41 召使い
お昼ご飯を食べ終え、食器を片付ける。
そして丘の上の家から海の方を見下ろすのが、最近のルーティーンになっていた。
(うぅ…また来てる…)
あたしは浅くため息を吐き、意を決して家を出た。
海岸で拾ったであろう小枝を使い、砂浜に絵を描く少年が一人。
あたしが近づくと、やっぱり不細工な笑顔であたしの偽名を呼ぶ。
「ウミちゃん〜!今日も来てくれたんだね」
「う、うん!アリストこそ、毎日ここまで大変じゃない?」
「全然。ウミちゃんに会えるって思ったらへっちゃらだよ」
"ちゃん"が付いていないと言いにくいと、彼は再びあたしをウミちゃんと呼び始めた。
なんだか女の子扱いされてるみたいで、実はちゃんを付けられることはあまり好きじゃない。
でもあたしと"ウミ"は別人だし、気にしないことにした。
「お母さんとお父さんにこの事言ってないんだよね?心配されないの?」
「大丈夫。ぼく信頼されてるから。ぼくはいい子だから」
ーーー
『アリストちゃんはいい子ザマスねぇ〜!世界一可愛いアタシのアリストちゃん♡』
ーーー
「ぼくは幸せだよ。貴族に生まれて、お母様とお父様の間に生まれて」
「…そっか」
「ウミちゃんも幸せになれるよ!ぼくと結婚したら、こんなうす汚い村から抜け出せるんだから」
サラッと毒を吐く彼に悪気は一切見られない。
本心で思っているからだろう。
「アリストは、この村好きじゃない?」
「うん」
「どうして?」
「だってビンボーだし、服は汚いし、家は小さいし。お母様がぼくらは特別な人間なんだってよく言ってたけど、その意味がよく分かったよ」
(ブレーキ…ブレーキ…)
頭の中で自分に言い聞かせる。
表情にこそ出してないけど、あたしの拳は小さく震えてた。
「あたしは好きだよ、この村」
「えー?どうして?」
「緑豊かだし、静かで暮らしやすいし、何よりみんな優しいの」
「そうかなー。召使いの一人でもいた方が絶対楽だし、ぼくのお母様の方が優しいよ」
何年経ってもあたしは彼のことを理解することはない。
アリストとは友達になれない。結婚なんてもってのほかだ。
確信に近いものをあたしは感じた。
そんな事もつゆ知らず、「あ、そうだ」とアリストが話を変える。
「お母様がね、最近新しい召使いを雇ったんだ〜」
「ふーん…」
「女の人なんだけどね、お母様が給料をやるって言ってるのにお金を一切もらおうとしないんだ」
「へー」
「お母様もお父様もいじわるでね、へへっ、その人が重罪人って知ってるのに知らないふりしてるんだ」
「………え?」
「バカだよね。こんな僻地に住むアウトフォレスターだし、仕方ないけど」
その言葉を聞いて、あたしは反射的にアリストの胸ぐらを掴んで押し倒した。
「な、何すんだウミちゃ…!!」
「その人の名前は?」
「エッ…!?」
「そのバカで重罪人でアウトフォレスターの召使いの名前を教えろっつってんの!!!」
あたしの態度があまりに一変したから、アリストは気が動転して声が裏返ってしまっていた。
「ステラ・トンプソンだよ、!き、君も名前くらいは聞いたことあるだろ!?この国のA級戦犯が、この村にいたんだ!(⁉︎)」
腕の力がフッとなくなり、ブランと落とした。
空っぽの頭を抱え、あたしは無我夢中で走り出した。
途中でアリストの呼ぶ声が聞こえた気がするけど、そんなの気にしてる余裕はなかった。
(早く行かなきゃ…早く伝えなきゃ……早く…早く……!)
どこまで走ったのだろう。
突然耳元で声が聞こえた。
「アレン?(⁉︎)」
キィーーーー!!!と急ブレーキをかけ、あたしはその場に止まった。
「リン…さん……」
「おい、どうしたんだ…!……レン?………!!」
「…」
目の前が真っ暗だ。
微かに聞こえる声が、心波が、リンさんがそこにいることを伝えている。
でもそれも、すぐに消えた。
最近、自己肯定感が虚無すぎるのでちゃんと自分と見つめ合おうと思いました。
あ、上記の事と全く関係ありませんが来週のブラフワはお休みとさせていただきます。(この1、2週間が鬼忙しいのです…はぁ。)
次回もよろしくお願いします!




