20 こっちとあっち
「住民証明書を」
「…」
「ハルムダ村のヨヌレイズ•フィル。で、間違いないな?」
「はい」
(…誰だ、それは)
当たり前だけど、声はリンさんだ。
だけどいつもと違って口調がやけに丁寧だ。
「入国目的は?」
「街にこれを売りに行こうと思いまして。海岸に漂着した鉄屑でございます」
「中身を見せろ(⁉︎)」
(え!?ちょっ、待って!?)
あたしは今、船に被せられた布の下に身を隠している。
入国するには検問をしなければならない。
あたしは本当はこの国に存在しない人間だからこうして隠れてるのに。
見つかったらやばいんだって、リンさん言ってたのに!!
「承知致しました(‼︎)」
リンさんが船の布に手をかける。
もうダメだ、あたしは必死に息を止めた。
するとリンさんは、布を半分だけ剥がして中身を見せた。
「宗教上の理由でお顔をお見せできないことをお許しください」
「チッ、気色悪い宗教だぜ」
そして何かを書いてる音がした後「通ってよし」と男の人が入国を許可した。
「ありがとうございます」
「貧乏人はご苦労なもんだな!」
去り際にそう吐き捨て、あたし達はなんとか検問を通過した。
しばらく歩いて「出ていいぞ」とリンさんがあたしに声をかけた。
出るや否や、あたしはリンさんに文句を言った。
「ちょっと!!さっき危なかったでしょ!?」
「あぁ思ったより危なかったな。でもバレなかっただろ?」
「そうだけどさっ!!」
「怒んな怒んな。結果オーライだろ?お前もあたしも、ここにいちゃいけねぇ人間なんだからさ」
(リンさんも?)
「どうして?」
「それを教える必要はない。さ、歩くぞ。あと、ここであたしのこと呼ぶ時は"姉さん"って呼べ。名前で呼ぶな。いいな?」
そう言ってリンさんはさっさと歩き始めてしまった。
どうしてだろう?モヤモヤした気持ちを残したまま、あたしもリンさんの後をついて行った。
石造りでできた道、賑わいのあるお店、そしてたくさんの人々。
なんて大きな街なんだ。あたしは息をするのを忘れていた。
「すっごい……これが国……!」
「あんまキョロキョロすんな。警官に目ぇ付けられんぞ」
「うっ…」
あたし達は船をお金に換えてくれるお店まで歩くことにした。
周りに怪しまれないように、あたしは街を見渡しながら歩いた。
さっきは気づかなかったけど、あたしより身なりが汚い、痩せっぽった子どもが ちらほらいることに気づいた。
(あの子達も親がいないのかな…)
そんなことを思っていると、ふとリンさんが足を止めた。
「どうしたのリ…姉さん?」
「…」
リンさんはアーチの架かった門の方をじーっと見ている。
あたしはすぐに違和感を覚えた。
真っ白な壁、高い建物、ドレスにスーツを着た人たち。
明らかにこっちにいる人たちと違う。
「姉さん…向こうはここと同じ国だよね?」
「そうだ」
「でもあっちの人は、こっちの人と全然違うよ?」
そう言うと、リンさんは暗い声で説明してくれた。
「…この国は、人の身分によって住む区域を分けてる。国の中心に 王族の住むシティ・パレス。その周りに 貴族の住むシティ・ロマーノ。そしてここ、一般市民の住むシティ・セントロ」
「じゃあ、あっちは?」
「シティ・ロマーノ。身分と金があることだけが取り柄のクズ共がうじゃうじゃいる(‼︎)」
そして吐き捨てるように
「前言ったよな?弱ぇ奴が嫌いだって。それよりもあたしは、金と権力に飢えてる奴らが大っ嫌いだ」と言った。
聞くからにリンさんはキゾクって人たちを嫌っているようだった。
でもあたしは分からなかった。
たしかに身なりも住んでるところも全然違う。
だけどそれ以外は何も違わないように見えたから。
リンさんは好き嫌いがハッキリしてるから、勝手にそう思ってるだけなんじゃないかと思った。
だけどそんな考えは、この後起こる事件によってすぐに消え去った。
「フン♪フン♪フフフン♪」
高そうなアクセサリーを身につけて、鼻歌を歌いながらヒールの音を高々に鳴らしてこちらに向かって歩いてくる夫人がいた。
「アレン、下がれ(‼︎)」リンさんが小さく呟く。
あたし達は細い路地裏に身を隠した。
「頭が高いザマスよ!!ゴミはゴミらしく地面に這いつくばりなサーイ!!」
女の人は声高々言うと、周りの人は一斉に頭を地面に擦りつけた。(⁉︎)
あまりの衝撃にあたしは声が出なかった。
みんな、どうして急に?
「ウーンいい眺めザマス!」夫人はご機嫌にそう言った。
(あの人は一体…?)
しかし、その時だった。
横から突然、男の子がボールを追いかけて飛び出してきた。そして。
「痛っ!!」
夫人とぶつかってしまった。
辺りの空気が一瞬で凍りつく。
ここにいる全員が男の子に視線を送った。
「アータ…今アタクシにぶつかりましたわね…?シティ・ロマーノの貴族であるあたくしに!!(‼︎)」
そう言って男の子をギラリと睨みつける。
そしてわざとらしく、大きな声で街全体に言い放った。
「まぁ、さっき買ったドレスが汚れてしまいましたわ!これはアタクシが何をしても…何も文句は言えないザマスねぇ…?(‼︎)
先週は勝手にお休みさせてもらってすみません!
気づいたら日曜日を超えて水曜日になっていました…(?)
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