46 ヒーローの登場
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「あの村長だよ!?絶対ありえないって!!」
「可能性の話だ!あたしだって信じたくねぇよ。あの人はあたしの恩人だ!」
「じゃあ何で…!なんで村長が貴族の味方だなんて思うの!!」
リンさんはとても胸の痛そうな表情をした。
「前言ったろ?村に内通者がいるって。あたしの存在が向こうにバレてるってことは、あたしが何者かを知っている奴ってことになる。この村であたしの正体を知っている人は2人しかいねぇ。アレン、お前と…シトラトスだけだ」
国の情報の届かないこの村で、リンさんの正体を知っている者はいない。
村長は国内に住んでいた経験からリンさんの存在を知っており、一連の事件を経て、あたしも秘密を共有する一人となった。
「でもなんで?村長は、何度も何度もあたしを…あたし達を守ってくれたじゃん!」
漂着したあたしを村に匿い、勉強を教え、貴族から存在を隠してくれた。
何より…リンさんとあたしを引き合わせてくれた。
感謝してもしきれない恩が村長にはある。
でもそれは、リンさんも同じだ。
「動機なら…ある。でもこれだけは信じてくれ。村長がお前に…あたしにしてくれたことは間違いなく村長の意思で、懐の深さからくる優しさそのものだ」
「どういうこと?リンさん、その動機って何?」
「…」
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ナイフを持った村長が少しずつこちらに近づく。
それでも彼の目をひたと見据え、あたしは構えの姿勢を崩さなかった。
「どうした。ショックで気も動転しないか?」
「リンさんは…死んでない」
そう言うと、村長は再び吹き出した。
「ハハっ…素直じゃないとこもリンに似てしまったか………憐れ。私の心波を読めば一目瞭然だろ?君の得意分野だ。なぜ真実に抗う?」
そしてもう一度、ゆっくりと言う。
「リンは私が殺した。正確に言うと先に潜入していた義勇団の協力を得て、だ。リンも詰めが甘かったな。私にばかり警戒して周囲にいた義勇兵に気付くのが遅れた。どうだ、自分の胸に聞いてみろ。私は嘘を吐いてるか!?」
(…充分わかったよ。村長が嘘を吐いてないことくらい…!)
でも…!
「あんたなんかに!!リンさんが負けるはずないでしょ!!!(‼︎)」
この時初めて、あたしは自分の力を根から否定した。
心波があたしに伝える真実よりも、リンさんを信じた。
「そんなヒョロヒョロな体で何ができんのよ!リンさんは元義勇団のリーダーで、ダンデリオンの一員だった。負けるはずがないでしょ!!それとも…」
あたしはゴクリと唾を飲み込み、言い放った。
「あなたが元貴族だったから、とでも言いたいの?(⁉︎)」
これにはさすがの村長も動揺を隠せなかったそうだ。
「なぜそれを…リンにも話したことはないはずだ…」
「前言ってたよね?一方的にリンさんを知ってるって。それはリンさんが義勇団にいた時、村長がまだ貴族だったからでしょ?でも義勇兵なら誰でもあなたの事を知ってるそうよ。だって、」
『シトラトス・ド・フレイユは唯一、貴族で義勇団の味方だったから』
リンさんの言葉をそのまま伝えると、村長は微かにたじろぎを見せた。
追い討ちをかけるように、あたしは言葉を続けた。
「あなたは何度も義勇兵を助けたことがある。争いが起こらないように、決して血を流さない方法で。得意の話術で。助けられた義勇兵はみんな、団長のリンさんにその話をしたそうよ」
「…違う(‼︎)」
その言い方からは、何か怒りのようなものを感じた。
「私は…ただ…」
貴族とは、何をもって貴族と呼ばれるのか。
分からない。
お金があるから、偉いのか。
偉いから、貴族なのか。
その方程式は、私にはどうも腑に落ちなかった。
私は望んでこの地位に生まれたわけではない。
なのに生まれた時点で区別され、我々は特別だ。選ばれし人種なのだと教え込まれた。
昔、幼心で両親に聞いたことがある。
なぜ私たちは同じ人間なのに、地位を区別したがるのか、と。
すると両親は妙な目で私を見、『我々は特別。それだけで良い』と言った。
答えになどなっていなかった。
そんな疑問を抱えながらも私は大人になり、妻をもらい娘を授かった。
大人になって分かったことがあった。
「貴族とは、人と自分とを区別することでしか自己肯定感を見出せない弱者なのだ」
陰で義勇兵を虐げているところを見ると、同じ貴族として辱めを覚えた。
そんなことをして何が楽しい?
貴族である前に、人としてどう思うのか。
「だから止めさせていた。正義感からではない。彼らが私を讃えていたのなら、それは彼らの思い上がりだ」
なのに…だ。
「ある日私は前王から宣告を受けた」
『シトラトス・ド・フレイユは貴族の権威喪失を脅かす脅威であると判断し、その地位を剥奪、村送りとす』
他の貴族から見れば、私は下地民を味方する裏切り者だったのだろう。
つまるところ、邪魔だったのだ。
私はただ、人を人と思わないことで自分を維持できない人間にはなりたくなかっただけなのに。
誰も私の考えなど受け入れてくれなかった。
「私はきっと、貴族に向いていなかったのだと思う。だから村の生活にもすぐ慣れることができた。お前たちを一度も下と見たことはない。けれど心残りは…シティ・ロマーノに置いてきた私の家族だ」
2人に会いたい。
狭い思いをしてないか?
こんな夫で、父親ですまなかった。
こんなちんけな村で罪滅ぼしをしたとて2人には届くまい。
謝りたい。もう一度だけでいいから…
会いたい
「村送りになって20数年。その思いは変わらなかった。しかしひと月前…私は現王にに呼ばれたんだ。彼の計画に賛同するならば、貴様の身分を戻し、家族に会わせてやろう…と」
「家族のために、村を敵にしたってこと?」
「あぁ、そうだ」
村長は力強い眼差しで言った。
「元貴族や村長である前に、私はひとりの人間だ。意思があり、我がために生きる生物だ。私は家族に会う。そのためなら人殺しにだってなってやる」
「へぇー、そりゃ立派な野望だな(⁉︎)」
ここにいるはずがない声に、村長は撃たれたように後ろを振り向いた。
「貴様…なぜ…!?」
「リンさん!!!!」
相棒の白夜を杖代わりにし、シャツを包帯代わりに腹部に巻いている。
血で染まった箇所を手で押さえながら、おぼつかない足取りでこちらに向かっている。
「なぜ生きとる…あの時確かに、このナイフで貴様を刺した。後始末は義勇団に任せたはずだ」
血で染まったナイフを見つめ、動揺する村長を見ながらニヤニヤと笑うリンさんを見て、村長は何かを察した。
「…裏切ったのか」
「いいや、あいつらは忠義を尽くしてあたしに立ち向かったぜ?ただ、あたしがそれより実力が上だったって話さ…」
「まさかっ…!あの場に5人はいたはずだ!」
「そうだったっけな。全員のしたから、よく覚えてねぇや(⁉︎)」
その傷で…!?とでも言いたそうな顔で村長はリンさんの腹部を見た。
村長は本気で、リンさんを殺せたつもりだったんだろう。だから心波に影響がなかった。
「アレン!よく時間稼げたな!」
「リンさん!!もう、心配したでしょ!!」
「わりぃな!でもこれだけは覚えとけ!」
そして決め台詞かのように、人の気も知らないでカッコつけて言った。
「ヒーローは…遅れてやってくるんだぜ?」
自分はマグロ体質なので、一箇所にじっとしてられません。
常に動き回ってる。マグロのように。
※追記
3/6のブラフラはお休みとさせていただきます。




