23 無力で無様
"ステニー・トンプソン"
その名前を聞くと、近くを巡回していた警官がすぐに反応した。
「クソッ、あのジジイ怒らせすぎたか」
その数は徐々に増えて、気づけば四方八方から同じ服を着た人たちがあたし達を囲んだ。
「その荷物を置きフードを取れ、手を挙げろ!!」
「チッ、注文が多いな…」
「言う通りにしろ!!お前がステニー・トンプソンでないならな」
「その名は捨てた!!(‼︎)」
リンさんはあたしを降ろしたが、あたしはリンさんの左脇にしがみついた。
数を数えた。10人は超えてる。しかもみんな銃を構えて。
(怖い…)
あたしはリンさんの方に視線を向けた。
でもリンさんは、なんだか堂々としてた。
それどころか、こんな状況で「フンっ」と鼻を鳴らした。
「あんなクソジジイ1人の戯言一つでこのザマか。組織がなってねぇなぁ」
「なにをっ!」
「少しはダンデリオンを見習ったらどうだ。あそこはあたしの知ってる中で最高の機関だ」
「我々一国家警備隊と世界最高峰の軍隊を比べるのはいかがなものかと思うが」
「比べてねぇ、見習えっつってんだ。例えば…」
そう言ってリンさんは再びあたしを脇に抱え、建物をつたって屋根の上に飛び移った。
「こんな風に逃げるやつもいるからなぁ!!」
「ま、待て!!」
そんな言葉を聞くはずもなく、リンさんは屋根から屋根へ飛び移り、逃げ始めた。
「リ、リンさん!!」
「大丈夫!口しっかり閉じてねぇと舌噛むぞ!!」
そう言われてあたしは口をギュッと結んだ。
リンさんは風を切るように町中を駆け回った。
こんなに重い荷物を2つも抱えてるのに、リンさんは捕まる気配さえ見せなかった。
リンさんはほんの数十分であんなにいた警備員を全員撒いた。
普通にすごいと思った。
あたし達は人気のない細い道に降りた。
「いやーー久々にこんな動いた!やっぱ体鈍ってんなぁ」
「あれで鈍ってたの…?」
「そーさ!現役の頃だったらもっと短時間で撒けた」
「現役って軍隊にいた時のこと?」
「あぁ」
「その時のリンさんは、"ステニー・トンプソン"だったの?(‼︎)」
靴紐を結び直してたリンさんの肩がピクッと動いた。
そして無言で再び靴紐を直し始めた。
もうとっくに結び終わっているのに。
「ねぇリンさん…」
あたしがもっと話を聞こうと思った、その時だった。
「「‼︎」」
あたしとリンさんはほぼ同時に後ろに飛んだ。
驚いた。何せ頭上から人が降ってきたのだから。
「グハハハ…!」
不気味な声で笑う男。顔が見えないように目だけが開いている黒いマスクを被ってる。
身長も幅もあたしの2倍以上はある、大男だ。
大男はリンさんに襲いかかった。
リンさんを壁に追いやり、首元にナイフを突き立て、動きを止めた。
「クッ…!」
「リンさん!!!」
あたしは無意識に後退りをしていた。
目の前の出来事に気を取られすぎて、後ろに別の人がいるのに気が付かないまま。
「アレン後ろ!!!」
「へっ!?」
「っしゃあ取ったぁ!!」
あたしは男の毛むくじゃらな大きな右腕に捕まった。
あたしが持っていたお金のケースは男の左手だ。
後ろからまた別の男が現れた。男は金色の長い髪をしていた。
全員同じ黒のマスクを被っている。
3人組だったのだ。
毛むくじゃら男は金髪男にケースを渡した。
「うひょー!こりゃ大金だなぁ!目ぇ付けといた甲斐があったなぁ兄ちゃん!」
「そりゃそうだろ!そんだけ大層なケースの中に金が眠ってねぇわけねぇ!なぁ大兄ちゃん!」
「グハハハ…そうだな」
抵抗にもなってないんだろうけど、あたしは足をジタバタさせて声を振り絞った。
「それを…返せっ…!」
「あん?」
「それはカノンさんがあたしに託してくれた大切なお金なんだ…っ!あんた達が持ってていいお金じゃない!」
毛むくじゃら男はあたしを掴む力をさらに強くした。
「がっ…!」とあたしが苦しむ様子を見て金髪男は涙を流しながら笑った。
「ギャハハハ!!バーカ!金に大切もクソもあるか!!金は金だ。お前みてぇなガキよりよっぽど俺たちの方が効率よく使えるぜぇ??」
「酒とかギャンブルとかな!!」
「ギャハハハ!!兄ちゃんそりゃねぇわ!!」
2人は大声を上げて笑った。
(悔しい。なんでこんな奴らに…!)
あたしは涙目を浮かべた。
そしてリンさんを抑えてる大兄ちゃんと呼ばれた男が話し始めた。
「悲しいなぁ、力がなきゃ何もできねぇ。俺たちだって好きでこんなことやってる訳じゃないんだぜ?俺たちゃ世間の落ちこぼれだからよぉ。武力という力に頼るしかねぇんだ」
「その点お前らは俺らより無様だよなぁ!」
「女にガキ!!権力も物理的な力も男に劣る!あぁ可哀想に!神よ!どうかこの2人にご慈悲を!」
金髪男はわざとらしく天を仰ぐ仕草をした。
「知ってるぜ?ステニー・トンプソン(‼︎)義勇団の団長様が一転して国家指定のA級戦犯か。またこの国に戻ってきてたとは…相当頭がイカれたみてぇだな」
大男が何のことを言っているのかあたしにはサッパリ分からなかった。
だけど、リンさんが国中の人が知ってるほどの良くない何かであることは、あたしでも分かった。
リンさんは負けじと大男に向かって吠え返す。
「ケッ!なんで戻ってきたかって?それをてめぇらが理解するにゃ少々脳みそが足りねぇ気がするが?(‼︎)」
こんな状況なのに1ミリも動じてない。
頭に血が上った大男はリンさんのお腹を膝で蹴り、ナイフをもう一度握り直した。
「ヴェッ!!」
「…威勢だけはいいみたいだな」
「威勢のいい女は嫌いじゃないぜ!」
「ギャハハハ!俺も!」
「なぁ大兄、その女死にたがってるぜ!望み通り死なせてやれよ!」
「俺たち兄弟をバカにする奴はみんな死刑だ!!」
「まぁ待て弟たちよ。時の感情に囚われて目先の利益を見失うな。俺たちの狙いはその金とこいつの首だ。分かってるだろ?おい、そのガキを離してやれ」
そう言って毛むくじゃらはあたしを雑に地面に落とした。
「ゲホッゲホッ…!!」とあたしはむせ返った。
「さぁ、行こうぜ!俺たちの輝かしい明日へよぉ!」
「ちょ、待ってくれ兄ちゃん!」
「どうした?」
「こいつっ…!」
あたしは金髪男の足を必死に掴んでいた。
絶対行かせまいと。見苦しく足掻いてた。
「離せガキ!!」
男はあたしを空いてるもう一方の足で何度も激しく踏んだ。
「離すもん…か…!」
あたしは研究所のみんなの顔を一人ひとり思い出した。
「絶対離さない…!」
「しつけぇぞ!!!」
最後のひと蹴りであたしは地面にねじ伏せられた。
あたしは下から金髪男を見上げた。
荒々しい息遣いで肩を弾ませてる。
(カノンさん…ごめん…)
心の中でそう呟いた時、金髪男が急に白目を向けて崩れるように地面に倒れ込んだ。
一瞬の出来事すぎて気づかなかった。
大男が大声で悲痛な叫びを上げていることも。
金髪男が倒れた後ろに…鬼のような形相をしたリンさんが立っていることも。
「デン!?大兄ちゃん!?」
毛むくじゃら男もあたしと同じ状態に陥っていた。
そして背中から取り出したナイフをリンさんに向けながら「てめぇ、2人に何をした!!?」と叫んだ。
リンさんは口からペッと血を吐き、頭を掻きながら「っ…わっかんねぇかなぁ…?」と呟いた。
「てめぇらの目の前にいる女とガキが本当に無力で無様か。それを証明してやったんだよ(‼︎)」
今回アレン達を襲った3人組は巷じゃかなり有名な強盗犯。
名前は長男のダン(大男)、次男のドン(毛むくじゃら男)、三男のデン(金髪男)。名前に深い意味はありません(笑)
幼い頃から苦楽を共にした彼らは深い深ーい絆で結ばれています^ ^
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