36 重大発表
「皆さん、急にお呼びかけしたにも関わらず集まってくださってありがとうございます。改めて、村長のシトラトスです」
村長はメガホンを片手にいつものシワがれた声で話し始めた。
全員ではないが、村役場にはほとんどの住民が集まっている。
あたしとリンさん、ウィルとウィルのお母さんは後ろの方で静かに村長の声に耳を傾けた。
「皆さんご存知の通り、私は先の1週間、シティ・ロマーノにおりました。そこには他の村の長も私と同じように呼び出されていました」
「アウトフォレストに住むの村長全員集められたってことか?」
「左様。そしてシティ・パレス、シティ・ロマーノで決議されたある事項を我々に伝えた。その旨を皆にも共有する」
そしてゆっくり息を吸い、全員に聞こえるように大きな声で伝えた。
「来週から約1ヶ月、シティ・ロマーノにお住まいの貴族様御一行が我々の村に試験的に駐在することになった(⁉︎)」
この瞬間、あたし達の間にどよめきが一気に走った。
「嘘だろ村長!!」「なぜ貴族がこの村に!?」「俺たちを人間とも思わないあんな奴らと一緒にいられるか!!」「絶対反対だぞ!!」
ヤジが次々と村長に飛ぶ。
あたしは思わず耳を塞いだ。自分の声も聞こえないくらいの声量だ。
そんな中。
「鎮まれーーーーーー!!!!(‼︎)」
群衆に負けじとメガホン越しに村長が大声で叫んだ。
キーーーンとメガホンのハウリング音が耳をつんざき、ようやくヤジは収まった。
「私…いや、他の村長だって同じ気持ちだった。断固反対した!しかし、貴族は…」
『我々は今まで主らを拒絶し、知ろうとすらしなかった。しかし、我々は皆同じこの国の民。主らと同じ生活を共にすることでより良い国を創り上げることができると考えた』
「そんなの出まかせだ!どうせ俺たちを嘲笑うために来るために決まってる!!」
「…すまない、皆」
村長はがっくりと肩を落とした。
だけど誰も村長を責めなかった。
みんな分かってるからだ。
(貴族には誰も逆らえない…)
それがこの国のルールだ。
選択肢というものがそもそも与えられていない。
あたしは悔しかった。その思いは村長も同じだった。
「しかし、私はこれをチャンスだと思っている。 貴族に我々の意地を見せる時だ」
「どういうことだ、村長?」
村長は片手を広げて訴える。
「考えてみてくれ!過去の歴史の中、貴族がアウトサイダーの暮らしに溶け込もうとしたことがあったか?」
「いや…」
「これはチャンスなのだ!我々の暮らしを少しでも彼らに知ってもらえれば、私たちに対する考えも変わるかもしれない!」
たしかに、と周りの人が口々に呟く。
「できることは全てやろう。逆境を力に変えよう!これはのうのうと高みで生きている貴族にはできぬことだ!」
「たしかに…受け身ばっかじゃあいつらに舐められるだけだもんな」
「そうね。来ると決まったからにはこちらも準備をしなきゃね!」
「乗り越えようぜ!!この逆境をみんなで!!」
みんなの指揮が高まる。
そんな中、村長があたし達の方に歩み寄ってきた。
「すまぬ、2人とちと話をしたいのだが。場所を変えよう」
あたし達はリンさんのお家に集まった。
こうして3人でリンさん家に集まるのは地味に初めてかもしれない。
「私が何を言いたいかは分かっておるだろうが…君達2人には特に迷惑をかけることになりそうだ」
「…そうみてぇだな」
リンさんはタバコを吸いながら窓の外を見ていた。
「なんで迷惑?」
「忘れたのか?お前、死んでることになってるだろ」
「あ」
あの時のことが隅々まで蘇る。
「そうだ!!あたし死んでるんだった!!」
「アレンだけではない。リンだって国のお尋ね者。演説であぁは言ってものの、2人にとってこれはチャンスでも何でもないんだ」
「あたし達大ピンチじゃん…!」
ことの重大さがようやく分かった。
村長は深妙な趣きで話す。
「そう。2人にとっても私にとってもかなり厳しい1ヶ月になるだろう。私もできる限り協力する。幸いここは村からは見えないし、1ヶ月分の必要物資を運べば…」
「おいおい待て。誰がここから出ないって?(‼︎)」
ぷかぷかと煙をふかしながらリンさんが首を突っ込む。
「あたしもアレンも、別に引き籠るつもりはねぇぞ」
「リン。お前たちが今どういう状況に立たされているか分かっているのか!」
「何もビビる必要はねぇよ。要は、あたしもアレンも姿がバレなきゃいいんだろ?」
「簡単に言うな!何か妙案でもあるまいし」
村長がそう言うと、リンさんはニヤニヤしながらこちらを見る。
タバコを灰皿に擦り付け、引き出しをガサゴソと探る。
リンさんが取り出したものは
「はさみ…?」
「見てろ?」
そう言って、リンさんは片手で腰まで長い髪の毛を持ち上げる。
もう片方の手ではさみを当てながら。
ジャキンっ‼︎ジャキンっ‼︎という音と共に束になった髪の毛がどっさりと床に落ちる。
あまりもの光景にあたしと村長は度肝を抜かれた。
「リン…さん…」
「へへっ、どーだ。似合うだろ!」
「お前ってやつは…」
ロングヘアがトレンドだったリンさんが、あっという間に肩よりも短くなってしまった。
「まぁあたしはそんな村に降りることはねぇだろうからこんくらいで十分だろ!アレンはなぁ…髪色でバレるよなぁ…」
「髪染める…?」
「いや待て。それは私が何があっても阻止する」
そして「わかった…」と深いため息を吐く。
「裏でコソコソしている方が怪しまれるかもしれんしな。何よりここで止めてもお前が言うことを聞くはずがない」
「お、よく分かってんじゃん!さっすが村長!」
呆れてる村長を他所にガハガハと笑うリンさん。
なんだか、何とかこの1ヶ月を乗り越えられそうだと思えたのは…きっとあたしだけじゃない。
オタクって…最強だと思うんですよ(急)
今年もあと1ヶ月!よろしくお願いします!




