56 袋のネズミ
ガンダとランスは目を見開き口をあんぐりと開けたまましばらく閉じることはなかった。
そして「嘘だろ!?!」とあたしに詰め寄る。
「母ちゃんなのか!?あの人が!!」
「どこにいるの??もし迷惑じゃなかったらぜひ会わせてほしいな」
「…どこにいるか……って」
あたしは不覚にもまた涙が溢れてきてしまった。
まだ心の整理がついていないのだ。
でも2人はあたしの涙を見てすぐに察してくれたようだった。
「ご、ごめん!つい興奮しちゃって。本当にごめん!」
ランスがあたしの背中をさすりながら謝る。
ガンダは残念そうに短いため息を吐いた。
「最近のことなのか?」
「最近もなにも……」
あたしが言葉に詰まっていると、ランスが小さな声で聞いた。
「ねぇ。もしかして、アレン…森の外から来た?(‼︎)」
思わずランスの顔を見た。
あたしの顔を見て、ランスは「そうなんだね」と優しく微笑んだ。
「嫌……じゃないの?」
「僕たちはこの国の人とは違う。差別なんかしない。でもよく逃げてこれたね。向こう側にいる人は全員…って聞いてたから」
「…多分、あたし以外はみんな助からなかったよ。あたしは…たまたま生き延びれただけなんだ」
「なるほどなー。おかしいと思ってたんだぜ?シティ・セントロの人間がどうやって刀なんて手に入れたんかってさ!」
ガンダはあたしの手元にある刀を指差して言った。
「これはリンさんの宝物だよ。あたしに託してくれたんだ」
「宝物かぁ〜。それはぜってぇに手放せねぇね!」
「でもこれは大変なことだよ」とランスが言う。
「王国はこの騒ぎを自然に起きた大火事として処理してる。アウトフォレストからの生き残りがいるなんて知られたら…」
「象の家行きどころか、命も危ねぇな」
「あたし、この国を出たいの。ダンデリオンのムーランさんって人に会わなきゃいけないの」
「ダンデリオンの助けは見込めないよ」
ランスは悲しそうに言った。
「どうして?」
「昔ある義勇団の団長が王の許可なくダンデリオンに引き込まれた事件があったんだ。それからこの国はダンデリオンと絶縁して、上陸さえ許可しなくなったんだ」
(リンさんの事件…そんな大事になってたんだ。A級戦犯にまでされてるんだからそりゃそっか…)
「でも来たらしいぜ、ダンデリオン」
「え、そうなの?」
「あぁ、誰かがどうやってか連絡を取ったらしい。まぁ、門前払いだったみてぇだけどな」
(リンさんがした連絡…来てくれてたんだ)
「じゃあ直接助けてもらわなくていい。船に潜り込んでとにかく違う島に逃げたいの」
そう言うと、2人は向い合って顔をしかめた。
「それは難しいね」
「どうして?」
「港は全部王国の管轄なんだよ。常に義勇団が見張ってるし、俺たち一般人は立ち入れない。それができんならとっくにこんな国おさらばしてるさ!」
そんなぁ、とあたしは肩を落とした。
今あたしは、文字通り袋のネズミになっているわけだ。
「この国に来ちまったからにはここで生き抜くしかない。俺たちがフォローするからさ、な!」
「僕たちだって諦めてるわけじゃない。チャンスがあれば絶対この国を出てやるんだ」
「あぁ!外で暮らしてくにはまずはこの国で生きる知恵を学ぶんだ。一緒にがんばろーぜ!」
ガンダが差し伸べた手をあたしは渋々握って握手をした。
「まずは食料調達だな!やり方教えてやるからついて来な!」
「…ごめん、今日はもう疲れちゃったから休もうかな」
「あ、わりぃ、そうだよな。じゃあ待ってろ!行くぞランス!」
「うん!」
2人は数十分ですぐに戻ってきた。
「慣れたもんさ!」とガンダは笑った。
「コツはな、ランスが気を引いてるうちに俺が死角から手を伸ばす。もし店のやつが俺に気づかなかったらそのまま俺が必要な分取るし、気づかれたら俺に気を引かれてる間にランスが盗る!」
「すごい、いつも2人でやってるの?」
「基本はな!でもどっちかが体調悪い時とかは1人でやってるぜ」
「1人でやるときはどうしてるの?」
「薬とか必要な時は大変だね。薬を買った客からひったくることとか多いかな」
「…いい気持ちはしないね」
「俺たちだって好きでやってるわけじゃない。気にすんな!」
そうしてあたしの怒涛の1日は終わった。
眠るための布団なんかあるはずもなく、段ボールの敷物に段ボールの掛け布団だ。
あたしが今までどれだけの贅沢をしていたのか身に染みてわかる。
2人が眠りに入ったのを確認して、あたしはアジトを去った。
外からの助けはないことは分かった。
なら何としてでも自分でここを出るしかない。
ここにいても、あたしは自由になれない。
「見ててリンさん…あたし、絶対やってみせるから」
夏が迫ってる感じ。
振り返ったらすぐそこにいそうで怖い。
ひぃぃぃ




