55 憧れの人
手を引かれるまま、あたしは男の子たちの後を走った。
いくつもの細い道を通り、普段目につかないような角を曲がった。
おかげであっという間に追いかけてくる人をすぐ巻けた。
「よし、これでもう追いつかないだろう」
「今日も最高だったぜ!相棒!」
2人は誇らしげにハイタッチをする。
焼けた肌に黒髪、透き通るような蒼い目をした男の子があたしに話しかける。
「なぁお前、帰る家はあるか?」
「い、いや…」
「アジトは?」
「アジト…?」
「ガンダ、そんなに質問攻めしたら可哀想だろ。彼女は混乱してるんだ。一旦僕たちのアジトに連れてってあげよう」
今度は白い肌に金色の髪をした男の子だ。身なりを整えれば貴族と間違えてしまうほど綺麗な顔立ちをしている。
「そうだな、ランス。よーしついてこい!特別に案内してやるぜ!」
「僕たちのアジトは安全だから、安心していいよ」
「そーさ!シティ・セントロ一安全だ!」
「ちょ、ちょっと待って…!」
あたしを連れてく気満々な2人をあたしは慌てて呼び止める。
「助けてくれてありがとう。でも、もう大丈夫だから。じゃあね」
あたしは振り返って立ち去ろうとした。
が、頭がクラッとして地面に倒れてしまった。
「おい!」
2人があたしに元に駆け寄る。
その時、大きな音を立ててお腹が鳴った。
「全然平気じゃねーじゃんか!ランス、肩貸してくれ」
「う、うん!」
あたしの体は鉛のように重く、言うことを聞いてくれそうになかった。
彼らのアジトは細い路地を複雑に進んだ中にあった。
ガンダはあたしを座らせると、ランスは「こんなものしかないけど」と奥から水と欠けたパンを持ってきた。
「いら…ない」
「なに意固地になってんだよ!お前もう何日も食べてなぇんだろ!?」
ガンダはパンを少しかじり、水を少し含んでみせた。
「ほら、毒もねぇ!これでも食わねぇのか!?」
あたしは食料からひたすら目を背けた。
そんなあたしを見てランスはガンダから食料を取り戻した。
「ガンダ、苛つかない」
「だってぇこいつが!!」
ランスは優しく微笑んで、あたしの前に食べ物を置いた。
「無理強いはしないけど、生きたければ食べなよ(‼︎)」
「生きる…?」
「うん。食べることは、生きることだよ」
そんなことを言われたら、もう答えは決まったみたいなものだ。
(あたしは、生きなきゃいけないんだ)
あたしは重い体を持ち上げ、まず水を一口含んだ。
その後、小さなパンを頬張る。
久しぶりに胃袋に物が溜まる感覚に、自然と目から涙が溢れた。
「な、なんで今度は泣いてんだよ?そんな美味かったか?」
「違うよ。いろいろ大変だったんだろ」
食事はあっという間に終わってしまった。
気持ちが落ち着いて、あたしはようやく話す気になれた。
「ガンダと…ランスって言った?…ありがとう。あと、さっきはごめんなさい」
「謝ることないよ」
「お前、ほんとに変なやつだな。倒れたり不貞腐れたり泣いたり」
木箱の上で足をプラプラさせながらガンダが言う。
ランスは面倒見のいいお兄さんという感じがするが、ガンダはヤンチャな男の子そのものだ。
「君の名前、聞いてもいいかな?」
「あたしはアレン。2人は兄弟なの?」
「血は繋がってない。でも兄弟みてぇなもんさ!ランスは俺の3つ上!」
「義勇団から逃げ続けて、その途中でガンダと出会ったんだ」
「そうなんだ…」
やっぱりこの子たちも孤児か。
ならやっぱり、一つ疑問が浮かぶ。
「助けてもらったのなにすごい失礼だと思うんだけど…どうしてあたしを助けてくれたの?2人で生活するのにいっぱいいっぱいなんじゃないの?」
「いい質問だ!答えてやろう!!」
ガンダは目をキラキラさせて木箱から飛び降りた。
「俺たちにはな、憧れの人がいんだ!」
「僕たちっていうか…特にガンダが影響を受けちゃってるんだけどね」
そうは言うものの、ランスもかなり目を輝かせていた。
「4年前のことだ。シティ・ロマーノの貴族が俺たちと同じくらいのシティ・セントロの男にわざとぶつかったんだ!」
「貴族はその子に難癖つけて、家を壊すだのなんだの脅した」
「周りは誰も助けなかった。俺たちもだ。助けに行ったところで、セントロの人間ができることなんて何もない。貴族は靴でその男の頭を踏み潰そうとした。でもそこに!」
「「あの人が現れた!!」」
2人の声は息を吐くようにぴったりと重なった。
「間一髪のところで、その人が男を庇って助けたんだ!」
「貴族は怒ってその人に何度も足を踏みつけた。けどあの人は文句一つ言わず、貴族の気が済むまでただひたすら耐えた」
「気が済んだ貴族はそのまま帰ってった!男はその人のおかげで助かったんだ!」
2人の興奮はとうに限界を超えていた。
「俺たちは感動したんだ!貴族に立ち向かってくあの姿に!それで思ったんだ、俺たちもあんな風になりてぇって!」
「それから僕たちも人助けをするようになったんだ。困ってる人を見たら、あの人みたいに絶対に見捨てたりしない」
「だからお前も助けた。納得しただろ?いやーーあの時名前だけでも聞いとけばよかったってスッゲー後悔してんだよ!」
「あの日から一回も見てないもんね」
あたしの心臓は、うるさいほど激しく脈を打っていた。
「その時…その、憧れの人はフード被ってた?」
「おお!お前もあの場にいたのか!?」
あぁ、そっか。
「嬉しい。そんなこと知ったら、飛んで喜ぶよ」
「ん?誰が?」
あたしは誇らしく答えた。
「その人の名前はリン・フェリキタス。あたしの…お母さんだよ」
〜ちょこっとキャラ紹介〜
ガンダ、9歳。ランス、12歳。ランスが義勇団からガンダを助けたことがきっかけで5年前から行動を共にする。
いつか2人ででっかい家に住むことが夢。




