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自由に行こう

街で軽く噂を流しただけのつもりだった。

ほんとに軽く。

「ケチらしいよ」とか

「水虫の魔法陣出るらしいよ〜」とか

「性病で宮廷医倒れたらしいよ〜」とか

その程度。

僕としては、ちょっとした仕返しくらいの気持ちだった。

だって、僕を殺した理由が

「不細工だから嫌」

だよ?

それなら悪評くらい流してもいいでしょ。

むしろ優しいほうだと思う。

で、翌日。

街の広場がざわついていた。

「皇女殿下がケチすぎて、使用人が全員逃げたらしいぞ!」

「靴脱いだら水虫の魔法陣が出るって本当か!?」

「宮廷医が性病で倒れたって噂、帝都でも広まってるぞ!」

「皇女殿下、実は魔王より怖い説」

「いや魔王より水虫のほうが怖いだろ」

なんか、僕が思ってたより盛り上がってる。

「え、ちょっと待って。僕そんなに広めたっけ?」

僕は酒場で三つくらい噂を投げただけだ。

それがどうして帝都まで届いてるのか。

店主が僕に耳打ちしてきた。

「お客さん、あんたが言った噂、

昨日のうちに“旅商人ネットワーク”に乗ったらしいよ」

「旅商人ネットワーク……?」

「商人ってね、噂を運ぶのが仕事みたいなもんだから。

帝都まで半日で届くよ」

あー……なるほど。

僕が軽く投げた噂が、商人たちによって

“面白い話” として拡散されたわけだ。

そして翌日には――

帝都の広場で、スカアハの悪評が大炎上していた。


旅人から聞いた話によると、帝都はこんな感じらしい。

皇女スカアハの肖像画に「ケチ」と落書きされる

宮廷医が「性病の治療なんてしてない!」と必死に否定

皇女の靴屋が「水虫じゃありません!」と泣きながら説明

皇帝陛下が「娘は水虫ではない!」と公式声明を出す

逆にそれが火に油を注ぐ

市民が「水虫じゃないなら魔法陣は何!?」と騒ぐ

皇女が外出すると、なぜか靴屋が同行して靴をチェックされる

宮廷メイドが「ケチすぎて逃げたのは本当」と証言

皇女の婚約者(僕)が死んだという噂も混ざって大混乱

? うん。

「なんか、僕が思ってたより大事になってるね」

僕は軽く噂を流しただけなのに、

帝都はほぼ炎上していた。

でもまあ、僕は復讐する気はないし、

帝国を滅ぼす気もないし、

皇女を直接どうこうする気もない。

ただ、

「悪評が広まるのは、まあ、いいよね。

僕を殺したし」

それくらいの仕返しは許されると思う。


僕が雇った元宮廷メイドが、

悪評のニュースを聞いて震えていた。

「れ、レンバス様、帝都が、大変なことに」

「え、僕のせいじゃなくない?

僕はただ噂を流しただけだし。

広めたのは商人だし。

僕は悪くないよね?」

「まあ、そうですね」

料理人志望の青年は笑っていた。

「皇女殿下、そんなにケチだったんですか?」

「うん、僕の婚約指輪も、高いから嫌って言われたしね」

「ひどい」

元盗賊の男は肩をすくめた。

「帝都の噂って、広まると止まらないんですよね」

「まあ、僕は止める気ないけどね」


僕は復讐しない。

戦争もしない。

帝国を滅ぼす気もない。

ただ、

行く先々で皇女のくだらない悪評を広めるだけ。

それだけで帝都は勝手に炎上した。

「さて、次の街でも噂流すか。

イケメンの旅は忙しいね」

レンバスの旅は、今日もゆるく、チャラく、そして自由に続く。



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