32 契約返し
「アレンちゃんこっちお願ーい!」
「はーい!」
「アレン!ちょっと頼めるかい?」
「ちょっと待ってねー!」
「アレンちゃん!」
「今行きまーす!」
あれからあたしは、すっかりこの仕事にも慣れて毎日村に来ていた。
「ありがとうね、助かったよ」
「いえいえ!またいつでも呼んでください」
この仕事のおかげで前よりもたくさんの人と仲良くなったし、友達もできた。
「アレン!この後公園でキックベースやるけど、来るよな?」
「行く行く!」
「よっしゃ!アレンはオレのチームな!」
「おいずりぃーぞ!ぬけがけだ!!」
「早いもん勝ちだろー?」
毎日が楽しい。本当に楽しい。
「じゃーねー!」
「「まったなー!」」
軽い足取りで家に帰った。
いつものように「ただいまー!」と言うと、思いもよらない光景が飛び込んだ。
あのリンさんが新聞を読んでいるのだ!
「リンさん!新聞読んでるの!?」
「アレン、ビッグニュースだ!!大変なことが起きた!!世界が動くぞ!!」
あたしの質問なんてこれっぽっちも聞いてない。
それほど興奮…いや、動揺している。
「どうしたの?」
「Mrs.Whoがダンデリオンのマスターになりやがった!!」
あたしの頭の中にはハテナマークがたくさん浮かんだ。
ミセ…なんだって?
「お前!まさかMrs.Whoを知らねぇのか!?」
はぁぁぁとリンさんは手をおでこに当てた。
「お前は毎週あの図書館で何を学んでんだ!!」
と言うと、リンさんはあたしを椅子に座らせて新聞を叩きつけた。
新聞には『【号外】Mrs.Who、世界防衛機関ダンデリオンのマスター入りが決定』の大々的なタイトルと、長髪で大きな丸いサングラスをかけた派手な女の人の写真が載っている。
リンさんはその写真を指差しながら言った。
「こいつがMrs.Who。名実共に、人類最強と言われてる(‼︎)」
「最強!?」
「あぁ。しかもこいつは趣味が悪い。歴史を左右する戦争や内乱では酒を飲みながら人の死を嘲笑い、自分に都合の悪い人間は存在ごと抹消し、世間を掻き乱すために不吉な予言を残したりする」
「予言……あ、魔女!村長が言ってた!」
(ていうことは…)
「ブラッド・フラワーの予言をしたのもこの人?」
「お、よく知ってるじゃんか」
「その魔女がダンデリオンに…?」
「な?不穏な予感しかしねぇだろ。しかもだ」
と、リンさんは新聞を持ち上げてバンバン叩いた。
「何を隠そう このMrs.Whoこそが、ダンデリオンが何十…いや、何百年もの間追いかけてるやつなんだ」
「何百っ…て!何歳なのその人!?」
「言い忘れてたが、こいつに関して分かってることはほとんどない。こいつの素顔だって初めて公になったんじゃねぇか?とにかく!うちとしては、こんな危険人物を放ったらかしにするわけにはいかない!けどな…」
"捕まえられたことは一度だってなかった"と、リンさんはがくりと肩を落とした。
「だから不思議なんだ。何で今更捕まるようなマネを?しかもなぜマスターの座に?」
「マスターって、ダンデリオンで一番高い位なんだっけ?」
「あぁ、総帥の次にな。けど軍人としてはそう、マスタークラスがダンデリオンの最高戦力だ」
(いきなり最高戦力に選ばれるほどの実力…)
只者じゃないってことは、よく分かった。
「あーーー心配だ。不安でしかない。ムーランさんに連絡取るか…」
「あ、そういえば。リンさんいつ字読めるなったの?」
「ばーか、これ見ろよ!」
とリンさんは新聞の文字を指さした。
「『Mrs.Who』『ダンデリオン』『マスター』これだけ情報あれば言いてぇことは大体分かる!」
と、自慢げに語るリンさん。
「でもそれ以外は何も分かんねぇ!このギュウギュウになってる文字観てるだけで頭痛がする!アレン、後でこれ読んでまとめてあたしに教えろ」
(なーんだ、読めたわけじゃないのか)
そう思いながら、あたしは新聞をぼーっと見つめてた。
(すごいな…見た目結構歳とってるのに、女の人で、ダンデリオンのトップに立てるんだ…)
「………あたしでもなれるかな…」
「え?」
「…え、あっ」
声に出して言ったつもりはなかった。
が、心の声が漏れてしまったみたいだ。
「お前、まだダンデリオンに入りたいだなんてぬかしてんのか」
「え、いや、その………!」
その時、あたしはふとある事を思いついた。
自分でも天才だと思うくらいすごい事を。
「ねぇ、リンさん。やっぱ文字を読めるってすごい大切な事だと思うの」
「あ?どうした急に」
「こうして新聞を読めるのもそう。値段を見て物を買うのもそう。文字を読めたら、世界ってもっと広がるんだよ」
「だから、何が言いてぇんだ」
「ねぇ、リンさん」
あたしは少しカッコつけながら、リンさんに顔を近づけて言った。
「あたしと契約しない?」
その顔が気に入らなかったのか、リンさんは顔をムスッとさせて「調子に乗んな」とおでこをツンと弾かれた。
「あたしがリンさんに文字を教えるから!新聞も読むし!だからその代わり、あたしに戦い方を教えて!」
「何のために?」
「強くなるためだよ!やっぱあたし、ダンデリオンに入りたい!」
「だから、お前には早いって…」
あたしは机をバンっ!!と叩いた。
「やる前から諦めるなんてやだよ!!」
あまりにも大きな声に、リンさんは少しびっくりしたようだった。
「あたしだって、リンさんみたいに人を守れるくらい強くなりたい!もう、守れられるだけじゃ嫌なんだ!!(‼︎)」
あなたに、憧れてしまったから。
それに、もしあの時もっと力があれば…研究所のみんなだって助けられたかもしれない。
「お願い!!!」
あたしは深々と頭を下げた。
もう引き下がるつもりはない。
リンさんは髪を掻きむしり、ため息を吐いて天を仰いだ。
「…女だって、強くなくちゃいけねぇ。強く在り続けることがあたしのモットーだし、お前にもそうあってほしいと思うのも事実」
そして呆れたように笑い、あたしの方を向いた。
「契約返しとはいい度胸だ。そこまで言うなら…いいだろう、乗った(‼︎)」
この瞬間、全身に喜びが駆け回った。
思わず両手を上げて「やったーーー!!!」と叫んでしまった。
「ただし!仕事もきっちりしてもらうし、家事もいつも通り分担してやる。途中で逃げ出したりは絶対しない。文句ないな?」
「うん!!ありがとう、リンさん!」
「ヘッ、やるなら徹底的にだ!目指すはマスター5入りってとこか?」
「マスターふぁいぶ??」
あたしが首を傾げると、またリンさんは呆れた顔をした。
「ったく、お前には手ぇ焼くよ。あたしがダンデリオンのこと一から叩き直してやる!明日からみっちりしごくから覚悟しろよ!」
「の、望むとこだ!!」
〜リンが現時点で読める文字語録〜
・ダンデリオン関連の言葉(難しい字は無理)
・ブラッド・フラワー
・Mrs.Who
・リン
・アレン
好きなことに関するものはとことん覚えられるタイプの人ですね。




