25 君死にたまふことなかれ
「本当に正直に言っていいの?」
「あぁ」
リンさんは大きく頷いた。「じゃあ、」とあたしは一息おいてから啖呵を切るように言った。
「怖いからだよ!!」
「怖いのか?」
「そりゃ怖いよ!そんな話聞かされて、行きたいって言う方がおかしいでしょ!!」
「じゃあ、もしお前が象の家に行ったら、お前は恐怖であいつらにへり下るのか?」
「ち、違う!!」
(あたしは…あたしは…!)
「あたしは!!ただ自由でいたいんだけなんだ!!(‼︎)」
『自由』という言葉が、自分の中でこんなにしっくりくるなんて。
言葉に出すまで気づかなかった。
「キゾクとか、王様とか、そんなのあたしは知らない!その人たちがどれだけ偉いかも知らない!だって、あたしはリンさんと違ってまだこの国こと、ほんのちょっとしか知らないんだもん!でも…!」
あたしは今日起きたことを思い出したながら言った。
「あのキゾクって人たちがあたし達から自由を奪う人なら、あたしは好きになれないし、象の家にも絶対行きたくない。何回でも言うよ!あたしは、リンさんと一緒にいたい!!」
そう言うと、リンさんは大きく目を見開いて「プッ!」と笑った。
「お前、正直に言っていいつって本当にバカ正直に言うやつがどにいんだよ!」
「へ??」
「こういう時は嘘でも『あたしもこの国を変えたい!!』とか言うんだよ」
「そうなの??」
「ったく、お前には教えなきゃいけねぇことが山積みだな!」
そう言ってリンさんはあたしの肩を組んだ。
「お前みたいなやつを象の家に送り込んだら奴らに使われ放題になるだろうからな!仕方ねぇ、守ってやるよ(‼︎)」
「ありがとう!リンさん!!」
あたしはリンさんに抱きついた。
「いいいいでっ!?バカ!!傷が開くだろ!!」
「ご、ごめん!」
「ッハハ!!あ、そうだアレン。一つ頼みがある」
「…なに?」
リンさんはポケットから紙を取り出し、何かをササっと書いた。
そしてケースの中からお金を取り出し、紙とお金をあたしに渡した。
「そこの店に行って、この紙と金を渡すんだ。そしたら店員がお前にブツをくれるから、それをもらってこい」
「この変な絵はなに?」
「変じゃねぇ!!いいからもらってこい!怪我が治らなくてもいいのか?」
そうか、あのお店に行けばあたし達のケガを治せる何かをもらえるのか!
合点したあたしはすぐにお店に行き、紙とお金を渡した。
お店の人は不思議そうな顔をしたが、「多分、これのことでしょう?」とあたしにたくさんの粒が入った袋をもらった。
もらった袋をリンさんに見せると、リンさんは中身を確認して「上出来だ」と言った。
あたしはリンさんにおぶってもらった。
そして人目がつかない道路を掻い潜り、しばらくして国の一番外側にある壁にたどり着いた。
リンさんは一度あたしを降ろすと、壁に沿って地面を掘り始めた。
「何してるの?」
「"秘密の抜け道さ"!外に繋がってる。もしもの時のために昔掘ったのを思い出した。大人1人は通れる広さにしてるから、アレンも余裕で通れるはず!」
そうしてリンさんは地面を掘り進めて壁の外側に出た。
その穴を通ってあたしも同様に外に出る。
「ほら、快適だったろ!土戻すからもうちょい待ってろ」
「あたしやるよ!」
「そっか?じゃあ頼む」
あたしは穴に再び潜って土を元に戻した。
「どう?」
「カンペキ!よし、どっちが早く村に辿り着けるか勝負だ!」
「え、でもリンさん傷は??」
「こんなん寝てりゃ治る!ほら行くぞ!ヨーイ、ドン!!」
・・・・・
村に帰ると、あたし達は村の唯一の医者 ドクターにケガの治療をしてもらった。
あたしのケガはそこまで重くはなかったけど、リンさんの方は重症で、もう少し位置が悪かったら命に関わってたという。
結果、あたしは2日間、リンさんは1週間の入院を告げられた。
村長さんにはこっ酷く叱られた。
あれだけ騒ぎを起こすなと言ったのにどうして結局こうなるんだと。
まぁリンさんは気にも留めてなかったけどね。
そんなこんなで日はまた昇り、朝になった。
そう、あたしの"お迎えの日"だ。
「おはよう、お二人さん。朝食を持ってきたぞ」
「ありがとう、ドクター」
「…ありがとう」
隣のベッドに座るリンさんは重症とは思えないほど元気にガツガツと食べた。
それに比べてあたしは、どうしても食べる気がおきなかった。
「どうしたアレン、元気がないのか」
「うーん…なんか、昨日の疲れがどっと出ちゃったみたい」
「疲れが取れなかったのか。今日はお客さんが来るからね。しっかりと食べておきなさい(‼︎)」
「へぇ…そうなんだ」
やっぱり。リンさんの言う通り、みんな今日あたしが象の家に行くことを知っているようだ。
『とにかくお前は何も知らないふりをしろ』
リンさんからはそう言われている。
迎えが来るまであと1時間を切っていた。
「ドクター、あたしやっぱり疲れてるみたい。もうしばらく寝てていい?」
「あぁ、よかろう」
あたしは布団を被り、横になった。
そして目を瞑り、その時を待った…
・・・
コンコンコン とドアを3回叩く音がした。
あたしは窓越しに村長と…例の客人がいるのを確認する。
「ドクター…おい、ドクター!!」
「はっ…!!」
椅子に座ったまま居眠りをしていたドクターは慌てた様子で飛び起きた。
「何してんだよ!村長とお客が来てるぞ」
「し、しまった。私としたことが居眠りを…!」
ドクターは慌ててアレンのベッドを確認した。
水色の髪が布団から見える。アレンはまだ眠っているようだ。
その様子を見てドクターはほっと胸を下ろす。
自分が寝ている間に抜け出されたら、と考えたんだろう。
「ただいまお開けします!少々お待ちを!」
ドクターはそっとドアを開ける。
壁越しに3人の会話が聞こえてきた。
「おはよう、ドクター。早速だが紹介させていただこう。こちらが象の家管轄大臣のセバス様だ。」
「おはようございます、シトラトス村長。そして大臣様。遠いところまでよくぞおいでくださいました」
「前置きなどどうでもよい。早く案内してくださらぬか?シトラトス」
「勿論でございます。ドクター、アレンは中にいるか?」
「えぇ、ではこちらに…」
3人の足音が聞こえる。
顔を見られる訳には行かないのであたしは頭から布団を被った。
この部屋のドアがガチャっと開いた。
「こちらが海岸に流れついた女児、名前をアレンと言います」
「…」
と、大臣は布団をひっくり返した。
そこにいたのは、ぐっすりと眠っているアレンだ。
「この大臣様が立っているというのに眠っているとは愚かな小娘よ。おい、叩き起こせ」
「は、はい、少々お待ちを」
村長はアレンを揺さぶった。
「ほら、アレン。起きなさい」
しかし、反応はない。
「アレン。アレン!起きなさい!」
「待ってくれ、村長」
ドクターは慌てた様子でアレンに近づく。
そして「失礼」と一言間を置いて、アレンの胸に耳を当てた。
顔を真っ青にしているドクターの顔が目に浮かぶ。
そりゃそうだろう。
「鼓動が…聞こえない…(⁉︎⁉︎)」
その一言で、部屋がしんと静まり返るのを肌で感じる。
そう、アレンは…
死んだのだ。
人生ってすごいスピードで走り去っていく。
今できることは今やらないと損ですよね、と思う今日この頃。
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