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ブラッド・フラワー  作者: 御稲荷 薫
ジョワブル王国/ペティット村編
37/67

37 悪夢の始まり

今日のペティット村は"落ち着きがない"という言葉がとても似合っていた。


村の入り口に、ほとんどの住民が集まっている。

心波を感じなくてもそわそわしていることが分かる。


そりゃそうだろう。だって今日は…


「いらっしゃったぞ(‼︎)」


村長を先頭に、大きな馬車が続く。そして側近には武器を持った義勇団員が。


「この村で戦争でもする気かよ…」

「ばか、口を閉じろっ」


馬車は入り口の一歩手前で止まった。


荷台に階段が掛けられると、この村には似合わない豪華絢爛な衣服に身を包んだ3人の人たちが降りてきた。


彼らを見てあたしは目玉が飛び出しそうになった。


いや、彼らではなく…彼女(・・)を見て。


「オーーホッホ!何て空気の悪いところでザマしょ!」

「全くだ。ここまでの旅路も不快極まりなかったな」

「お母様ー、お父様ー。ここは本当に王国の一部なんですかー?こんな雑居によく住めますねー」

「いつも言ってるでしょう?アリスタ。彼らとは生まれた時から立場が違うの。我々は選ばれし人間のトップザマスのよ?」

「えぇ、そうでしたねお母様!」


(あの女の人…あの時の…!)


赤縁の丸メガネに丈の短いワンピース、ハイヒールを高々に鳴らすあの自信の表れ様。


あたしが初めて見た貴族。小さな男の子に難癖をつけて自分の権力を見せびらかしてた人だ。


コホン、と村長が咳払いをして彼らの会話を遮った。


「皆に紹介しよう。この度ここ、ペティット村に1ヶ月程ビレッジ・ステイをすることになられた ブルメン家当主 バッハ・ブルメン様、奥方 オルキーダ・ブルメン様、そしてご子息のアリスタ・ブルメン様だ」


(どうしてよりによってあの人が…!)


「アレンちゃん、大丈夫?怯えることないわ」

「は…はい。ありがとうございます」


一緒に付き添ってくれたウィルのお母さん、ジーアンさんが心配そうにあたしを見る。


あたしの派手な水色の髪は帽子で隠すことにした。

本当はカツラを買いたかったけど、本国に行かないと買えないので断念した。


「紹介に預かった、我らがブルメン一家だ」


バッハと呼ばれた長いシルクハットを被った中肉中背の男性が一歩前に出る。


「王の命によって1ヶ月程滞在するが、貴様らアウトフォレスターと関わるつもりは一切ない。どうぞ今まで通り地べたに這いつくばって暮らしてくれ」

「あらやだアナタ!アタクシは彼らの事をたっくさん知りたいわ!」


オルキーダはたまたま目の前にいた男性の手を取り、握りしめた。


「下民は道端の草しか食べないって本当ザマス?常に金に飢え、目は泥沼のように沈んでいるってお母様に聞いたわ…!」

「な、何を言ってるんだ…!」


思わず口答えをしてしまった男性をオルキーダはパンッ!!と平手打ちをした。


「まったく。教育がなってないザマスね」

「す、すみませんっ…!どうかお許しを…!」

「オホホっ。まぁ宜しい。今日はすこぶる機嫌が良いザマスの。アタクシはただアナタ達を知りたいだけ。たくさん教えてくださいまし?」

「ゴホン。では、ブルメン様。宿泊施設にご案内致します」

「あら、楽しみですわ。では皆様、ごきげんよう」


そうしてブルメン一家は挨拶を済ませてとっとと行ってしまった。


悪夢だ。


この十数分で誰もがそう思った。


・・・・・


「リンさん!!大変だよ!!」

「あー。よりによってあのクソババアがお越しになるとはな」

「え、何で知ってるの?」


まだ見慣れないショートカットになったリンさんはニヤニヤした顔であたしを見つめる。


いや、まさか。


「あの場にいたの!?」

「さすがにあんだけ人数いりゃお前にも気づかれないだろうなって思って」

「バッカじゃないの!?あれだけ村長に貴族のとこには行くなって言われてたのに!!信じられない!!」

「ピーピーピーピーうるせぇな。村長みてぇにハゲるぞ?将来」

「あたしだってリンさんのためを思って!」

「それより、なんか騒がしくねぇか?」


人の話を聞け!!と言おうとしたが、あたしも外で大きな音がするのが聞こえた。


まるで、何かが崩れてるような。


窓越しに村のある方を見た。


すると、村の真ん中で大きな土埃が立っているのが見えた。


「あそこ…村役場がある場所だ」

「…行こう」

「リンさんはダメ!!」

「何でお前に止められなきゃいけねぇんだよ!!」

「ついてきたらウィルのお母さんにリンさんの過去全部バラす!!(‼︎)」


さすがのリンさんもこれは堪えたようだ。

最近かなり仲良くなってるからね。


リンさんは「チッ」と舌打ちした。


「アレン。お前、後で覚えてろよ?」


あたしは指で下瞼を引っ張り、舌を出して対抗した。


「べーーだ。いってきます!」


・・・・・


村に降りると、それはそれは大変なことになっていた。


みんな揃って真っ直ぐ見つめている。

視線の先には跡形も無くなった村役場が。


あたしは近くにいた人たちに何があったのか聞いた。


「なんだって、村で1番大きいパーティー会場を宿泊所に改装して提供したら、あの貴族の子供が気に食わなくて泣き散らかしたらしい」

「それであの夫婦は怒り心頭。この村のシンボルである村役場を自分たちの別荘として建て直す(・・・・)ってよ(⁉︎)」

「義勇団もご苦労なもんだよ。貴族の奴隷になるなんて俺はごめんだな」


取り壊されている村役場の前で、あの家族が優雅にティータイムをしているのが見えた。


その横で村長が立たされているのも。


「ったく、お前達が私たち貴族に別荘を用意するなど100年早かったのだ」

「アタクシは気に入ってましたわよ?ただ坊が嫌だと言うのだから仕方がありませんでしょ?」

「お母様ーお腹空いたよー」

「…」


背中越しでも村長の肩がワナワナ震えているのが分かる。


必死に怒りを抑えているのだ。


(悔しいんだろうな…あの子のたった一言のわがままで…)


驚いたことに、彼らの別荘はたった一晩で完成された。

皮肉にも、村役場を土台にして。


貴族のビレッジステイが始まってまだ1日。


だけどこれは悪夢の始まりに過ぎなかった。

このご時世だからか、暗い映画やドラマがめちゃくちゃ流行ってますね。


今は冬で気分も落ち込み気味ですが、小さな幸せを見つけて頑張って生きていきましょう…!

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