34 そんな事
(ただのガキ同士の喧嘩ならそれでいい。だけどあいつは…アレンはあたしの訓練を受けてる…!)
こんな小さな村だ。些細な揉め事でも大きな事件のように扱われてしまう。
ペティット広場には多くの人が集まっていた。
その中心には母に寄り添われながら泣きじゃくってる男子と…
「アレン!!!!」
あたしはアレンの両肩を掴んだ。
「おい、大丈夫か」
アレンはただ顔を強張らせて俯いた。
目を合わせてくれない。
「なぁって!」
「リン!!あなたどうしてくれるの!?」
怒りの声を上げたのは、彼の母親…ジーアンと思われし人物からだった。
「見なさいよ!!ウィルの顔がこんなに腫れてるのよ!?」
あたしはジーアン息子、ウィルの傷を見た。
確かにかなり強く殴らないとできない跡だ。
でもあたしは不思議でたまらなかった。
アレンがこんなことをするとは到底思えない。
「…アレン、本当にお前がやったのか?」
「…」
あたしは確かめるようにアレンに聞いたが、答えは返ってこなかった。
「聞かなくとも分かるでしょう!?一緒にいた子供たちもみんな見てたのよ!!」
周りの証言があるなら…多分、間違いないのだろう。
あたしは立ち上がって深々と頭を下げた。
「この度は、アレンが息子様にとんだ御無礼を致しました。申し訳ございません」
あたしが綺麗な言葉で話したのが珍しいからか、周囲の人が少しザワついた。
まぁ、怒り心頭のジーアンはそこまで気を回すことなど毛頭できないのだが。
「あなたに謝られても仕方ないのよ!!謝罪を聞きたいのはアレンの方!!聞けば、まだ一度も息子に謝ってないみたいじゃない」
「そうなのか?アレン」
アレンは俯くだけで何も答えてくれない。
(なんで黙るんだよ)
あたしは「ウィルに謝れ」と言った。すると
「………嫌だ」
小さな小さな声が返ってきた。
さすがにこれにはあたしも頭にきた。
「嫌とはなんだ!!謝れ、お前が手ぇ出したんだろ!?」
そう言うと、アレンは初めて顔を上げた。
くっしゃくしゃの顔に目に涙を浮かべている。
そして、アレンはその場から走り去った。
「おい!!戻れアレン!!逃げんな!!」
しかし、呼び止めてもアレンは止まらなかった。
「すいません、すぐ呼んできますから!」
「いいえ、構いません。謝る気が無いのに謝られても困りますから」
そして吐き捨てるようにとどめを刺した。
「カエルの子はカエル。いつかこうなると思ってたわ。所詮、アレンもあなたと同類だったってことね(‼︎)」
怒りで拳にグッッと力が入る。
足を一歩踏み出すと、ジーアンは「ヒッ」と短く悲鳴をあげた。
「何事だ!(‼︎)」
タイミング良く村長、そしてアレンの事を伝えにきてくれたサヌテスが到着した。
おかげで我にかえることができた。
(ブレーキ…ブレーキ…)
あたしはアレンを探しに駆け出した。
「リン!!」
村長の呼び声が聞こえたが、構わずあたしはあの場から立ち去った。
・・・・・
(…多分、家には戻ってない)
あたしの直感がそう言った。
家に帰ってもあたしと2人きりだ。あの感じじゃ、対1で話したいとは思ってないだろう。
(だとすると…)
中間の森、図書館、村役場。
心当たりがある場所をしらみ潰しに探した。
そして。
「いるよ。今は部屋で落ち着かせてるわ」
「ハァ…ハァ…」
おっちゃん家。そこにアレンはいた。
「おっちゃんは?」
「ふふっ、それがね。あなたを探しに行ってしまったのよ。リンは絶対ここに来るからすれ違いになってしまうって言ったのに、聞かなくて」
おばちゃんは楽しそうに笑った。
「…わりぃ。迷惑かけて」
「困ったことはお互い様でしょ?いつもあなたにもアレンにも助けてもらってるから。このくらいの事どうってことないわ」
「何か聞いたか、アレンから」
そう聞くと、おばちゃんはあたしの隣に正座して、膝に優しく手を添えた。
「アレンは本当に優しい子ね。だって、あなたのために戦ったのだもの」
「あたしのため?」
えぇ、とおばちゃんは微笑んだ。
「殴ってしまった子が、あなたの事を悪く言ってたんですって。それが我慢ならなかったみたいよ(‼︎)」
…そんな。
「そんな事で、手ぇ出したのかよ!」
あたしは思わず声を荒げて言ってしまった。
「あたしこんな性格だし、コミュニケーションとるの下手だし、村のやつらに嫌われてることくらいアイツもとっくに知ってるはずだ!」
「あなたにとってはそうでも、アレンにとっては"そんな事"ではなかったって事でしょう(‼︎)」
「でも…」
(あたしのせいで、今度はアレンが…)
そんな事を考えていると、おばちゃんは優しい声で私に聞いた。
「あの子がうちに来た時、なんて言ったか教えてあげましょうか」
「…なんて?」
「…」
『…あたしのせいで、リンさんが悪者になっちゃう』
「‼︎」
「人が怒る時は、心を傷つけられた時って決まっているの。命の恩人であるあなたを傷つけられて、黙ってられなかったんでしょうね」
「……だとしても…」
「えぇ。今回はアレンが過ちを犯してしまった。ここからは、保護者であるあなたの仕事よ」
「お、リンじゃないか!おーーーい!!」
手を振っているのは、あたしを探しに行ってくれてたおっちゃんだった。
「あら、やっと帰ってきたのね。さぁ、リン。いってらっしゃい」
あたしはおばちゃんに礼を告げ、アレンがいるという部屋に向かった。
あたしがかけるべき言葉。
あたしだけがかけられる言葉。
(ちゃんと伝えられるかな…)
不安になりながら、あたしはアレンのいる部屋に入った。
この間朝焼けを久しぶりに見ましたが、綺麗ですね。
早起きもたまには悪くないと思った今日この頃です。




