16 光と影のある国
(ここは…どこだ…?)
あたしは今、暗くて深い闇の中にいる。
暗くて見えづらいけど、だんだんと目が慣れてきた。
ここはあたしが知っている場所だ。
(ラボだ…あたし、何でここに………!!)
何かを踏んだ感触がした。生々しい…感触だ。
(ガウル…?シスリー…?)
そこには2人の無惨な姿があった。
2人だけじゃない。
(ヴォルト…ダスク…ハーヴィ…!)
あたしはみんなの側に駆け寄った。
(あぁ、みんな…ごめん…ごめん…!)
そして。
暗闇の先に、あたしのことを見ている人物がいた。
(カノンさん…!)
カノンさんの元に行こうとした…その時。
カツカツ…と後ろからこちらにやってくる音がした。
レイブンとワクラバだ。
レイブンは得意の笑顔で「さぁ、戻ろう」とでも言いたげに大きく手を広げた。
(嫌だ…あんたの所だけは絶対に…‼︎)
レイブンらがどんどん近づいてくる。
さっきまでカノンさんの姿は、いつの間にかいなくなっていた。
足が沼にハマっているかのように重たい。
思うように動かない。
2人との距離は、もうほとんどなかった。
(嫌だ…止めて来ないで…来ないで…!!)
ーーー
「嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ‼︎」
あたしは大声を出しながら布団を投げ捨てた。
「ハァ…ハァ…ハァ…」
外は夜。ここは…リンさん家だ。
(夢…か…)
汗がぐっしょりだ。
向かいにいるリンさんを起こしてしまったのではないかと思ったが、リンさんは起きていない様子だ。
(気づいてない…のかな?)
とりあえず一安心する。下手に怒らせて追い出されたらたまったもんじゃない。
もう一度眠りにつくのが怖かった。
同じ夢を見てしまうかもしれない。
何度も寝返りを打って枕を抱きしめた。
だけど人の体というのは不思議なもので、いつの間にかまた眠りについていたのだった…
・・・
ジューっと香ばしい音が聞こえて、あたしは目が覚めた。
キッチンに向かっていたリンさんがあたしに起きた気づく。
「おっはよー」
「…おはよう、リンさん」
あたしはくたびれた体を起こし、リンさんはお皿を2つ机に並べ、席についた。
「朝飯。冷める前に食べろ」
「これは何?」
「目玉焼き。食うのは初めてか?」
「うん」
「そりゃあ運がいいな!目玉焼きにおいてあたしの右に出るやつはいねぇぞ?食ってみ。あ、パンの上に乗っけた方がうまいぞ?」
あたしは言われた通りパンに目玉焼きとやらを乗せ、ハフっと頬張った。
卵の黄色い部分が破け、お皿にたくさん溢してしまった。
「うっ!」
「ハハっ!食べ方下手だなぁ〜。んで、どうだ?お味は」
「ん、おいし!」
「だろ?」
リンさんは得意げにウィンクをした。
今日のリンさんは優しいな…と思った矢先。
「じゃ、あたしは仕事してくっから。雑用頼んだぞー」
「ま、待って!雑用って何すれば…!」
言い終わらない内に、バタンとドアが閉まってしまった。
口を拭いて、追いかけようと外に出たが、リンさんはもう丘を下ってしまっていた。
「そんなぁ…」
追いかけるのを諦め、あたしは家に戻った。
さて、困った。
大切な初日。しくじる訳にはいかない。
(掃除はラボのみんなとしてた。あとは…何も分からない)
「よーし…!」
ーーー
「リン、ちょっといいかな」
仕事中、村長のシトラトスが声をかけてきた。
「今仕事中なんだけど」
「すぐ済むから」
ふぅ、とため息をつき、あたしは仕方なく村長のいる方へ行った。
「どうだい?アレンちゃんとは上手くやってるかい」
「まだ1日も経ってねぇぞ?」
「まぁそうだがな。村のみんなはその話題で持ちきりなんだよ。それに村長として気にしない訳にはいかないだろ?」
あたしは少しの間考え、あの事を伝えた。
「…昨日の晩。あいつ、悪夢に魘されてたんだ」
「悪夢!なんと!」
あたしは昨日の様子を思い返していた。
今朝アレンには嘘ついたけど、あの時あたしはアレンの声に起こされていたんだ。
「すごい苦しそうな声を出してた。嫌だ、止めてって誰かに言ってた。誰かの名前も呼んでたな…」
「…そりゃそうだ。あの子の身に何があったのか具体的なことは分からぬ。たがあの歳で相当な傷を受けてるんだろう。可哀想に…(‼︎)」
あまりにも綺麗な謳い文句だったので、思わずプッと吹き出し、「ほんと、村長って口だけだよな」と言ってしまった。
すると村長は、図星とでも言いそうに顔をピクッと痙攣させた。
「失敬な!私は心からそう思ってるんだぞ!リン。お前さん、私に恩があることを忘れるでないぞ…?」
「わりぃわりぃ、ちょっとからかっただけだろ?」
「お前の冗談は冗談に聞こえんのだよ…」
「でも…」とあたしは話を元に戻す。
「気をつけな。少なくともあいつはお前の方便に気づいてたぞ?(‼︎)」
「まさか…!」
「違えーよ。あんまキレイゴト言い過ぎんなって言ってんだ」
そう言うと村長は安心したように胸をなで下ろした。
「分かっていると思うが、あの子はいずれ王国の持ち駒となる。下手なことは考えるでないぞ?あと1週間もすれば…向こうから迎えが来るだろう」
「…分かってる。同情はしねぇよ」
あたしはクルッと向きを変え、依頼人に声をかけた。
「わりぃカンさん!残りの伐採、明日でもいいか?」
「いつでもいいさ。やってくれるだけでこっちはありがたいんだ」
あたしはカンさんに手を振り、「じゃ!」と村長にも別れを告げた。
「…」
この国、ジョワブル王国には「象の家」という孤児を保護する国立施設がある。
保護といえばかわいいもので、ようは親が子を捨てることを国は認めているのだ。
優秀な子供は勉学に励み
そうでない子供は他へ売られるか、国王軍の兵士として一生、貴族共の尻に敷かれて生きていく。
こうしてこの国は光と影、極端な格差社会を作ることに成功した。
(同情はしねぇ。あたしはそんなお人好しじゃないし…綺麗な人間でもない)
そんなことを考えているうちに日も暮れ、あたしは家に着いた。
窓から部屋の明かりが灯されているのが分かる。
「…恨むなら、てめぇの運命を恨め」
あたしは小さく、そう呟いた。
梅雨なのに梅雨じゃないみたいな今日この頃。
体調管理、お気をつけください!
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