24 白紙の心
「クソッ!!てめぇやっぱり殺されてぇらしいな!!そこどけ!!!」
そう言って毛むくじゃら男はナイフを振り回してリンさんを弟から離れさせた。
ケースは依然、金髪男の手にあった。
「おいデン!!しっかりしろ!!」
「リンさん…!」
毛むくじゃら男が弟の様子を確認してる間に、あたしはリンさんの名前を呼んだ。
リンさんはあたしに近寄り、両脇に腕を入れて壁にもたれさせるように座らせてくれた。
「よく戦った。ありがとな、アレン」
「あたし…何もできなかった」
「んなことねぇよ。隙、作ってじゃんか」
「隙?」
「あの大男、あたしからずっと目を離さなかった。でもアレンが金髪にしがみついてた時、一瞬だけ目を逸らしたんだ。その隙にあいつの腕を折って逃げ出せた」
「腕折っ…!?」
あたしは大男の方を見た。
痛そうに右腕を抱えている。だけど立ち上がってこちらを睨みつけていた。
「もう大丈夫。あとは任せろ」
「何が任せろだってぇ!?」
毛むくじゃら男が叫ぶ。
「弟は気絶しちまったみてぇだが、ケースはまだこっちにある!!形勢は何にも変わっちゃいねぇ!!」
「グハハハ…そうさ、腕一本くらい折れたって俺ぁまだ戦える!!」
「へへ………かかってこいよ」
重量のある声でリンさんが挑発した。
2人が雄叫びを上げて一斉にリンさんに襲いかかる。
この激戦を経て勝った者は…!と言いたいところだったけど、そんなことはなかった。
なぜかって?次の瞬間には、もう勝負がついたからだ。
「「っ……!」」
2人の男は両膝を地面につき、バタンと倒れ込んだ。
「バカだなお前ら…そのケースを取った時点で逃げりゃあ良かったんだ」
「なに……を…!」
リンさんは満面の笑みで、2人を見下すように言った。
「正義の軍隊ダンデリオンで、ヘッドを務めた人間を怒らせねぇ方がよかったつってんだ(‼︎)」
そうして大男の腹部を蹴り、大男は完全に失神した。
リンさんの勝ちだ。
(強すぎる…!)
あたしとケースを持ってあんだけ逃げ回った後、身長も体格も大きい男の人を3人も倒してしまった。
この人は一体何者なんだ…
そう思っていた時、リンさんは左右にフラフラと揺れ、地面に倒れ込んでしまった。
「リンさん!!」
あたしは重たい体を持ち上げ、リンさんの元に駆け寄った。
「リンさん!!」
「おいおい、揺らすなよ。傷が開くだろ?」
あたしはリンさんの服を見た。服が真っ赤に染まってる。
「先にあたしが2人の腹にパンチを喰らわしてやったんだけどな…あいつ、毛むくじゃらが倒れる時にどさくさに紛れて刺しやがった」
「どどどどうしよっ!!リンさんが死んじゃう!!」
「ばーか、こんくらいじゃ致命傷にもならねぇよ。ただ、お前もボロボロなのは重々承知してるんだが、先に止血してもいいか?」
「も、もちろんだよ!!」
リンさんは「悪ィな」と言ってコートの裾をビリッとちぎり、お腹の周りにまき始めた。
こういう事に慣れてるのかな?やけに手際がいい。
応急処置をしながら、リンさんがあたしに話しかけた。
「すまなかった」
「え?」
「あたし自身のことでお前を巻き込んでしまった。お前の身を保証する約束を破った。契約決裂だ。だから、あたしから離れたかったら、そうしてもらって構わない。その金も持っていっていい。短い間だったが…」
「待って、何言ってんの!!離れるわけないじゃん!!(‼︎)」
あたしはすぐに否定した。
自分が思っているよりも大きな声を出していたことには自分でも驚いた。
「リンさんはずっとあたしを守ってくれてたじゃん!門番からも、警官からも、この3人からも!今さら離れるなんて嫌だよ!!」
「でも、お前…」
あたしは今までのことを思い出しながら言った。
「リンさん言ったよね?あたしが知りたい事がここにあるって。あたしは世界にはどんな人たちがいるかを知りたかった。でも…変わらなかった!自分勝手で心が汚い人ばかりだった。リンさん。リンさんはこれをあたしに見せたかったの?(‼︎)」
「……汚ねぇもん見せたな」
「違う、リンさんは気づかせてくれたんだよ?あたし、もっと教えてほしい。リンさんとなら…あたし、もっといい世界を作れる気がするの!(‼︎)だから…2回目のお願い。一緒にいさせて」
そう言うと、リンさんは俯いてあたしから目を逸らした。
あたしはもう一度「お願い」と力強く言った。
少しして、リンさんはため息を吐き、「分かった」と答えてくれた。
「今からお前には、真実を包み隠さず全部話す」
「真実…?」
「そう。いいか、よく聞け」
リンさんはもう一度フゥと息を整えて、話し始めた。
「明日、お前は"象の家"に送られる。象の家っていうのは、表向きは孤児や親に捨てられた子を保護するための施設だ。だが実際、そこは貴族や王族に仕えるための奴隷を作る場所(‼︎)国の仕組みを一から叩き込まれ、死ぬまであのクズ共の尻に敷かれて生きてくんだ」
「し、死ぬまで…!?」
考えただけでゾッとした。
「明日お前を引き取りに国の奴が来るそうだ」
「ま、待ってよ!あたしそんな事一回も聞いてない!!」
「"孤児を見つけた場合、速やかに政府に報告し、孤児を象の家に送れ"。国民の義務なんだ。お前の存在がバレれば村長だけてなく、村全体がどうなるか分からない。だから村長はお前の存在を国に報告した。一応言うが、村長を恨むなよ?そんな見ず知らずのガキ1人のために、村全員の命は懸けられねぇ」
反論できなかった。
だって、あたしが村に流れついた、あの日にあたしを象の家に送ることだってできたはずだから。
それでも村長はあたしを医者に見せ、看病して命を留めることを許してくれたんだ。
「あたしも村長と同じ意見だった。だからお前がどんなに不遇なガキだろうと、同情しねぇと決めてた。そんなガキ、世界にはごまんといるからだ。だけど…」
リンさんは遠くの方を見ながら話し始める。
「子供ってのはさ、例えれば真っ白な紙なんだ。純粋無垢で、まだ世の中のことを知らない白紙の状態。だけどそこに色が加わってく。お前、街中で自分と同じくらいの年頃の子を何人か見たろ?そいつらはお前と同じ顔をしてたか?」
あたしは今日見かけた子供達の顔を思い浮かべた。
「ううん。みんな暗くて、怯えてる顔をしてた」
「そう。ここで生まれた子供たちは知ってるからだ。大人には逆らえないこと、身分がなきゃ自分の存在すら認めてもらえないこと。だから生気を失ってる。真っ白だったはずの紙は汚れ、黒くなってしまってる。一度染まってしまった紙は、もう二度と白には戻らない」
そして、俯きながらボソッと呟く。
「あたし、象の家の出身なんだ(⁉︎)」
「えっ、」
「あたしがまだ"ステラ・トンプソン"だった時。お前と同じ年頃かな?家出したんだ。親も勉強もあの息が詰まるような部屋も全部嫌いで。だったら出てってやろ!って軽い気持ちで象の家の門を叩いた。で、10年くらいお国のために働いたわけだ」
「10年も…!?」
「笑えるだろ?貴族に対する接し方や武芸もぜーんぶあそこで学んだんだぜ?」
なるほど、繋がった。
いつも口が悪いリンさんが、なんであんな綺麗な言葉を使えるのか。
なんであんなに運動神経がいいのか。
「いつ奴らの気まぐれで首が飛ぶか分からない状況の中で、あたしは義勇団っていう王家直属の軍隊の団長になった。他の奴らと比べたら少しはマシな暮らしをしてたと思うが、毎日鬱憤が溜まるだけだった。1日でも早くここを抜け出したかった。そんな時に出会ったんだ。あたしの大恩人、ダンデリオンのレジェンド ムーラン・カーに!」
「ダンデリオンっていうのが、リンさんがいた軍隊のこと?」
「そう。世界中で悪いことをしてるやつらを征伐する正義の軍隊さ!詳しいことはまた説明してやるよ。とにかく、あたしはその人に出会った。そして言われたんだ。『私と来ないか』って!」
リンさんは目を輝かせながら話した。
「あたしは迷わずついていくことを選んだ。あたしは国王に話した。ここを抜けて、ダンデリオンに入りたいって。でも答えは勿論、ノーだった。ま、ハナからいい返事貰えるとは微塵も思っちゃいなかったがな!」
「それで、どうしたの?」
「逃げ出した(‼︎)前代未聞だろ?王家直属の軍隊の団長が逃げ出したって!おかげで不敬罪・使命放棄の罪で指名手配。A級戦犯のお札付きだ」
「でもリンさんはちゃんと話したんでしょ!どうして王様は…………あ」
あたしは自分で言っていて気づいた。
ここは身分が全ての社会。
身分が低い人の意見を身分が高い人…ましてや王様が聞き入れてくれるはずがない。
「アレンもやっとここの仕組みが分かってきたみてぇだな」
リンさんはニヤニヤしながらあたしを見ていた。
あたしは矢継ぎ早にリンさんに質問をした。
「名前はいつ変えたの?」
「ダンデリオンに入ってから。過去の自分とケジメをつけたかった。分かったならもうその名は呼ぶな」
「村の人たちは知ってるの?」
「知らなさねぇよ。ペティット村にはステラ・トンプソンの名は届いてなかったからな。あそこには村長に無理言って住ませてもらってる。この事を知ってるのは村長とお前だけだ」
「じゃあさ」とあたしは続けて質問をした。
「なんでリンさんはこの国に戻ってきたの?せっかく逃げ出せたのに…」
「その答えは簡単。この国を変えたいからさ」
「国を…?」
「ダンデリオンに入って、いろんな国を見てより感じたんだよ。この国は変わらなきゃいけない。そして変えられるのは、あたししかいない。だって、腐ってもここはあたしの故郷だから(‼︎)」
リンさんはまたどこか遠くに顔を向けた。
人の横顔がこんなにも美しく感じたのは初めてだった。
そんなことをボーッと思ってると、とにかく!とリンさんは両手を2回パンパン!と叩いてあたしは現実に引き戻された。
「あたしの昔話はここまでだ。で、アレンはどうしたい?」
「……象の家には行きたくないよ」
「そりゃそうだろ。でも言ったろ?同情はしねぇって。あたしは正直、お前より村長の面目を潰したくねぇって想いの方が強い。村長もあたしの恩人の中の一人だからだ。でも貴重な白紙の心を持つお前を貴族共に手渡すのも気に喰わねぇ。だから理由をくれ。どうしてお前は象の家に行きたくねぇんだ?正直に答えろ」
リンさんはじっとあたしの目を見た。
様々な思考があたしの中に巡る。
ここがあたしの中で大きな分岐点だと分かった。そして…
あたしの言う答えによっては、リンさんは問答無用であたしを見捨てるとも…分かっていた。
急に気温下がりすぎやろ!!
秋!襲!来!!って感じですね(?)
皆様も体調にはくれぐれもお気をつけください…
御稲荷 薫のツイッター↓
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