12 春隣
明けない夜がないように
止まない雪もないのだろうか。
降り止むことを知らぬ白雪は
どんな色をした思い出さえも
真っ白にかき消してしまいそうで…
「大きくなったねぇ…」
カノンさんの手が優しく触れる。
「ずっと、償いたかった。アレンだけじゃない。みんなを地獄へ連れてきてしまった。父の手にかかってはもう助かる術はない。幾多の小さな命を摘んでしまったか。償いたくても償えなくて、私は自分を責めることしか出来なかった」
カノンさんの気持ちが痛いほど伝わる。
「だけどアレン、あなただけは。あなただけは父の魔の手から逃れることが出来る。私には何があってもあなたをここから逃す義務がある。あなたを失うことで…父の研究に終止符を打つことができる」
「っ…グスッ……」
逃げるしか…ないのか。
あたしが逃げることでカノンさんが…みんなが救われるなら…
カノンさんはギュッとあたしを抱きしめる。
「こんな小さい体に…大変なものを背負わせてしまって本当にごめんなさい。私たちの事なら大丈夫」
あたしも何か言いたいのに。
ただ泣きじゃくることしかできない。
カノンさんが抱きしめる力を弱めた時、あたしは反射的にしがみついた。
「ぃや……だ!!」
それが唯一声を絞り出して出た言葉だった。
怖い。
怖くて怖くてたまらない。
行かなきゃいけないことは分かってる。
それがカノンさんの、みんなの願いだから。
だけどここだけだから。
ウソだらけのこの場所だけが、あたしの世界だから。
「アレン(‼︎)」
名前を呼ばれて、あたしはカノンさんの目を見た。
「大人になったらお父さんとお母さんを見つけるっていう約束、覚えてる?」
「ぐすっ……うん……」
「絶対、果たしてね」
「うんっ…!」
「世界は広いわ。必ず優しい人に会えるから。私たちのこと、忘れないでね?」
「ゔんっ…!!」
「あ、そうだ」
そう言うと、カノンさんはあたしにあるものを渡した。
いつも検査の後にカノンさんがくれるアメちゃんだ(‼︎)
それを見るだけであたしはまた涙が溢れ出そうだった。
「食べて」
あたしは頷いてアメちゃんを受け取り、食べた。
あぁ、いつもの味だ。安心する。
あれ、でも何だ…?
「大好きよ、アレン」
カノンさんはあたしの額にキスをした。
そしてこれが、あたしが最後に聞いたカノンさんの言葉だった。
あたしは大きな眠気に襲われて、そのまま深い眠りに落ちてしまった。
「こんなダメな母親を許してね」
アメには睡眠薬を混ぜた。
これで明日までアレンが目覚めることはない。
私はアレンを箱の中で苦しくない体制にし、コートをかけ、中に一通の手紙を入れた。
そして最後に一目彼女を見て、蓋を閉じた。
私は船のエンジンをかけた。
「さようなら。どうかその先で、暖かな春を迎えられますように」
ブゥーーン!!と船は勢いよく倉庫を飛び出し、あっという間に霧の彼方へ消えていった。
…
足に力が入らない。少しでも気を抜けば麻酔で意識が飛びそうだ。
(まだよ…まだ倒れるわけにはいかない…!)
ーーー
私が着いた時には、現場はまさに「悲惨」という言葉がよく合っている状態だった。
「このバケモンが…」
「ヴゥゥゥゥ…!」
「これで最後だ…!」
「止めなさい!!!(‼︎)」
父を囲むように倒れている3人の子供たち。その後ろでビクビクと怯えている助手。
「あいつは?」
「もう…この島にはいない」
「あり得ん。もうこの島に脱出手段は残っていない」
「いいえ。私のガラクタの中に輸送船の失敗作があった(⁉︎)アレンはそれに乗って逃げたわ…私がこんなに早くここに戻ってこれた理由を考えれば分かるでしょう?」
私は足に雪の上を滑れるブーツを装着していた。
これも昔、ここから逃げるために試作したものだった。
父はそれを見て私が嘘をついていないことを悟った。
逆鱗に触れるかと思ったが、父はむしろ薄気味悪い笑みを浮かべた。
「ハハッ…そうか。じゃあこのセットはお前らの勝ちというわけだ」
「…どういうこと?」
「俺の諦めの悪さはお前が一番よく知っているはずだ。1048(ヒトマルヨンハチ)は必ず俺が手に入れる。そのための手段は選ばん!!だがお前は…何度でも私を止めに現れるんだろう?」
「当たり前でしょ…あなたを止められるのは…私しかいないんだから…!」
すると、父は私に向かって歩いてきた。
そしてあたしを優しく両腕で包み込む(⁉︎)
「お前には迷惑をかけた。今まで世話になったな(‼︎)」
(何を今さら…何を今さら父親ぶって…!!)
頭でそう叫んでも、体はしっかりと父の温もりを受け止めていた。
「っ…私は……私はただ"家族"が欲しかっただけなんだ…!」
「分かっている…地獄で会おう」
何をされたわけでもない。
だけど緊張の糸がプツンと切れ、全身の力が抜けた。
私は3人に囲まれるように雪の上に倒れ込んだ。
「レイブン様…火は全て鎮火されました。建物の一部は無事です」
「…そうか」
「…」
2人の足跡が遠のいていく。
今まで耐えていた分、麻酔が一気に体を回る。
もう腕を持ち上げる力も残ってない。
すると、3人がフラフラの体を持ち上げ、私の側で体を擦り寄せるように座った。
(私を温めてくれてるの…?)
あぁ…温かいって、こんなに安心するんだ。
「ありがとう…来世はきっと、幸せに生きるのよ」
私は3人に
私は最後の力を振り絞って、内ポケットに入っている一枚の写真を取り出した。
いつもは引き出しに入れているそれを、今日はお守りのように持っていた。
寒さも感じなくなってきた。
激しかった雪も落ち着き、布団をかけるように静かに降り積もる。
・・・
遠くで2つの影が見える。
『お母さん!お父さん!』
私の声に気がついて、優しい笑みでこちらに振り向く。
私は走って勢いよく2人に抱きついた。
2人が何を言っているのか私には聞こえない。
だけど私は2人に伝えたかった言葉を伝えた。
『大好き!!』
ツイッターではお知らせしましたが、今週から小説投稿時間を毎週日曜日の深夜0時とさせていただきますのでよろしくお願いします(^^)
来週から新章突入です!お楽しみに…
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