魔術師ギルドの依頼 ~帰還編~
ジェラルリードちゃんが企んだ悪戯がどんなものか発覚します。しかし、これがとんでもない演出効果を発揮してしまい・・・
第三章 第十部<魔術師ギルドの依頼 ~帰還編~>是非最後までお付き合いくださいませ
「え、え~と・・・これは一体何事でしょうか?と言うか、まずは皆さん、顔を上げていただけませんでしょうか?なんというか・・・こういうのは非常に気まずいです。お願いします。」
極力平静を装ってみるが、声と膝が若干震えてしまう。魔法使い姿の皆さん、マジで止めてください。挙動不審が加速します。
「いいえっ。真祖吸血鬼をたった2人の奴隷を連れて撃退されるような方に、こちらの所属の者が大変な失礼を働いたとありましては、猛省と謝罪の気持ちをご理解いただく為にもお許しが出るまでは頭を上げるなど恐れ多く、とてもできかねますっ。誠に、誠に申し訳ございませんでしたっ!」
中年魔法使いの若干震えた言葉に、自分の顔が思いきり引き攣るのが自覚された。
<真祖吸血鬼を撃退した>って・・・・
ジェ、ジェラルリードォォォォォッ!!!!!あいつっ!別れ際の悪い笑顔で企んでたのはこれかぁぁぁぁぁぁぁっ!!!
思わず、心の中で怨嗟の絶叫を上げる。
ここに真祖吸血鬼がいた事は、俺達以外は知らなかった筈だ。何せ、依頼書にはそんな事は一言も書かれてなかったっぽいし、通常のアンデッド発生なら有り得ない事みたいだからだ。それは、ジェラルリードちゃんと出会う直前のリアの言動から察しがつく。
なのに、俺達が出てきた時にはもう表の人達がそれを知っていて、さらにはもういない事まで知っているという事は、先に出てったあいつが言いふらした以外には有り得ない。それも、撃退という言い方をしたところを見ると、まるで戦って追い出されたかのような演出をして、だ。
完全にイヤガラセだ。俺が目立つのも注目されるのも嫌だと言ったから、そうなった時の反応を見るか聞くかして、面白がるつもりに違いない。もしかしたら、退散した振りをした後、変身能力を使ってこっそり戻ってきていて、今も見ているかもしれない。爆笑しながら。
「ゆ、許すも許さないも、もう終わった事です。今後、彼女達に対して同じような事がなければ結構ですよ。」
「か、彼女達、と申されますと、そ、その獣人と亜人の奴隷に対してという事、でしょうか?」
俺の顔色を伺いながらも、怪訝な表情を浮かべる。
「当然です。彼女達は俺のものですから。そこの人がしたように、この2人の処遇について口出しをされる謂れはないでしょう?」
俺の視線が伸びると、地面に平伏したままの件のイケメンがビクッと体を震わせる。どうせもう目立つ事は確定なんだし、ここの全員にセレアとリアへの態度全般を考えさせておくか。魔術師ギルドには魔法を教えてもらいにいく予定だし。
「ついでに皆さんにお伝えしておきます。俺は自分のものには愛着もありますし、大切にもしています。それだけに、他人に蔑ろにされると不愉快極まりないんですよ。」
俺の言葉に、問いを発した中年魔法使いのこちらを伺う顔が蒼白になる。
「意味は、お分かりいただけますか?」
「「「「「「「はっ、はいっっっ。」」」」」」」
震えた声で魔法使い一同様の返事がハモる。何故にそこまでビビる?真祖吸血鬼を撃退したってので強い奴らなんだと思われてるのは仕方ないにしても、ここまでビビる必要はないんじゃないかと思うんですが。俺の見た目は怖くも何ともない筈だし。冒険者ってのはそんなに粗野な奴が多いんだろうか?
「そうですか。ご理解いただければ、もう顔を上げていただいて結構ですよ。」
魔法使い一同様は異様に素早い動きで立ち上がり、直立不動の姿勢をとる。もしや、今の言い方だと、<立ち上がらなければ理解してないと解釈する>と言ってるように捉えられてしまったんだろうか?まぁ、土下座とか勘弁してほしかったからいいんだけど、この異様な素早さと直立不動の姿勢はなんだかなぁ。
それから、依頼が完了した事を伝えて、そそくさと採掘場を後にした。魔法使い一同様が総出で見送りをしてきたのが余計に俺の進む足を早めたのは言うまでもない。
採掘場からかなり離れて、周囲に人影がない事を確認して俺はジェラルリードちゃんに貰った腕輪を腕に嵌める。
ちょっとキツそうだと思っていたら、勝手に腕輪のサイズが大きくなり、俺の肩下サイズにジャストフィット。魔法の道具ってスゲェ・・・
って、今はそれよりもだ!!
「ジェラルリードちゃぁぁぁん?」
『はいはーい。どうかし・・・プッ』
笑いを堪えたような声で返答があったかと思ったら、即効で吹き出して爆笑した。
やっぱりどっかで見てやがったな、このヤロー・・・
少しの間、ジェラルリードちゃんの爆笑が腕輪を通して響き、一頻り笑ってからようやく笑い声が収まる。
『いやぁ、ごめんごめん。キョドるとは言ってたけど、まっさかあんなに動揺するなんてね~。声も膝も震えてたじゃないの。』
心底愉快そうな声で、全く悪びれた風もなく詫びるジェラルリードちゃん。
「やっぱり見てたのかよ!?ってか、止めていただけませんでしょうかね!?こういう悪戯は!?」
『だから、ごめんってば~。注目されてキョドる冒険者なんて想像できなくってさ。普通は増長して、態度も横柄になるモンなのよ?』
「充分過ぎるくらい横柄になっちまったぞ・・・頭を上げろとか何様だよ・・キャラじゃないってのによぉ。」
『あんたにとってはそれで横柄なんだ・・・あんな丁寧な喋り方しといて・・第一、あたしと遭遇しても平然としてた胆力はどこにいったのよ?』
「無邪気なゴスロリ美少女に凄まれてもビビるかっての。可愛い子に対しての免疫はセレアとリアで結構ついてきてるし。」
『真祖吸血鬼を相手にしてるよりも、可愛い子に対しての方が免疫が必要なわけ!?あんたは!!』
「そりゃ、悪意とか殺意全開で襲われたら全力で逃げるけど、逃げる分には免疫っていらないし。」
『・・・・あんたの感覚って絶対に変・・・異世界人ってそういうもんなのかしら?』
「彼女いない歴=年齢、プライベートでの女性との接点がここに来る直前の数年間皆無の俺の感覚を舐めんなよ。元の世界でもこんな奴、そんなにいてたまるか。」
『うわぁ・・・その上、いきなり異世界に召喚されるわ、即行で放逐されるわって、あんたの人生も大概ね。』
「ほっとけ。今はセレアとリアがいてくれるからいいんだよ。充分過ぎるくらいに勝ち組だ。」
視界の端でセレアとリアが真っ赤になるのが見えて、急に自分の吐いたセリフが恥ずかしくなってきた。そういう可愛いリアクションをしないでっ。照れくさいからっ。
『ま、それもそうね。いやぁ、それにしても笑った笑った。こんなに笑ったのって何百年振りかしらね。やっぱりあんたは面白いわ。』
「ハァ。そりゃよぉござんした。」
ジェラルリードちゃんのやたらと明るい声を聞いてたら、街に戻ったら面倒臭そうとか冒険者ギルドでの反応が怖いとか、そういうのは何かどうでもよくなってきた。
「しかし、どう言ったんだよ?撃退したとか言われたぞ?」
『とりあえず、変身能力でボロボロにされた感じになって』
おい・・・
『[真祖である妾をここまで追い詰めた冒険者を呼んだのは貴様らか。人種族にも恐ろしい剛の者どもがいたものよ。ここは大人しく退いてやるが、深淵なる闇の貴族にして悠久なる時を不変に在り続けるこのジェラルリード スウェン。この屈辱は忘れまいぞ。]って言ってから、霧になって退散したの。どう?考えてくれたフレーズ、早速使ってみたんだけど、イケてるかしら?』
「おぉ~・・・よくあんな少しの時間でセリフの構成まで練れたもんだな。大物がヤられて去る前のセリフっぽいし、報復の恐怖もちゃんと煽ってるし。欲を言えば、真祖だってトコをもっと強調した方が・・・って、セリフの評価をしてる場合じゃねぇぇぇぇぇっ!?」
そりゃ、魔法使いの皆さんがビビる筈だよ!!!俺だってそんな奴がいたら、何も悪い事してなくても、全力で謝って全力で逃げるよ!!
『ど、どしたのよ?急に。』
「分かってないだろ!?それ、メチャクチャな演出効果が出ちまってるんだぞ!?」
『へ?どゆこと?』
セレアとリアもどういう事なのか、不思議そうな顔をしている。
「・・・・いいか?よぉぉぉく考えてくれよ?真祖吸血鬼で、並のモンスターなんか束になってかかっても相手にならないような強さをしてるジェラルリードちゃんはボロボロだった。」
『うん。』
「でも、戦ってた筈の俺達は全員が無傷で、大して疲労した様子もない。」
「「『あ。』」」
腕輪を通したジェラルリードちゃんの声に、セレアとリアの声も重なる。
「しかも、装備は真祖に対抗できるような物じゃない。」
『あちゃぁ・・・』
「装備の事には気付かれてなかったとしても、どんだけ非常識に強いと思われてんだ!?真祖相手に3人で挑んで、しかも全員が無傷ってどんな化け物集団だよ!?」
『あらぁ・・・ごめーんね?』
「軽いな!?おい!?いやまぁ、もうどうしようもありませんがね!?」
『まぁ、でもそこまでの話になったら、逆に眉唾過ぎて噂になっても誰も信じないんじゃない?』
「・・・でも、絶対にリスタニカでは大騒ぎになる気がするぞ・・・・」
『なってるんじゃない?遠話の魔法で報告してたし。』
思わず、膝から崩れ落ちて両手を地面についてしまう。
マジか・・・これは魔法を習いに行ってる場合じゃないんじゃないのか?とんでもなく注目を浴びる気がする・・・
「ご、ご主人様っ。」
「だ、大丈夫ですか?」
2人が俺に寄り添うように膝を付く。
「・・・・だ、大丈夫だ。確かに、眉唾過ぎる話だし、もしかしたら、眉唾過ぎて騒ぎにもならないかもしれないし・・・」
薄過ぎる希望を口にしてみるが、さすがに全く騒ぎにならないって事は期待できないだろう。何せ、採掘場であの状態だったんだ。それに、遠話の魔法で連絡を取ったって事は、元々有事の際の連絡手段として備えていたんだろうから、真祖吸血鬼の存在なんて有事以外の何物でもない事が正確に伝わっていない筈がない。
『注目されるのにも免疫作っちゃいなさいよ。この際だし。』
「モブ男その1な人生を歩んできた俺にはハードルが高過ぎる気もするけど・・・ハァ。」
立ち上がって、膝の砂を払う。
「まぁ、そうなったらそうなったで、多分、俺の機嫌を損ねるような事はしようとはしないだろ。そうなりゃ、上手くいけば、さっき言った事は街全体に広がってセレアとリアに対する態度は表面上だけでも緩和されるだろうし、悪い事ばっかりでもない。うん。そうだ。そう考えれば、結構平気な気がしなくもない気がすると思う。」
『うわぁ。必死で自分に言い聞かせてるわね。』
「ほっとけ。もうこうなったら、自己暗示で開き直る覚悟をしとくしかないだろ。」
『まーね~。でも、実際にそれはあるかもね。あの勇者のクソガキも、自分の強さを誇示して好き勝手やりまくってたわけだし。』
「勘弁してくれ。そういうのは性に合わない。目立たず、静かに、平和平穏、無事無難ってのが信条なんだから。」
『その割には、リアとセレアの事に関しては詰めるのねぇ。アレも大概目立つわよ?言ってる事が特殊だから。』
「それは別にいいんだ。それをスルーしなきゃならない方が俺にはストレスだから。」
セレアとリアが嬉しそうに肩を寄せてくる。だから、耳をペタンとするのヤメテ。セレア。可愛過ぎるから。それは反則だと思います。
『ふふ。変なトコで思いきりがいいのねぇ。』
妙に嬉しそうな声で言うジェラルリードちゃん。
「王都で世話になった子にも言われたよ。それ。」
『やっぱりね。それじゃ、またね~。』
「おう。また連絡するよ。」
遠話が途切れる感覚がして、再び俺達は歩き出した。
ああは言ったものの、リスタニカに戻るのが憂鬱過ぎる・・・目立ちたくないよぉ。
それから2日後、リスタニカの街に到着すると、即行で門番から伝令が走り、魔術師ギルドのお偉いさんがお付きの人達を連れて登場。再び、イケメンの態度と、さらには中年魔法使いの言動についてまで丁寧過ぎる謝罪を受けた。
さらに、冒険者ギルドで依頼完了の報告にいくと、こちらにもやっぱり報告が来ていたようで、こちらもお偉いさんが登場。褒め称えられた上に、真祖吸血鬼を撃退した功績という事で、一気に白金に昇級させられてしまった。嫌がったら、謙虚だとか言われた。謙虚じゃなくて、マジで嫌なのに・・・
さらに、報奨金は上乗せされまくって、なんと300万エニーが手に入ってしまった。もし、あの採掘場が乗っ取られていたら、この国の魔石の流通が儘ならなくなってしまう所だったからだそうだ。
おかげで、街全体の注目の的となってしまい、とてつもなく恥ずかしい。セレアとリアに対する態度が予想以上に緩和されて、蔑むような視線がほとんど感じられなくなったのはよかったけどね。
で、宿に戻ったら即行でイチャイチャタイムに突入した。
注目を浴びてグッタリしていた俺を元気付ける為に、2人はまたあの危険な服を着て甘えてくれた。もう一気に元気になりまくった。我ながら、現金なもんだよなぁ。
ただ、元気になりすぎて、また翌朝まで連戦してしまった。あの服はやっぱり危険過ぎる。綺麗だし可愛いしエロいし、制限なんかできる筈がない。途中で1着目にも着替えてくれたりして雰囲気が変わるから、さらに加熱するし。何より、セレアもリアも嬉しそうに何回も求めてくれるから、連戦が止まらない。
今後もあの2着の服は着てもらうつもりだ。むしろ、もっと服を増やしていくつもりだ。うん。もうすっかりダメ人間だな。
朝食を摂った後、セレアもリアも俺の腕に抱きついてきて、俺も一緒に心地好い睡魔に身を委ねて夢の世界に旅立っていったのだった。
悪戯の結果は、一般的に見ればプラスでしかないのですが、目立つのが苦手な小心者の主人公には少々酷だったようです。もし、一人だったら引きこもりになっていたかもなレベルなんですが、セレアとリアのおかげで立ち直ったようです。単純なのはいい事ですね(笑)
では、これにて第三章 第十部の幕を下ろさせていただきます。最後までお付き合いいただいた皆様に感謝です。また次もお付き合いいただければ幸いです。




