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ブラッド・フラワー  作者: 御稲荷 薫
ジョワブル王国/ペティット村編
58/67

58 払拭令

「ウミちゃん?」

「アリスト??」


逆三角形の目におかっぱ頭、けど前会った時よりも身なりがさらにきちんとしていた。


「あぁ、会いたかった…!会いたかったよ…!」


アリストは嬉しそうにあたしに抱きついた。


「こんなに痩せちゃって…他の人たちはいるの?リンは?」

「…あたしだけだよ。ここに来れたのは」

「ウミちゃんだけ?そんな…じゃあまさか、リンも…?」


あたしは何も言わなかった。

それを察して、アリストは俯いた。


「…ごめん。全ての貴族を代表して謝る。でも知らなかったんだ。まさか国王があんなことをするなんて…」

「あなたが嘘をついてないのは分かってるし、アリストが謝る必要はないよ」


アリストはかぶりを振った。


「ぼくは貴族が嫌いだ。本当はこんな高い服だって着たくない。あの人たちは人間じゃない。人の形をした悪魔だ」


あたしは驚いた。アリストは他の貴族とは違うとは思ってたけど、ここまで言うようになったなんて。


「ぼくは今シティ・パレスに住んでる。でも"成り上がりの皇族"って陰で叩かれてるんだ。お母様もお父様も、今になってやっと下に見られる事の屈辱を覚えた。この凱旋だって、表上はシティ・セントロの民に新しい皇族の権威を見せつけるためだけど、本当は王族からの指示で動いてて『お前たちは俺たちの駒だ』って思い知らせてるだけなんだ」

「シティ・パレスも大変なんだね…」

「君に比べたらちっぽけな苦労さ。ウミちゃんはこれからどうするの?」


そうだ、とあたしはアリストに聞いてみた。


「あたし、この国を出たいの。でも港に行く方法がなくって。アリストなら何とかできないの?」


そう聞くと、アリストはガンダ達のように顔を渋らせた。

そしてしばらく考え込み、口を開く。


「方法なら…あるよ。でもこれはおすすめできない」

「どんな方法!?教えて!」

「象の家に入って義勇団になるんだ」


「えっ…」とあたしは声を漏らしてしまった。


「義勇団に入って港の門番になれば今よりもチャンスはある。でもそれは嫌でしょ?」

「嫌だよ。象の家に行けば今よりもひどい暮らしが待ってる」

「そうさ。それに時間もかかる。だからおすすめできないって言ったんだ」

「他にはないの?あ、ダンデリオンを呼んだりとかできない?シティ・パレスには電話があるんでしょ!」


"ダンデリオン"という言葉にアリストが反応する。


「そうだ、その手がある…!」


アリストは目を輝かしてあたしに言った。


「1ヶ月後、隣国の王がこの国に来るんだ。その護衛として、ダンデリオンの軍隊が特別に入国が許可される!」

「本当に!?」


これは思ってもみない朗報だった。

ダンデリオンがまた来るなんて!


「ああ!いやでも待て…」


アリストが再び口を開こうとしたその時、町中に大きな放送が響き渡った。


『シティ・セントロに住む愚民達よ。おはよう。全ての作業を取りやめ、跪いてこの放送を聞くように』

「ああ、父上の声だ…!」


アリストの肩が軽く震える。

外を見ると、街の人たちはみんな額を地面に付けて放送に耳を傾けていた。


『国王から伝聞を仰せ仕った。この月から皇族と成った5家庭を代表し、ブルメン家当主、このバッハ・ブルメンが代読致す』


紙が広げられる音がマイク越しに聞こえる。


(きた)る月、隣国クルオシア王国を迎入れるにあたり、国の入り口であるここシティ・セントロに汚れがあってはならない。よってここに"払拭令"を発令し、民はこれに従うよう命ず』


(払拭令…?)


「アリスト…」

「ぼくも知らない。次は何をし出すつもりなんだ」


あたし達は放送の続きを聞くことにした。


『一、家を持たぬ者は直ちに義勇団に通報すべし

一、職を持たぬ者は直ちに義勇団に通報すべし

一、通報をした者には国から恩賞を受け取るべし

期間は今日から1ヶ月とす。以上だ』


町が騒いた。


「あ、あんた、最近職を探してると言ってなかったかい…?あんたを通報すれば恩賞が…!」


「町のガキを片っ端から突き出せ!!」


「最高のゲームだ!!臨時収入がガッポガッポだぞ!!」


「最悪だ…」


義勇団だけじゃない。街全体に追われる身になってしまった。


1ヶ月も逃げ切れる自信なんてない。こんなの…


「大丈夫だよウミちゃん、ぼくが必ず…」


アリストがあたしの手を取ろうとした…その時だった。


あたしの手が液状化し、水のように地面に流れ落ちたのだ。


手が………ない。


「「……………ええええええええ!?!?!?」」

「あやうく一生懸命生きるところだった」


今一番読みたい本。


※追記

6/12のブラフラは休載とさせていただきます。

次回は6/19です。

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