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ガタン!!という大きな物音と共にその日は目覚めた。
家の裏からだ。
あたしは急いで着替えをして様子を見に行った。
家の裏には備品がしまわれてる倉庫のようなものがある。
「リンさん?」
中を覗くと、荷物がひっくり返ってる中にリンさんはいた。
「大丈夫?すっごい音聞こえたけど」
「ちょっと探しもんしてたら上の荷物が崩れたんだよ。お前普段どんな入れ方してんだ」
「リンさんがドジなだけでしょ」
「っ…いいから手ぇ貸せ!」
リンさんが伸ばした手を掴んだ…その時。
「うわっ!?」
リンさんは自分の方にあたしを引き寄せ、あたしも荷物の中に吸い込まれた。
「ちょっ!!?」
「ハッハッハ!!ザマァ見ろ!!」
「このーー!!」
しばらく揉み合いになって、余計中を荒らした。
「ギブギブギブ!!」とリンさんが叫ぶ。
「お前に見せたいもんがあったんだよ!!」
ここでようやくあたしは暴れるのをやめた。
「見せたいもの?」
「あぁ。だから一回どいてくれ」
あたしが退くとリンさんは勢いをつけて立ち上がり、倉庫の奥にある物をよけた。
そこには取っ手の付いた細長い木の箱が地面に埋め込まれていたのだ。
「こんなところに箱!」
「もう二度と見ることはないって思ってたがな」
「何が入ってるの?」
ほんとに簡易的な箱で、鍵などは特にかかってなかった。
その代わりに荷物を上にたくさん積んでたんだろう。
リンさんは取っ手を上に引き、あたしはワクワクとドキドキ半分ずつの気持ちで中を覗いた。
「これ…って…!」
「あぁ」
中にあるものを手に取りながら、リンさんは言った。
「本物の刀だ(‼︎)」
リンさんはあたしにかからないように軽くフゥーっと息を吹きかけると、鞘に被ってた埃が宙を舞った。
少しくすんだ白い柄に太陽のような形が施された鍔。
鞘も柄と同じ白で、まるで太陽の光が降り注いでるような模様が描かれていた。
リンさんがゆっくりと鞘を抜くと、灰色の刀身が鈍く光を放った。
あたしは初めて見る刀に目を奪われたが、リンさんは昔懐かしい友達と会うような顔つきだった。
「もしかして、リンさんの?」
「あぁ。そうだ」
リンさんは天高く刀を突き上げる。
「名刀 "白夜"。あたしが現役だった時の相棒だ」
「白夜…かっこいい名前!」
「だろぉ?沈まねぇこいつの光は、いつもあたしに勇気をくれる」
「刀が勇気をくれるの?」
「ハハっ!いつかお前も分かる日が来るよ」
そう言ってリンさんはあたしの頭を軽く叩いた。
あたし達は一度倉庫の外に出た。
リンさんはお風呂を沸かす時に使う薪を片手で持ち、それを投げて宙に浮かせた。
その後に起こった出来事はあまりに一瞬だった。
「ハァッッ!!!」
スパスパスパっ!!と、薪が地面に落ちる時にはその原型はほとんど留めていなかった。
なんか認めたくないけど、動きはもはや芸術的で。
やっぱすごいと思わざるを得なかった。
リンさんは感触を確かめるように峰をポンポンと左手に当てた。
「さすがは相棒。一切質が落ちてねぇ」
「ねぇ、あたしにも触らせてよ!」
「いいけど、丁重に扱えよ?」
リンさんは一度白夜を鞘に入れ、あたしに渡した。
白夜はとっても重かった。これをあんなに軽々しく振れるんだ。
「ねぇ、どうして急に昔の刀なんて取り出したりしたの?」
刀を返しながら聞くと、リンさんは雲がかった顔をした。
「最悪なケースへの備えだ」
「最悪?」
「あ、ちなみに今日アリストはここに来ないぞ。あいつにも協力してもらってんだ」
「訳がわからないよ。ちゃんと説明して」
「あぁ」
リンさんがその場に腰を下ろしたので、あたしも同じように座った。
細かい話は割愛するが、とリンさんは前置きをした。
「結論から言うと、貴族がアウトフォレストにある全ての村に派遣された理由。それは森の外側全て、つまりこの島丸ごと奴らの領土にするためなんじゃないかって思ったんだ」
「どうしてそう思ったの?」
「まぁ順番に話を聞け。まず、最近この国の王が変わったのを知ってるか」
「え、そうなの!?」
あたしが普段読んでいる新聞は外の世界についてのニュースだ。
だけど国内の情報が森の外にいる人間に流れることはない。
自ら王国内に行って情報を手に入れない限り、あたし達が国の情勢を知ることはできないのだ。
「あたしもアリストから聞くまで知らなかった。あれ以来国にも行ってねぇしな」
「で、その王様はどんな人なの?」
「前の国王は病気で死んで、今の国王はそいつの息子。かなり若いらしい。そして過激的な思想の持ち主そうだ」
「過激的って?」
「王族の中では二つの考え方があってな。あたし達アウトフォレスターをあえて生かし、国の経済源であるシティ・セントロに住む奴らの活動の原動力とするという保守派。そして、ゴミに生きる価値なんてない。いるだけ邪魔だと考えると過激派だ。残念ながら今の国王は後者らしい」
生きる価値なんてない?何てぶっ飛んだ考え方なんだ。
「そして王の交代直後に貴族共は各村に派遣された。アリストが言うに、この計画に参加した貴族は王族に昇進できるらしい。それだけ大事な計画ってことは、国全体で動いてる可能性が高い」
「もし、この島一体が国のものになったら、村の人たちはどうなるの?」
「そりゃああたし達に生きる価値を見出してねぇ奴らだ。救済の措置が無けりゃ…文字通り、排除するかもな(⁉︎)」
(それ……って)
「殺す……ってこと?」
「…」
リンさんは何も答えなかった。どうやらそうらしい。
「…考えすぎだよ。アウトフォレストに何人の人が住んでると思ってるの?」
「だから言ったろ?最悪のケースだって。あたしもそうならないことを祈ってるよ」
そうか、リンさんはいつでも戦える準備をするために刀を…
「ビレッジ・ステイが終わるまで後2日。あたしは一刻も早くこの考えをシトラトスの野郎に伝えてぇんだが…あいつまじでどこにいんだ?」
「そういえば村長、最近見ないね」
「貴族の男の方もだ。多分、男の方に監視されてんだろ」
「大丈夫かな…」
今の話を聞かされてしまったら、だいぶ不安になってしまう。
リンさんはあたしの頭を優しく叩いた。
「大丈夫。村長はあたしが絶対見つける。心配すんな」
「うん…。あ、他のみんなには?伝えた方がいいんじゃない?」
「いや、やめた方がいい。あたしが今話したことは全てあたしの妄想だし、何より混乱を招く。お前も、頭の片隅に入れてくれりゃそれでいい」
それより、とリンさんは海の方を指差して言った。
「あそこ。林と海の間に大きな蔵がある。そん中に7隻くらい漁船があんだ。壊れてる場所があるか、人が乗っても大丈夫か点検して、できたら海に浮かべといて欲しい」
「いつでも逃げれるように?」
「そう。準備はしといて損はねぇだろ?」
「…うん。わかった」
「頼んだぜ。あたしは仕事に行かねぇといけねぇから。アリストが何か情報掴んでたらまた報告する」
リンさんは扉の裏に白夜を隠して出かけて行った。
何かが始まろうとしている。
何か、嫌なことが。
クッキーはパリパリよりもしっとりしてる方が好きです。
よく歯に挟まります。でも美味しいです。




