52 空っぽな宙
「…っ……うぅっ……あ……うわアァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!」
アレンは叫んだ。空っぽな宙に向かって。
その姿をただ見つめることしかできない。
アレンにとってリンがどれほど大きな存在だったか。
「こちら16地区!村人を発見しました!!(⁉︎)」
兵士が1人こちらに近づく。
(ここに踏みとどまっている時間はなさそうだ…)
俺は近くにあった小麦粉の袋を兵士に投げつけた。
「ケホッケホッ…貴様っ…!」
(すまん…リン!!亡骸は後で必ず葬る!!)
俺はアレンとリンの刀を抱えて走り出した。
「嫌だっ!!リンざん!!!!」
(すまない…すまないアレン…!!)
俺はすぐに違う建物に移動し、2人で身を潜めた。
アレンは綿がが抜けた人形のように生気がまるでなくなってしまった。
(しっかりしろ…俺がしっかりしなくてどうする!!)
「アレン…よく聞いてくれ。リンを失った今、俺たちがこの戦いに勝つ道は…ほぼ断たれた。明朝にダンデリオンが来ても、その前に全滅するのがオチだろう。だが、お前だけなら助けられるかもしれない」
アレンは何もない空間をただひたすらに見ている。
俺は話を続けた。
「ここにいても助からない。かといって今からみんなの元に戻るのも危険だ。だから奴らの動きを逆手に取る。王国内に逃げるんだ。自ら地獄に首を突っ込むようなもんだが、ここにいるよりかは幾分マシだ。そこで助けを待て。問題はどうやって侵入するかだが…」
すると、アレンは刀をギュッと抱き寄せ、地面に横たわった。
「どうでもいい…」と掠れた声で呟きながら。
胸が締め付けられる。だが、だめだ。
「アレン。お前には酷だが、今は悲しむ時間も怒る時間も、自分を罵る時間もない。俺はリンに代わって、お前の身の安全を守る義務がある。亡き母を想うなら、お前がするべきことは…!」
「だからっ、どうでもいいんだって…!」
おっちゃんの言葉は、ほとんど耳には入らなかった。
やっぱりあたしは無力だった。
何も変わってない。また気づいた。
失ってからじゃ何もかも遅いのに。
「さようならも……言えなかった……!」
「っ…!」
あまりに切実な思いに、思わず天を仰ぐ。
「もうここで死にたいっ…!みんなと、リンさんと、もう戦う理由なんて何もないじゃん…!」
泣くな…!泣くな俺……!!
俺が今すべきことをしろ!!
「そんな弱音吐いて!!リンを無駄死にさせるつもりか!!!(⁉︎)」
アレンの視線がこちらを向き、ゆっくりと起き上がる。
どうやら地雷を踏んだようだ。
「無駄じゃない…」
「無駄死にだ。今のままではな!お前が今ここで死ねば、リンは死人を庇って死んだことになる。リンの意志を生かすか殺すか、決めるのはお前の自由だ」
アレンは俯いた。
進むべき道は、一つしかないことに気づいたのだろう。
「あたし…どうすればいい?」
覚悟は決まったようだ。
「王国を目指す。アレンのその人感能力と俺の土地勘で敵を躱して行くんだ。立てるか?」
アレンは縦に一度首を振って立ち上がった。
そんなアレンを俺は力いっぱい抱きしめた。
「よく決めてくれた。リンもきっと、喜んでいるだろう」
アレンは俺の腰に腕を回して泣いた。
力のないハグだった。
けど彼女がこれから待ち受けるのは、もっともっと辛い現状だろう。
4月なのに冬の格好をしている。
早よ、春。暖かい季節。




