上に…… だがな……」
「わたしは魔力量がとても少ないんです!」
突然、今まで黙っていたユフィナが言う。
「なんだ、そんなことか。俺も魔法使いは仲間に欲しいと思っていた。こちらから頼みたいくらいだ」
ユフィナは戸惑いの表情を見せる。
「い、いや。わたし本当に魔力少なくて、今まで何度も断られて……」
「でも、魔力操作は得意なんだろ? じゃあやれることあるだろう。俺たちなんか魔力ゼロなんだぞ?」
「い、いいんですか? わたしなんかが勇者の仲間に……」
かなりネガティブだな。今までよっぽど大変だったんだろう。
「私も勇者と呼べるほど強くないのよ。だから、一緒に強くなりましょ! これからよろしくね! ユフィナちゃん!」
流石、ミトハ。こういうのは、こいつ向きだな。
「ほら、ソウマあなたも何か言って!」
「え? えーと、俺のスキルもそうだが、力って言うのは使い方ですべてが決まると思う。お前の力の使い方も、俺たちと一緒に考えよう。だから、その、これからよろしく」
やっぱり、こういうのは苦手だ。
――ユフィナは泣きそうな顔になっている。
まずい、なんか言っちゃいけないこと言ったか?
「あ、あの…… ごめんなさい、こんなにすんなり受け入れてもらったの初めてで…… え、えと、これからよろしくお願いします」
新たな仲間が一人増えた。




