38 いらぬ調査
「ご職業はお医者様ですの!村で唯一の診療所ともなれば、たくさんの方が利用しているのザマしょ?」
「ま、まぁ…みんな一回はうちに来たことがあるだろうな」
消毒液と包帯をもらいに来たはいいが、ドクターが例の貴族に絡まれていた。あの人の息子も一緒だ。
質問を投げかけながら、何やらメモを取っている。
「奥様とは4年前に死別、現在はお一人なのね?」
(何をしているんだろう…)
「アレンちゃん!アレンちゃん!(‼︎)」
後ろからあたしを小さな声で呼んだのは、理髪店のおばちゃんとおじちゃんだった。
不安げな顔であたしのことを手招きしていたので、2人のところへ行った。
「アレンちゃん、ドクターのとこに何か用かい?」
「うん、包帯とかもらおうと思って」
「悪いことは言わないから、明日出直しなさい。あのオルキーダとかいう貴族、さっきうちの所にも来て、あんな感じで私たちのことを根掘り葉掘り聞いてたのよ」
「あまりにプライバシーなことも聞いてくるからそれは答えたくない!って言ったんだ。したらあいつ…」
『あら、このお店が潰れてもいいわけ?』
「って脅してやんだよ、クソが!」
「あなた!もっと声を落としなさい、彼女に聞こえたらどうするのよ!…こんな調子だから、ね?」
「…分かった。また明日来るよ」
あたしは諦めて今来た道を戻ることにした。
(それにしても、何のためにそんな聞き込みをしてるんだろう…)
「アレン!ここにいたか」
「村長!」
村長は軽く息を弾ませていた。
あたしのことを必死に探していたんだろう。
村長はあたしの身長に合わせて屈んだ。
「いいか、よく聞きなさい。今、オルキーダとその息子が全ての家庭に聞き込みをしている」
「うん、さっきドクターのとこにいたよ」
「そうか。きっと、今は住人一人ひとりの個人情報を収集することが目的だろう」
「じゃあ、あたし見つかっちゃダメだ!死んでるから」
「呑み込みが早くて助かるよ」
自分でもおかしなことを言っているなと思う。
でも話は全然笑い事ではない。
「今すぐリンのところに帰りなさい。リンはちゃんと家にいるな?」
「うん、窮屈で嫌だって駄々こねてるけど」
リンさんが時々遊び半分でこっちに来ていることは伏せといた。
ただでさえ相当なストレスを抱えている村長にこれ以上迷惑はかけたくなかった。
「2人の家はここからだいぶ離れている。見つかることはないだろう」
「うん」
「では、私は仕事に戻るよ」
「…がんばってね」
村長はニコッと笑って駆け足で行ってしまった。
その背中にはどれだけ大きなものが背負われてるんでろう。
(あたしには計り知れないんだろうな)
そんなことを考えながら家路を辿った。
本当に大変なことになってしまったと思う。
まだ2日しか経ってないのに、こんな調子でやっていけるのか。
不安で頭がいっぱいだった。
(帰ったらリンさんにもちゃんと言わなきゃ。今村に行ったら危な…)
「‼︎」
家の目の前まで来た時、あたしは感じた。
反射的に身を屈め、音を立てないように窓の下に移動した。
そっと窓から中を覗く。
「リン・フェリキタス。確認したがあなたの名前はどこにも見当たりませんね」
「ちゃんと調べてください。土足で人ん家の敷居跨いで、当てつけは困りますよ」
(貴族!!)
思わず声に出しそうな口を両手で抑え、あたしは再び窓の下に隠れた。
あれは確か…バッハだ。オルキーダの夫の。
(どうして?なんで家にいるの?ていうかそもそも、どうして家がここにあることを…?)
ペラっ、ペラっと紙をめくる音が聞こえる。
「残念だが、無いものはない。こちら側で戸籍が登録されていなければこの国に住むことは許されない。こんなチンケな村でもだ」
「だからあたしの住民票を見てくださいよ!『リン・フェリキタス』!!貴族であらせられるのに名前も読めないんですか?(‼︎)」
心臓がバクッッと飛び出そうだった。
「貴様…口には十分気をつけろ」
「…どうも失礼しましたっ」
(リンさん…貴族にもそんな口調…)
あたしは半分涙目になっていた。
「シティ・セントロに住んでいたそうだな?こちらに移り住む時に何も手続きはしなかったのか」
「自らアウトフォレスターになることを志願する場合、手続きも何もいらないんですよ。むしろあなた達にとっては万々歳でしょ?目にかける必要があるゴミが消えてくれるんだから」
「当時はそうだったかもしれんな。だが時代は変わったのだ」
パタン、と本を閉じる音と共に再びバッハの声が聞こえる。
「ひとまず貴様の仮の戸籍をこちらで作らせてもらう。いるはずの人間が|いなくなってしまっては困る《・・・・・・・・・・・・・・》からな」
「別に、あたしは逃げも隠れもしませんよ。それにしても楽しいんですか?人を人が支配するのって」
「楽しいから支配しているのではない。それが自然の摂理なのだ。何か文句でも?」
「…いいえ?ただの興味です」
ガチャ、と扉の開く音と共に貴族は家を後にした。
軽い足取りで帰っていく。
もう来ないと分かっているのに、あたしは足に力が入らなかった。
「おい、そこで何してんだ(‼︎)」
タバコを咥えたリンさんがドア越しにあたしを見つけた。
「リンさん!!!」
あたしはリンさんに抱きついた。
不覚にも涙がポロポロと流れ出る。
「なっ、どうした!?」
「びっくりさせないでよ!!何で家に貴族がいるの!?」
「なんでって、」
「リンさんだって悪いよ!!貴族相手にあんな口調で、もしあの人が怒って、連行されて、リンさんがいなくなったら…あたし……あたし……!」
「…!」
この時はもう自分でも何を言っているのか分からなくて
何を言いたいのかも分からなくなって
ただリンさんを失う恐怖で涙が溢れた。
リンさんはそんなあたしを見兼ねて、滅多に出さないハチミツ入りのホットミルクをあたしに出してくれた。
「落ち着いたか?」
「…うん」
「聞きたいこと。全部吐き出して消化しな。そうすりゃ、少しは楽になるだろ」
リンさんもあたしと対面になるように席につき、椅子の上で膝を抱えた。
大丈夫、さっきよりも落ち着いてる。
ホットミルクの生温い温度が、あたしの心も温かくしてくれた。
「あの人はいつから来てたの」
あたしは最初の質問をした。
「1時間くらい前」
「何を話してたの」
「聞いてたろ?戸籍の話だよ。あたしの戸籍登録がないって騒いでたんだ。ま、何とか追い返せたからよかったが」
「ほんとにそれだけ?他に何も聞かれなかった?」
「あたしがステラ・トンプソンだったってことか?それに関してはノープロブレムだ。ほら、やっぱ髪切っといてよかっただろ?」
そう言ってリンさんは片手で髪の毛をなびかせた。
リンさんもこんな調子だし、心波も揺らがないから多分、ほんとに大丈夫なんだろう。
「それにしても、何でここに家があることが分かったんだろ」
「そりゃ……」
リンさんは頬杖をついて、深妙な面持ちで呟いた。
「ここにあたしがいることを誰かがチクったんだろうな(⁉︎)」
誠に勝手ながら、来週のブラッド・フラワーは休載させていただきます。
なので今回で今年度最後の掲載となりました!
毎度本当にご愛読ありがとうございます!!
来年もより一層精進して参りますので、どうぞよろしくお願いします。
次回の掲載は1/2です。
では皆様、良いお年を!




