49 一匹狼
「兵長、こちら28地区に生存者なし!」
「こちら36区も生存者なし!」
「ふむ…」
手元に用意された資料に目を落とす。
「貴族が報告した村人の数より明らかに数が少ない」
「全員島外に逃避しているのではないでしょうか」
「くまなく探してから言葉を吐け。一人でも生存者がいれば罰を受けるのは我々だぞ!」
「はっ!」
敬礼をした2人を行かせ、私はもう一度資料に目を落とす。
(ステラ・トンプソン団長…本当にこの島にいるのか)
・・・・・
「10時の方向に2人。その少し奥にさらに1人」
「おーけー」
あたしの指示に従い、建物を利用しながら忍び足で的に近づく。
そして一気に勢いをつけ、兵士を無力化する。
「よし」、とリンさんの合図と共にあたし達は姿を出した。
敵は足を切られており、彼らを拘束して再び隠れる。
「いい感じじゃねぇか。どんどん心波の感度が上がってんじゃねぇか?」
「どうだろう。でも、今はいろんなことを感じれる」
「戦場は常に感覚を研ぎ澄まさなきゃならねぇ。心波に頼りすぎんなよ?微かな音や匂いも見落とすな」
「うん」
「リン!」
小声で名前を呼んだのは、見回り担当のおっちゃんだ。
「調子良さそうだな」
「おぉ、全然回って来ねぇからとっくに死んだんかと思ったよ」
「生きてて悪かったな!だがそれは死んだ仲間への侮辱でもあるぞ(‼︎)」
その言葉にあたしもリンさんも反応した。
「死んだのか?」
「…あぁ、残念ながらな。無血開城とはならないようだ」
「死んだって……誰が?」
「アレン、それを今聞く必要がどこにある」
間髪を入れずにリンさんが言う。
「ここは死と隣り合わせの場所だ。誰がいつどこで死んでもおかしくねぇ。みんなそれを分かってここに来た」
言葉とは裏腹に辛く悲しい思いを感じる。
これ以上追求するのはやめた。
「で、相手はどのくらい拘束できた?」
「10数人っていたところだ」
「…まだまだだな」
「…なぁ、リン」
おっちゃんは身を屈めてあたし達と視線を合わせた。
「この抵抗に果たして意味はあるんだろうか」
「何言ってるの!勝つんでしょ?勝って村を守るんでしょ!」
思わず咄嗟に反抗したが、おっちゃんは悲しそうな笑みをあたしに向けた。
「守りたいさ。だが、今いる兵士たちを全員拘束できたとしても国内には何百人もの兵士が待機している。それと戦える力は…」
「そんなことない!!この村にはリンさんがいるんだよ!百人力だよ!ね?リンさん」
あたしはリンさんの方を向いた。
「…勝つ」
リンさんは小さな声で言った。
「あたしの家からダンデリオンにSOSを発信してる。遅くと見積もっても明日の朝には到着するはずだ」
「ダンデリオンに!?通信機器の所持は禁止されているはずだ」
「あっちで部品揃えて作ったんだよ。あたしはなんでも屋だぞ?」
(ダンデリオンに!!)
確かに自分の最低限の治療をしてリンさんはどこかに電話をしていた。
暗号のような会話の内容はそういう事だったのか。
おっちゃんも腰を抜かしかけているようだった。
「まさかそんなことが……なぜ今までその事を言わなかった?」
「敵兵に聞かれたら先手を打たれるだろ?」
「まぁそうだな、油断は禁物。だがこれで…我々にも希望があるんだな!」
「あぁ、遅くとも明朝には到着するだろう。それまで耐えられれば、あたし達の勝ちだ」
おっちゃんの表情が一気に明るくなる。
「よし、この事をみんなに伝えたい気持ちでいっぱいだが…ギリギリまで我慢するとしよう。引き続き伝書鳩役を買い出るよ」
「ありがとう、おっちゃん。気をつけろよ」
おっちゃんが建物の陰から出ようとしたその時、あたしは反射的におっちゃんの手を握って引き戻した。
「アレン…?」
「リンさん、2時の方角から1人来てる」
それを聞くと、リンさんは刀に手を置いた。
「すぐ片付ける。2人ともここにいろ」
「うん」
「気をつけろよ」
リンさんは小さく頷き、この場を離れた。
おっちゃんはあたしに話しかけた。
「アレンは怖くないのか?この戦場が」
「怖くないよ。リンさんがいるもん」
「ははっ、そうか」
「リンは幸せ者だな」おっちゃんは嬉しそうに呟いた。
「あいつは変わった。昔はもっと横暴で短気で、村の奴らとも一線を引いていた。でもアレンが来て、何だろうな…性根から明るくなった。本当に明るくなったんだ」
「そんなに変わったの?」
「あぁ。まぁ、口の悪さはちっとも変わってねぇがな!」
ひと笑いすると、おっちゃんは目を細めて遠くの方を見た。
「…誰かこっち来てるなぁ」
あたしもおっちゃんの見ている方向を細目で見る。
「…え」
「でも軍服じゃないな。あんなボロボロな服……待てよ?」
おっちゃんと同じタイミングで、あたしもその姿の人物を視認した。
「村長だ!!おーーーい!シトラトスさーーん!!」
だけどあたしが止める前に、おっちゃんは立ち上がって手を振ってしまった。
銃口がおっちゃんの方に向く。
「だめ…!」
パァン!!パァン!!
けたましい音が2発、赤い空にこだました。
ペティット村編。クライマックスを迎えています。
クライマックスは書いててほんとに楽しい…!




