21 ステータス
「えっ、でも、ぼく…」
男の子は一瞬引目をとった。だけど
「ごめんなさい!でもぼくわざとじゃないんだ!!」と言い放った。
あたりの空気はまたピンと張り詰めた。
「まぁ!!セントロのガキが貴族のアタクシに反抗する気!?あぁ、反吐が出るざます。アタクシは貴族ザマスよ!?今すぐにでもあなたの家を取り壊すことも、象の家に送ることだってできるのでザマスよ!?それでもいいざザマスか⁉」
男の子はただブルブルと怯えている。
(男の子も謝ってるのに…どうして許してあげないの?)
「さぁさぁ…頭を深ーく地面に擦り付けて土下座しなさい?」
「いっ、嫌だ‼︎」
男の子がそう言うと、夫人は顔を硬らせ、笑った。
「オーホホホ!!まさか、下民のくせに土下座のやり方を知らないのかしら!いいですわ、せっかくこんなに人が集まっているザマス。アタクシが教えてあげましょ」
そして夫人は高く足を上げた。
「こうやって、するのよ‼︎‼︎」
夫人の足は勢いよく男の子の頭に向かって下ろされた。
「‼︎」
誰もが思わず目を瞑った…その時。
一人だけ、彼の元に走り寄った人がいた。
「っ…!」
リンさんだ。
リンさんは男の子が踏まれる直前に滑り込み、男の子を庇いながら夫人の足を持ち、彼を救ったのだ(!!)
この場にいる全員が呆気に取られた。
「は、離しなさいっ!」
夫人は取られた足を無理やり引き剥がした。
「アータッ!!どういうつもりざます!?まさか…アータも貴族の身分の者に歯向かうつもりざます!?」
夫人が心底焦っているのが分かる。
だけどリンさんは落ち着いていた。
「…いえ、とんでもございません」
そして夫人の前で膝をつく。
「あなた様のお美しい靴に下民の汚れが付いてしまうと思いまして。しかし私の手によって汚れてしまいました。ぜひこのマントで拭き取ってくださいませ(‼︎)」
すると、夫人はニヤッと笑い、力強くリンさんのマントに足を擦り付けた(⁉︎)
「このっ!汚れた!下民の分際で!!」
(リンさん!?)
あたしは衝動的にリンさんの元に行こうとした。
だけど背中にビリっと戦慄が走った。
リンさんと目が合ったのだ。
強い眼差しをしたいた。
その目は「来るな」と言っているようで、あたしは動くことができなかった。
しばらくして、夫人はやっと気持ちが落ち着いたようだった。
「フゥ、苦しゅうないザマス」
「どうか、この子をお許し頂けますでしょうか」
「フンっ、そのガキんちょは命拾いをしたザマスね。今日は気分が宜しくてよ?見逃してやるザマス。そこのガキんちょに世の中の渡り方を教えてやりなさい」
「"すべては我が君のため"(‼︎)お約束致します」
「オホっ!」
夫人は満足げに笑い、アーチを潜ってシティ・ロマーノに帰って行った。
2人は夫人の姿が見えなくなるまで頭を深く地面につけた。
2人が頭を上げたところで、あたしは急いでリンさんの元に駆け寄った。
「リンさん!!大丈夫!?」
「姉さんな。あぁ、何も問題ねぇよ。坊やは?」
「大丈夫…!ありがとう、お姉さん!」
「おう!」
「エルビス!!エルビス!!!」
笑顔で応えたリンさんとは裏腹に、真っ青な顔で女性が男の子に駆け寄ってくる。
「お母さん!!」
「エルビス!!あぁ良かった…!」
エルビスと母は力強く抱きしめ合った。
そしてあたひとリンさんに向かって頭を下げた。
「うちの子を助けてくださって本っっ当にありがとうございます…!」
2人は深々と頭を下げた。
「よくやったねーちゃん!!」
「よっ!セントロの星!!」
あたし達は拍手喝采に包まれた。
「ぜひ今度お礼をさせてください!」
「あーいいっすよ!別に大したことしてないんで!」
「大したことですよ!シティ・ロマーノの貴婦人に立ち向かうなんて…あなたは息子の命の恩人です!」
「そんな大袈裟な…」
あたしは自分の事のように嬉しかった。
リンさんが、こんなにも感謝されてる。
みんなが、こんなにも喜んでくれてる。
エルビスとお母さんのはじける笑顔が眩しかった。
(リンさん、かっこいい…)
お母さんはリンさんの手を取り、前のめりになって「お住まいはどちらですか?」と聞いた。
「あーうちここじゃなくって、森を抜けた先にある小さな村なんすよ(⁉︎)だから来るのは難しいと思いますよ?」
何の変哲もない答えなのに。その答えを聞いた瞬間、エルビスのお母さんの血の気が引いた。
「お母…さん…?」
「あなた…まさかアウトフォレスターなの…?」
「アウトフォレスター?」
あたしは思わず言葉を繰り返した。
「まぁ、そう言われる事もありますよね」
リンさんはケロッと返す。
「あいつアウトフォレスターかよ…」「なんだ、ヒーロー気取りか」「帰ろーぜ」
さっきまでリンさんを褒め称えていた人たちが、手のひらを返したようにどんどん去って行く。
エルビスのお母さんも然りだ。
オーラで分かる。殺気狂ってる。
「近づかないで!!アウトフォレスターがのうのうとセントロの人間に話しかけないでくださります!?」
「でも、さっきまであんなに感謝してたのに…!」
「アレン、何も言うな」
「息子を助けてくれたことには感謝します。だけどもうこれ以上私たちに関わらないで!!」
なんで?なんで急に…??
「お母さんヒドイよ!!お姉さんは僕の命の恩人だって今言ってたじゃんか!!」
「黙りなさいエルビス!では失礼致しますわ」
エルビスはそのまま母親に無理やり連れてかれた。何度も何度もこちらを振り返りながら。
リンさんは小さくエルビスに手を振っていた。
まるで何もなかったかのように。
「さ!行こーぜ」
「待ってリンさん。ちゃんと説明して!」
「だから姉さんって呼べって…」
「リンさんはあのオバサンにあんな酷いことされてまでエルビスを助けたのに!!なんでみんな急に冷たい目で見るの!?アウトフォレスターって何!?リンさんは、リンさんは!」
「落ち着けって!ここじゃ目立つ。場所変えっぞ」
あたし達は再び細い路地裏に入った。
「言ったろ?ここは身分が全ての世界なんだ。あたし達みたいに街の外に住んでる奴らは森の外にいる者、アウトフォレスターと呼ばれ、身分としてはセントロよりさらに下。だからロマーノの女がセントロのガキを見下したように、あの女はあたし達を貶した。てめぇが救おうともしなかった息子の命を救ってやったとしてもな(‼︎)そうすることでしかてめぇを確立ねぇんだ」
あたしはボソリと呟いた。
「そんなの…おかしいよ(‼︎)」
「おかしいと思うか?」
「思うよ!!だってリンさんはエルビスを助けた。正しいことをしたんだよ!なのに否定されるなんて…絶対間違ってる」
そう言うと、リンさんはあたしの頭に手をポンと置いた。
「その気持ち、忘れんなよ」
「え?」
「さ、行くぞ」
「う、うん…」
オリンピックが終わりますね。どの試合も本当に素晴らしくて胸が熱くなりました…!
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