50 化け物
(銃声…!?)
アレン達のいる方だ。
「おい、さっさとこの村から退け。あたし達の村から」
「それはできぬ相談です。ステラ元団長」
さっき倒した部下から兵長と呼ばれたその男は言った。
「国王からの勅令なので。背けばどうなるか、あなたならよく分かっているはずだ」
「その王が気に食わなくてあたしは国を出たんだ」
「目を疑いますよ。そのあなたがこうして目の前に立っているなんて」
(アレン…わりぃ。耐えてくれ)
「うおおおおお!!!」
その2発の銃弾は、地面に撃ち込まれた。
けれどこんな直近で撃たれれば、一般の人は足が竦んでしまう。
「死」という文字が頭をよぎるからだ。
おっちゃんは膝から崩れ落ち、体をわなわなと震わせている。
村長はその様子を何とも思わない素振りで通ると、あたしの前で立ち止まった。
「どうして…どうやって抜け出したの?」
「見くびるな。仕込み武器くらい、用意して当然だろう?」
村長は腕時計の横にある小さなボタンを押すと、短いナイフが中から飛び出した。
意識を取り戻した後、あのナイフで縄を切ったんだ。
そしてもう一度、銃の焦点をあたしに合わせた。
(まずい、今何も武器が…!)
「私と来なさい」
低い声であたしに伝える。
「え?」
「お前は国王様への手土産にする。義勇団に入るのだ。その心波とやらを生まれつき使えるやつを私は見たことがない。王もさぞかしお喜びになるだろう」
「…嫌だ。そんなこと…!」
「その代わり」
村長は持っている銃を地面に置き、こう言った。
「この村の命は保証しよう(‼︎)」
心臓が一回、ドクンと大きな音を立てた。
「今すぐ侵攻を止めさせる。今後この村に一切手出しできぬよう遣わそう」
「ここまで村をぐちゃぐちゃにしといて何を!」
「こんなちっぽけな村一つくらい、あっても無くても同じなのだ。お前の価値とこの村の価値。比べれば誰でもお前を取るだろう」
(これは嘘?それとも本当…?)
分からない。
この人は平気で嘘をつける人だ。
でももし本当なら、この村を救える。
これ以上無駄な血を流さずに済む…
「何を迷う。あの時は匿ってやったが…本来いるべき場所に戻るだけのことだろう?」
「…リンさんは?」
村長の片眉がピクリと動く。
「リンさんの命は?保証してくれるの?」
「駄目だ。奴の命は奪う」
「じゃあその提案には乗れない」
あたしはゆっくりと立ち上がった。
「リンさんだってこの村の住民。保証して当然でしょ」
村長の目をひたと見据える。
村長は長い顎髭を2度摩り、少しして返事をした。
「…仕方あるまい。良かろう。リンの命も保証するとしよう」
「…約束してよ」
「花に誓って約束しよう」
そう言うと、村長は右手の指を全て合わせ、お辞儀をしながら胸の前で手首を半回転させ、ゆっくりとその指を開いた。
何のことかとその仕草を見ていると、「おや、知らぬか」ともう一度同じポーズをした。
「"花の敬礼"。蕾が花咲く様子を表し、相手に敬意を払う時に使う。本来外民に使うものではないのだぞ」
…ということは、村長はあたしに敬意を払った。
貴族として、敬意を払った。
(ごめん、リンさん)
村長の元に歩み出そうとした…その時。
「アレーーーーーーーーーン!!!!!!(⁉︎)」
勢いよくあたしの体に飛びつき、剣先を村長に向けた。
それを見た村長も地面に置いた銃を拾い、リンさんに向ける。
「リンさんっ!?」
「アレン!大丈夫か!!」
あたしに一喝すると、今度は村長に向かって怒りを込めて言う。
「野暮なこと吹き込むんじゃねぇよ…バケモンが」
「思った以上に早く来たな。現役の兵長を呆気なく倒すとは、お前も十分化け物だな」
二人が睨み合う。
「リンさん!あたしが義勇団に入れば、この村を助けてくれるんだって」
「…は?」
「リンさんの命も狙わないって!だからもう戦わなくていいんだよ!あたしが…」
パンッッ…!
気づいた時には、あたしの頬はヒリヒリと痛んでいた。
痛い。
「そんなこと!!あたしが許すわけねぇだろ!!!」
リンさんが涙目になってる。あのリンさんが。
「悪いけど、あたしにとって、世界で一番大切なものはアレン、お前だ!!離れるなよ!!お前から遠ざかってどうすんだよ!!!(‼︎)」
チッ、と向こうから短い舌打ちをする音が聞こえる。
「余計なことを口走るな…母親もどきがっ!!」
「やめろ!!」
シトラトスの後ろを、恐怖から立ち上がったおっちゃんが取り押さえた。
それを見て、あたしもおっちゃんの元に駆け寄り、正面から地面に押さえつけた。
アレンは動揺で動けないようだった。
「離っせ……!」
必死にその手から銃を奪おうとした。
だけどシトラトスは、その人差し指を引き金から離すことはなかった。
その銃口の先には
「クッソがああああ!!!」
だめだ、間に合わない。
あたしは後先考えず、
全身を使ってその銃に覆い被さった。
どれだけ平和を願い続けても
守りたいものがある限り
どちらかが潰えるまで争いは終わらない。
つまり争いがこの世界から無くなることは
決してないのかもしれない。




