58 払拭令
「ウミちゃん?」
「アリスト??」
逆三角形の目におかっぱ頭、けど前会った時よりも身なりがさらにきちんとしていた。
「あぁ、会いたかった…!会いたかったよ…!」
アリストは嬉しそうにあたしに抱きついた。
「こんなに痩せちゃって…他の人たちはいるの?リンは?」
「…あたしだけだよ。ここに来れたのは」
「ウミちゃんだけ?そんな…じゃあまさか、リンも…?」
あたしは何も言わなかった。
それを察して、アリストは俯いた。
「…ごめん。全ての貴族を代表して謝る。でも知らなかったんだ。まさか国王があんなことをするなんて…」
「あなたが嘘をついてないのは分かってるし、アリストが謝る必要はないよ」
アリストはかぶりを振った。
「ぼくは貴族が嫌いだ。本当はこんな高い服だって着たくない。あの人たちは人間じゃない。人の形をした悪魔だ」
あたしは驚いた。アリストは他の貴族とは違うとは思ってたけど、ここまで言うようになったなんて。
「ぼくは今シティ・パレスに住んでる。でも"成り上がりの皇族"って陰で叩かれてるんだ。お母様もお父様も、今になってやっと下に見られる事の屈辱を覚えた。この凱旋だって、表上はシティ・セントロの民に新しい皇族の権威を見せつけるためだけど、本当は王族からの指示で動いてて『お前たちは俺たちの駒だ』って思い知らせてるだけなんだ」
「シティ・パレスも大変なんだね…」
「君に比べたらちっぽけな苦労さ。ウミちゃんはこれからどうするの?」
そうだ、とあたしはアリストに聞いてみた。
「あたし、この国を出たいの。でも港に行く方法がなくって。アリストなら何とかできないの?」
そう聞くと、アリストはガンダ達のように顔を渋らせた。
そしてしばらく考え込み、口を開く。
「方法なら…あるよ。でもこれはおすすめできない」
「どんな方法!?教えて!」
「象の家に入って義勇団になるんだ」
「えっ…」とあたしは声を漏らしてしまった。
「義勇団に入って港の門番になれば今よりもチャンスはある。でもそれは嫌でしょ?」
「嫌だよ。象の家に行けば今よりもひどい暮らしが待ってる」
「そうさ。それに時間もかかる。だからおすすめできないって言ったんだ」
「他にはないの?あ、ダンデリオンを呼んだりとかできない?シティ・パレスには電話があるんでしょ!」
"ダンデリオン"という言葉にアリストが反応する。
「そうだ、その手がある…!」
アリストは目を輝かしてあたしに言った。
「1ヶ月後、隣国の王がこの国に来るんだ。その護衛として、ダンデリオンの軍隊が特別に入国が許可される!」
「本当に!?」
これは思ってもみない朗報だった。
ダンデリオンがまた来るなんて!
「ああ!いやでも待て…」
アリストが再び口を開こうとしたその時、町中に大きな放送が響き渡った。
『シティ・セントロに住む愚民達よ。おはよう。全ての作業を取りやめ、跪いてこの放送を聞くように』
「ああ、父上の声だ…!」
アリストの肩が軽く震える。
外を見ると、街の人たちはみんな額を地面に付けて放送に耳を傾けていた。
『国王から伝聞を仰せ仕った。この月から皇族と成った5家庭を代表し、ブルメン家当主、このバッハ・ブルメンが代読致す』
紙が広げられる音がマイク越しに聞こえる。
『来る月、隣国クルオシア王国を迎入れるにあたり、国の入り口であるここシティ・セントロに汚れがあってはならない。よってここに"払拭令"を発令し、民はこれに従うよう命ず』
(払拭令…?)
「アリスト…」
「ぼくも知らない。次は何をし出すつもりなんだ」
あたし達は放送の続きを聞くことにした。
『一、家を持たぬ者は直ちに義勇団に通報すべし
一、職を持たぬ者は直ちに義勇団に通報すべし
一、通報をした者には国から恩賞を受け取るべし
期間は今日から1ヶ月とす。以上だ』
町が騒いた。
「あ、あんた、最近職を探してると言ってなかったかい…?あんたを通報すれば恩賞が…!」
「町のガキを片っ端から突き出せ!!」
「最高のゲームだ!!臨時収入がガッポガッポだぞ!!」
「最悪だ…」
義勇団だけじゃない。街全体に追われる身になってしまった。
1ヶ月も逃げ切れる自信なんてない。こんなの…
「大丈夫だよウミちゃん、ぼくが必ず…」
アリストがあたしの手を取ろうとした…その時だった。
あたしの手が液状化し、水のように地面に流れ落ちたのだ。
手が………ない。
「「……………ええええええええ!?!?!?」」
「あやうく一生懸命生きるところだった」
今一番読みたい本。
※追記
6/12のブラフラは休載とさせていただきます。
次回は6/19です。




