33 親
「アレンちゃん、今日もありがとうね。最近疲れてるみたいだけど大丈夫?」
「大丈夫だよ!最近リンさんに稽古つけてもらってるんだ」
「稽古?」
「そう!毎日しごかれて結構きついけど」
「そ、そうなのね…ほどほどに頑張ってね」
「うん、ありがとう!」
(よし、今日はこんなもんかな)
あたしは荷物をヨイショと持ち上げ、帰路についた。
家の麓に着くと、丘の上からリンさんがあたしを見ていた。
「おかえり!アレン」
「ただいま!リンさん」
「そっからダッシュして2分で家に上がれ!上がれなかったら腕立て50回な!」
「え!?ちょ、急に!」
「はい、よーいどん!」
あたしは慌ててスタートを切った。
けど普通に歩いて10分はかかる道だ。2分で着くはずがない。しかも仕事で疲れてるのに。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
「残念、6分30秒」
「鬼か!!」
「限界を超えてこそ力はつくもんなんだぜ?それともなんだ?この程度の訓練でもうヘタレたのか?」
「手加減って言葉知ってる!?」
「悪いがあたしの辞書には載ってねぇな。夕飯作っとくから、追加分ちゃあんとやってから家入れよー」
ひらひらと手を振ってリンさんはさっさと家に戻ってしまった。
「あーーーもうっ!!」
あたしはムキになって腕立ての姿勢をとった。
「1!!2!!3っ!!」
・・・・・
「お、お疲れー」
げっそりしたあたしを見て、リンさんが声をかける。
「時間かかったなー」
「ちゃんとやっただけ褒めてよ」
「まぁまぁ怒んなって!ほれ、ちょうどシチューが出来たぞ」
「えーーまたシチュー?」
これで何十回目だろうか。
「うるせぇな!いいか、シチューは牛乳とバターと具さえぶち込めばどこでも簡単に作れる優れもんなんだぞ!村では牛飼ってるやつがいるから、牛乳とバターは取り放題だ!」
「そうだけど…もっといろんなもの食べたいよ」
「贅沢言うな。ほれ、食べねぇならあたしが食うぞ」
仕方なく、いただきますとあたしは両手を合わせた。
(美味しいけど、週4でシチューはキツイなぁ…)
不満を紛らわすために、あたしは話題を変えた。
「ねぇ、明日はお仕事お休みの日だよね?どんな訓練するの?」
「そうだなー。まずは基本的な体の動かし方から叩き込まなきゃな」
「えー、早く剣とか使いたいよ」
「何事も基本が出来てねぇと話にならん。今のお前の動きは隙だらけだ。それじゃあマスターどころか、あたしにすら勝てねぇぞ」
「じゃあ1日でその基礎ってやつ終わらせる!早くリンさんに勝てるようにならなきゃね」
「おーおー大口叩くようになったなぁクソガキが」
「けど」と、リンさんは真面目な口調で付け足した。
「アレン、これだけは忘れんな。力は刃物だ。それを使って守ることも出来れば傷つけることも簡単にできる。使い方には十分気をつけるんだぞ」
「うん、わかった」
「ほれ、手が止まってるぞ。さっさと残りの汁飲み干せ」
うっ、バレた。
あたしは両手で器を持ち、意を決してシチューを全て飲み込んだ。
・・・・・
コンコンコン
扉を叩く音がした。扉を開けずともそれが誰かなのは分かる。
わざわざこんな丘の上まであたしに会いに来るのは一人しかいないからだ。
「入っていいぞー」
あたしがそう言うと、その人物は静かにドアを開けた。
「ごきげんよう、リン。久方ぶりだな」
村長のシトラトスは帽子を取ってあたしに軽くお辞儀をした。
あたしは村長を家に上がらせ、椅子に座らせた。
「出張だったんだろ?シティ・ロマーノに」
「あぁ。5日間も向こうに行ったのは久しぶりだったな」
「平気だったのか?」
「おんぼろの部屋に泊らされたことか?それとも貴族の横を通るたびに足に唾をかけられたことか?」
「…わりぃ、聞かなかったことにする」
「いいんだ。もう慣れたもんだ」
あたしは村長に紅茶を出した。
村長は「すまないな」と断って紅茶を啜った。
「今回は何をしに行ったんだ?」
「その話しはまた今度。いずれ明らかにするさ」
「…あっそ」
話す気はさらさら無さそうなので深追いはしなかった。
「ところで、アレンは仕事かい?」
「いや、村のガキ共んとこに遊びに行ってる」
「彼女が来てからもう随分と経つな。この村に馴染んでくれて嬉しい限りだ」
「………あいつ、ダンデリオンに入りてぇんだとよ」
そう言うと、村長の紅茶を啜る手が一瞬ピクッと止まった。
「…やはりか」
「気付いてたか?」
「まぁ…図書館に来るとダンデリオンに関する本ばかりを読んでるし、最近君に稽古をつけてもらってるらしいと風の噂で聞いてね」
あたしは誰にも言えなかった不安を、村長に打ち明けた。
「これで…いいのかな」
「と、いうと?」
「なんだか、アレンの道をあたしが決めちまってる気がする。象の家に送らなかったのもそう、ダンデリオンに入りたいと思わせたのもそう。あいつには自由に生きて欲しいのに、まるであたしの後を追ってるみたいで…」
初めてダンデリオンに入りたいと言われた時、正直戸惑った。
明るい道ではない。
あたしにはその道しかなかった。けどアレンにはもっと他の選択肢がある。
「言ってしまえば、見ず知らずの他人のために命を張る仕事だ。強い奴が生き残り、弱い奴は問答無用で食われる。そんな世界にあいつを誘っていいのか…あたしは未だに答えを出せてねぇ」
そんなあたしを見ながら、村長は一言
「お前も親の顔になってきたな」と言った。
「からかってるだろ!あたしは真剣に…!」
「当然だ。親として、子供の未来を心配するのは」
村長は紅茶をカチャンと皿に戻して言った。
「何が正しいかなんて誰にも分からないん。だから正しい道を親が決める権利もない(‼︎)」
"正しい道を 親が決める必要はない"
その言葉は、あたしの中でどこか刺さったものがあった。
「お前はただ、アレンの行きたい道を信じればいい。子供の背中を押し、道を外しそうになったら元に戻してやる。だから、お前が悩むことなんて一つもないんだ」
「…たとえそれが、血だらけの道でもか」
「そうならないようにするのがお前の仕事だろ」
「まぁ…」
「お前の言いたいことも分かる」と村長は話を続ける。
「危険な仕事だ。常に死と隣り合わせだ。だが、そんな彼らのおかげで生かされた命も確かにあるんだ。それを1番知ってるのはお前だろう?」
「…」
「誰にでもできる仕事ではない。私は親の後を必死に追いかけるアレンを、誇らしく思うぞ」
「…」
『同情』『心配』『不安』
いつから他人に対してこんな感情を持つようになったのか。
一匹狼だったあたしが。
自分のことしか考えられなかったあたしが。
そんなことを思っていたその時、家の扉は珍しく二度も他人によって開けられた。
「リンさん!!村長!!」
「どうした、サヌテス。そんなに慌てて」
サヌテスと呼ばれたその女は、息を弾ませながらあたし達に伝えた。
「アレンちゃんが…!アレンちゃんがジーアンのとこの息子を殴ったのよ!(⁉︎)」
考えるよりも先に体が反応していた。
あたしはサヌテスの肩を掴んだ。
「場所は!?」
「ペ、ペティット広場よ…!」
あたしは2人を置いて家を出た。
風よりも速く走っていたと思う。
けどこの時は、頭に血が上って何も考えられていなかった。
先週は完全に時間感覚がバグってて不自然な時間に投稿してしまいました。申し訳ありません。
最近いろんなことに関してポンコツすぎるので改めていきたいと思います(願望)




