28 お勉強の時間
あたしが村に残れた理由。
それは村長がリンさんをあたしの親として登録することで、大臣の納得を得たからだ。
村長は下手な混乱を招かないように、村のみんなにそう説明してくれた。
村のみんなは喜んでくれた。
あたしを快く受け入れてくれて、あたしも嬉しかった。
「村長おはようございます。アレンちゃん、この度はおめでとうさん」
「ありがとう」
「今アレンに村を案内してやってるんだ」
「そりゃいいですな!今度うちの店にもおいで。おまけしてあげるから」
「うん!」
村長はいろんな場所を見せてくれた。
前も行った村役場、よく村のみんなで集まるパーティー会場、子供たちが遊べる公園。
でも一際あたしを虜にしたのは、村役場の隣にある図書室だった。
入った瞬間、あたしはとても懐かしい気持ちでいっぱいになった。
ラボではよくカノンさんが本を読み聞かせてくれた。
本を読むカノンさんの横顔を見るのが好きだった。
「本は好きか?」
「ふつう…かな」
「本は良いぞ。自分の知らない知識を得たり、時には知らない世界へ連れてってくれる…そう言えば、自分の字もろくに書けていなかったじゃないか」
「ギクっ…」
「カノンさんは教えてくれなかったのか?」
「……教えてくれたよ…ただ、あたしが…その…」
しどろもどろしてるあたしを見て、「ははーん」とあたしに顔を近づけた。
「さては、勉強が嫌いだな?(‼︎)」
図星だったあたしを見て、村長は声を上げて笑った。
「気にする必要はないぞ!お前くらいの歳のことだ、そう珍しいことではない」
「そうなの…?」
「あぁ。小さい頃、私も勉強は言われてやってただけで好きではなかった」
「村長も!?」
「そうさ。あたりまえのことだ。だが覚えとかなければならないことは山ほどある。お金や時間の数え方、それこそ字も書けなければ生活に支障が出るだろ?」
「たしかに…」
すると村長は「そうだ!」と片手をポンと叩いた。
「私が勉強を教えてやろう」
「ほんとに!!」
「うむ、せっかくの機会だ。ここだけの話、リンはこのような勉学は教えられないと思うからな」
「ありがとう!村長!!」
村長はニッコリと微笑んでくれた。そして壁に掛けられている時計を見ながら言った。
「では毎週1のつく日。長い針が12、短い針が3を指す時間にここへ来なさい」
「わかった!」
それから、あたしは1のつく日。長い針が12、短い針が3を指す日にせっせと図書室に通った。
意外にも村長との勉強の時間は全然苦じゃなくって。
毎回楽しすぎて1の日だけじゃなくて、5のつく日も一緒に勉強するようになった。
「もうすぐ時間だ!リンさん、いってくるー!」
「…おー」
村長は教えるのがとっても上手なんだと思う。
前より字も読めるし、書けるようになったし、数字も時計もお金も数えられるようになった。
「リンさん、16時までには戻るね!何か買っとくものある?卵15g?お肉は?200ギルあれば足りるかな?」
「…お前、最近気持ち悪りぃぞ?数字とかやけに使いたがって」
「だって勉強したこと使うって楽しいんだもん!あ、さてはリンさんも勉強嫌いだな??」
「このなりで好きなように見えたらいよいよ頭のネジ外れたぞ。時間に遅れるだろ、さっさと行け」
「はーい!いってきます!」
そんなある日、帰り道のことだ。
近くにリンさんのオーラを感じた。少し古びたお家からだ。
興味本位で玄関から中を覗いた。
すると、お庭で梯子に乗って背の高い枝を切っているリンさんを見つけた。
「どうだおっちゃん!切り足りねぇとこ!」
「そこ、もう少し右のはみ出てるとこも切ってくれるかい?」
「あそこだな!オッケー」
(リンさん、こんなとこで何やってんだろう?)
「こんにちは(‼︎)」
後ろから急に声をかけられて背中がビクビク!と震えた。
「あら、驚かせてしまっかい。悪かったねぇ」
「い、いえ…!」
「こんな所で何してるんだい?」
「おや婆さん!お帰り!」
中にいたお爺さんが声をかける。
同時にリンさんがあたしのことに気がついた。
「アレン?何してんだ、お前」
「えっ、いや、別に…近くを通っただけだよ」
「あぁ!もしかしてあなた、最近リンのとこに引き取られた子かい!どうりで見たことがない子だと思ったのよ。名前は確か…アレンちゃん!」
「何だそういうことか!なら入りなさい!婆さん、彼女にお茶でも淹れてやりなさい」
「はいはい、分かってますよ!リンの分も用意しておくわね」
「いーよおばちゃん!気ぃ使わなくて!もうすぐこっちも終わるから」
「おや、"何でも屋"は何でも言う事を聞いてくれるんだろ?なら言う通りにしなさい(‼︎)」
「なんでもや…?」
「っ……じゃあ、少しだけ」
あたしはお婆さんに手招きされながらお宅にお邪魔した。
本当に大きなお家だ。比べちゃ悪いけど、リンさん家の何倍もある。
あたしとリンさん、お爺さんは居間の低いテーブルに腰をかけた。
お婆さんはキッチンでお茶を淹れてくれてる。
「リンさん、ここに何しに来たの?」
「仕事」
「何の仕事?」
「『"何でも屋"リン!お困りごとはお任せください!』」
「やめろよおっちゃん、恥ずかしい…」
「なにそれ、初めて聞いた!」
お茶を出してくれたお婆さんも席につく。
「まあ、自分のお仕事も行ってなかったの?リン」
「んな立派な仕事じゃねぇから…どうも言う気になれなくて」
「何を言うの!あなたにあたし達は何度助けられてることか!」
「どんなことやってるの?」
「お前がしてやりなさい、リン」
お爺さんがリンさんに向かって言う。
「…基本何でもやる。依頼されたことはできる範囲でやる。お金をいくら出すかも基本依頼人に任せてる」
「私たちはもう随分何でも屋さんにお世話になってるのよ?歳を取るとできなくなることがどうしても増えてしまうからねぇ」
「アレン…だっけ?お前さんは今日何をしてたんだい?」
お爺さんがあたしに質問をした。
「村長のとこに行って勉強を教えてもらってたの」
「おぉそれは偉いのぉ!感心感心。勉強は楽しいか?」
「うん、今までできなかったことができるようになるのは楽しい」
「聞いたかリン!少しは見習ったらどうだ」
「勉強なんかしなくても生きていける!!こいつが頭おかしいんだよ」
「お前さんが大袈裟に捉えすぎなんだ。せめて字の読み書きくらいはできるようにならんとな?(⁉︎)」
あまりもの衝撃で、お茶を思わず吹き出してしまった。
「え!?リンさん、字の読み書きできないの!?」
「アレン!!お前失礼だろ!!てか、余計なこと言うなよおっちゃん!!」
「おや、知らなかったのか?」
「まあまあ、タオル持ってくるわね」
お婆さんは苦笑いでタオルを持ってきてくれた。
「ごめんなさい」と小さな声で謝ると、「いいのよ」と微笑み返してくれた。
「でもリンさん、あたしが持ち帰った本よく読んでるじゃん!この間だって、ダンデリオンの本だ!って!」
「あ、あたしだって読める字くらいあるし、自分の字だって書ける!!」
「まあまあそんなムキにならないの。子供じゃないんだから」
「それにしてもリンはアレンに打ち明けなさすぎだな。自分のことを話さなすぎだ」
「別にそんなのあたしの勝手だろ!」
「そうだ、少し席を外そう。その間に話せることは全て話してしまいなさい。いいだろ?婆さん」
「えぇ。書斎で本でも読んでるわ。ゆっくりしてってね?」
「ちょ、2人とも!!」
そう言うと、2人はそそくさと居間から離れてしまった。
あたしとリンさんだけが部屋に残される。
リンさんはハァァと大きくため息をついた。
「あの2人…コンビネーション良すぎなんだよなぁ…」
「うん。すごい素敵な人たちだね」
「村長の次に世話んなってる人だ。こんなあたしにもすごいよくしてくれる」
「信頼してるんだね」
「……なぁ、アレン。一つ聞いてもいいか?」
「なに?」
「心の波動、"心波"って知ってるか?(‼︎)」
その言葉には、聞き覚えがあった。
「カノンさんが…言ってた気がする」
「それが何なのかは教えてもらったか?」
「ううん」
「じゃあ、あたしが教える必要があるな」
そう言ってリンさんは姿勢を直した。
「心波。一言で言えば、人から放たれる"オーラ"だ。それは誰しもが持っているものであると同時に、大半の人間は存在に気づかずに終わる」
「オーラ!それが心波だったのね!」
「やっぱり。本来はきちんと訓練を積まないとてめぇのさえ感じることはできないが、お前は生まれつき感じれるようだな。そういう奴もたまにいる」
今までモヤモヤしていたものに名前が付けられて、何だかスッキリした感覚になった。
「残念だがあたしにそいつを感じることはできないが、ダンデリオンには…特にジェネラルクラス以上の人間はそいつを普通に操れる」
「操れると何かいいことあるの?」
「ありありさ!心波を極めれば相手の強さの把握、位置の把握、次の動きの予測ができる。極めれば自分の存在自体消せることができるらしいぞ。多分、お前の嘘を見抜くその特技も、生まれつき心波を感じる力が強いおかげだと思うぜ」
「そうだったんだ…」
リンさんはうーーんっと伸びをして、そのままテーブルに倒れ込んだ。
「うすうす気付いてた。お前がその力持ってること。正直羨ましいよ。願って手に入れられるもんじゃねぇ」
そしてボソッとこう言った。
「お前、向いてると思うよ。ダンデリオン(‼︎)」
「え?」
「鍛えればぜってぇ戦力になると思うんだよなぁ〜。そんだけのポテンシャルあるならマスタークラスだって夢じゃないんじゃね?」
何気ない、本当に何気ない言葉だったと思う。
だけどその言葉があたしの人生を大きく変えたなんて、きっとリンさんは一生気づかない。
来週のブラブラは休載とさせて頂きます!
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