47話 再会
僕とエリスリナは今揃って教会の門の前に立っている。来た時と違うのは僕の服装が修道服になっている位か。
結局あの後、一週間という時間は怒涛の早さで流れていく。体調が良くなるまでは自室で荷物の片付けをし、動けるようになってからアガサさんに挨拶をしに行った。彼女はエリスリナをいたく気に入っており、いつでも遊びに来いと言ってくれた。
アガサさん以外にも挨拶回りをするとあっという間に期限の日になってしまった。唯一残念なのが、この一週間まともにロレッタと会話が出来ていないことだ。擦れ違い生活もここまで来ると誰かの陰謀なのではと疑ってしまうほどだ。
まぁロッレタの事はさておき、午前中に行うだろうと思っていた卒業式は、何と午後の礼拝の時間に行われ式が終わった現在既に日が傾きかけている。春先で日が長くなったからいいものをこれが冬だったら真っ暗だ。まぁさすがに冬だったら一泊泊めてくれるだろうけど。
「とりあえず宿に行こうか? このままいてもしょうがないし」
「そうね、そろそろ日が暮れるし……どこかいい宿を知っている?」
思いもよらぬ声が返ってきて思わず声の主を凝視してしまう。なんと横に旅支度をしたロレッタが立っていたからだ。
「ロレッタ!? 何で!?」
「話しは後々。早くしないと日が落ちちゃうわ」
笑顔で話しかけるロレッタはそのまま街へと歩き出してしまう。僕は混乱しながらも嬉しそうに歩く彼女の背中を追った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
『いい宿を知らないか』と言われてもこの街で知っている宿屋はひとつしか知らない。という事で今日も『菜食主義の狼亭』にご厄介になる。てか来る度に女の人が増えるパーティってどうなの?
部屋に移動すると、ロレッタから事情を説明してもらう。
あの時、アンスさんから卒業を言い渡された時に一緒に行こうと思ってくれたそうだ。それから各所に根回しをして寮を出れる様にしてからアンスさんに相談しに行ったそうだ。
外堀を埋めてから行動するとか……知能派って怖い。
だが、実際アンスさんに相談するとあっさりと許可がおり、『外の世界を見て勉強してきなさい』とまで言われたようだ。その時顔を赤くしてもじもじとしていたので他にも何か言われたのだろう。
「と言うわけで、これからもよろしくね」
頬を桜色に染めたロレッタが微笑みかけてくる。まぁ優秀なメンバーが増えるのはありがたい事だからいいんだけどね。
翌日、ギルドカードの更新とロレッタの再登録をしにギルドまで出向いた。指導員として登録していたので、これを期に正式な冒険者として登録し直すそうだ。
ロレッタの再登録は問題なく終わったのだが、僕の更新には時間がかかった。と言うのも全く依頼を受けておらず、また三ヶ月が経とうとしていたからだ。
エマさんにまたかと怒られ、武器製造の依頼を山のように受けさせられた。数にして短剣サイズを二十本、片手武器で剣と斧を合わせて十五本。後、盾やらなんやらで数十点……これを今週中にギルドへ納めろと言うのだ。今がちょうど週の真ん中位だから、正味三日か……鬼だ……。
「三ヶ月。仕事をしてなかったのは誰かなぁ?」
逆らってはいけない。
この時、エマさんの笑顔を見て本能的に感じた。
それから三日間、ギルドが用意してくれた工房に缶詰めにされ、ひたすら武器を作り続けた。もう当分金槌は持ちたくない。
そんなこんなで数日間過ごすと約束の日へとなった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「それじゃ行ってくるよ、エリーをよろしくねロレッタ」
宿屋の前で二人と別れる。二人は教会でアガサさんの手伝いをするのだという。エリスリナといえば、最近は名前でなく愛称の“エリー”と呼んでいる。あの時以来名前で呼んでも返事をしないのだ。これも成長しているということなのだろうか?
そんな事を考えていると目的地である冒険者ギルドへと到着した。これからこの場所で人と会う約束をしているのだ。
建物の中は毎度の事ながら騒がしく、飲食スペースでは何組もの冒険者が酒を飲んでいる。
(おい、聞いたか? 姫様がここの教会を訪れた時の話し)
(聞いた聞いた。何故か急に訪問した姫様は司教様と少し会話すると話が違うと怒られたそうだ)
(一応見学をしていかれたが、目が死んだ魚のようだったと言っていたな)
ノンナは何やっているんだろうなぁ。
空いている席に陣取りお酒を飲みながら他のテーブルから聞こえてくる話しに耳を傾ける。
三杯目のジョッキがちょうど空になった時、入り口からえらい豪華な鎧に身を包んだ体格の良い男が入ってきた。場違いにも程がある装備を着こんだ男は早々に他の冒険者に絡まれている。
あ、殴られた。
荒くれものが多い冒険者稼業だが、血の気が多くていけない。まぁ殴られたのが僕じゃないからいいけど。
「ふ~いきなり絡んでくるとか……和泉さんも見てたなら助けてくれればいいのに」
飲み物の追加注文していると、例の鎧男が声をかけてきた。いきなり名前を呼ぶとか馴れ馴れしい……。
文句のひとつでも言ってやろうと鎧男を見上げるとそこには見知った顔が……。
「何だ、武さんか」
「久々に会った友人に“何だ”って酷くね?」
武さんがじとっとした目で見てくるが軽く受け流す。すると武さんも無駄と悟ったのかため息をつきながら正面の椅子へと座る。
「愛が足りないよ、愛が」
「武さんさぁ欲しいの? 僕の愛が?」
LoveじゃなくてLikeの方だとわかっているけど悪のりしてみる。
「オカマも神も大概だな」
しかし、答えは正面からではなく僕の左側より届いた。辛辣な言葉と共に。
驚きと同時に顔を向けると、空いていた席に頭から体まで真っ黒な男が座っていた。頭には黒のターバンのようなものが巻かれ、顔も目だけ出して後はマフラーのようなもので隠されている。一見すれば男か女かわからない格好だが、見当はついている。
「もしかして、ひなぞーか?」
武さんは自信が無いようで問いかけているが、僕の事を“オカマ“呼ばわりする奴なんて一人しか居ない。
「よ」
「よ……ってかオカマ言うな」
黒ずくめの男こと陽向は右手を上げて軽く挨拶をしてくる。怪しさ満載の格好なのだが良いんだろうか?
なお、当然のように僕の発言は無視された。
「とりあえずみんな生きてたようで何より」
「いずんちゅあたりが痴情の縺れで死んでるかと思ったけどな」
「何で!?」
そう、今日会う約束をしている人と言うのはこの二人。一年前に別れた僕の友達だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
まずは乾杯をと言うことで料理などを注文する事にした。僕はフライングで飲んでるけどね。
お酒と料理が届くまでお互いの話しをすることになった。
「俺はまずアルケミストのJobを取得した後、モンクとアサシンのJobを取得したな」
陽向が人のお摘みを食べながら報告してくる。僕と武さんは聞こえてきた物騒なJobに声を揃えてしまう。
「「アサシン!?」」
「ああ、アサシンだが。それがどうした」
何故人殺しのJobを取得してああも堂々としていられるのだろう……。
「聞きまして宇江原さんの奥様」
「え~え~聞きましてよ、武田さんの奥様。暗殺者ですって」
「「怖いわね~~」」
一年ぶりだと言うのにぴったし息が合うと嬉しいやら恥ずかしいやら……。
「黙れ変態共、まだ殺してないわ」
まだって……殺す気あるのかい?
「まぁ俺はこんなところだ、いずんちゅはどうなんだ」
勝手に話しを切り上げた陽向が話しをふってくる。
「僕? 僕はまず忍者でしょ~それにブラックスミス、ウィザード、プリーストの順番で取得したよ」
指折り数えていくと桃華や桜華さん、リッカにメリッサマーリンさんにイルマさん。師匠にシュイちゃんとフェンさんと言ったお世話になった人達の顔が浮かんでくる。ロレッタとエリーは現在進行形でお世話になったりしたりしている。そう言えばリッカを迎えに行く約束していたっけ。
「また各地で女を作っていたんだろう?」
「この変態は異世界の女となると見境が無いからな」
「酷くない!?」
二人の視線が痛い。てか各地で女を作るって超人聞きが悪くない!? たまたま知り合った人が女性なだけだよ?
「まぁ変態の話しは後で聞くとして」
「ねぇひなぞー、僕には『和泉』って名前があるんだよ? 名前じゃなくてもせめて『あだ名』で呼んで……」
「武ぞーは何のJobをとったんだ?」
「あれ? 無視ですか? そんな露骨な無視は傷つくよ? 泣くよ?」
僕の視線をガン無視した陽向は武さんに向き合って話し掛ける。武さんも特に注意するわけでもなく普通に話し始める。
「オレか? オレは……」
武さんはそこまで言うと急に黙りこみ、ニヤリとした笑顔を向けてきた。
「聞いて驚け! オレのJobは」
「あ、めんどくさそうだからいいわ」
「エマさ~ん! お代わりちょうだ~い!」
十分に間をとった武さんが満を持して言いかけたセリフを僕と陽向のセリフが遮った。それもこれ以上無いタイミングで。
「………………」
「イズミ、もう五杯目よ?」
「大丈夫、だいじょ~ぶ。まだまだこれからよ?」
「はぁ……そんなに暴飲暴食してそのスタイルとか……軽く殺意が湧くわね」
料理を持ってきてくれたエマさんに空になったジョッキを返し料理を受け取る。その際、何か怖いことを言われた気がするけど……気にしないでおこう。
「毎回思うけど、ギルドの料理って塩辛いよな」
出てきた料理をつつきながら陽向がぼやく。確かにギルドで提供されている料理は露店や宿屋の料理に比べて塩っ気が強い。
「これじゃ高血圧になるぜ」
「うちのはクエストを終えた冒険者をターゲットにしているから良いのよ。はい、イズミ」
ジョッキを持ったエマさんが陽向のぼやきに笑顔で答える。まぁ採取にしろ討伐にしろ体を使う仕事だからね~濃い味付けになるのもしょうがないか。
「あ、そうそうヒナタ。レオナルドさんが君にお礼を言いたいって言っていたわよ」
「レオナルド?……ああ、あの試験薬……じゃなかった毛生え薬の」
こいつ今素で試験薬って言いやがった……。レオナルドさんで人体実験するなよ……。
「いいですよお礼なんて」
「そう? でも彼すっごく感謝していたわよ」
エマさんの陽向が会話している間にジョッキが空になってしまった。このギルドお酒が蒸発するスピードが早いんじゃない?
「エマさんお代わり」
「また!?」
目を見開きながらもジョッキを受け取ってくれるからエマさんは好きだ。まぁ向こうもお仕事だからかも知れないけど。
「それよりも、さっきからリョウが俯いて小刻みに震えてるけど、大丈夫なの?」
エマさんの指差した先では、今まで無視され続けた武さんが下を向いていた。テーブルには小さな水溜まりが出来、時折鼻を啜る音が聞こえる。
「たけぞー」
「武さん?」
二人で揃って声をかけると、武さんはビクンと肩を震わせた後目元を擦り顔を上げた。
「話しを聞いてくれるのか?」
男の涙なんてクソほどの価値もないのだが……しょうがない、話しだけでも聞いてあげよう。
「ほら、たけぞー言ってみ。聞いてやるから」
陽向も同じ気持ちなのか、武さんに話しを促す。
「ああ、オレな……ロイヤルナイトになったんだZe!!」
そしてこのどや顔である。なんだろう……全力で殴りたい。
とりあえず着込んでいる鎧を金槌でおもいっきり殴り付けてから疑問に思った事を質問してみる。
「ロイヤルナイトって何よ?」
「人の鎧を殴っといて何普通に質問してるんだ!」
金槌で叩かれた事が気にくわなかったのか武さんが喚き散らす。が、僕が答える前に今度は陽向が素手で殴り付け鎧を凹ましていた。
「ちょっと!? 今かなり凹んだんですけど!?」
「うるさい、質問に答えろよ」
「その質問には私が答えましょう」
かなりガチで涙目になっている武さんの横に黒いスーツ姿の男が現れた。今日のアイテムはステッキにシルクハットの様で洒落た紳士を演出している感じだ。まぁ見た目だけだけど。
「皆さんお久しぶりです。和泉様に至ってはアイアンシティ以来ですね」
小洒落た紳士は何を隠そう僕達の担当者、大神さんだ。ただ、ギルドの酒場に完璧なドレスコードは浮きに浮きまくっており、正直関係者と思われたくない。
「和泉様~おいてきぼりはひどいです~」
更に場違いな人物が一人。大胆にも肩を露出したデザインの真っ赤なドレスに身を包み、周りの目などお構い無しに僕へ突っ込んでくる人が……。
せっかく大人な雰囲気を醸し出す服装なのに野暮ったいメガネにお下げ髪がなんとも残念な僕の担当者……。神崎さんだ。
「何で一声かけてくれないんですか!?」
「声をかけようにも……最近居なかったよね?」
飛び込んで来た神崎さんを抱き止めながら反論をする。てか、神崎さんって意外と胸がある……生意気な。
「さて、これで全員揃ったことですし……これからの事を話し合いましょうか?」
すっかり進行役に収まった大神さんが人のお酒を飲みながら話しを進め始めた。てか、その格好のままなのですか?
なんとも言えない雰囲気の中、僕達は再開を果たした。




