48話 魔王とは?
「それにしても皆様お強くなられましたね」
いつの間にかスーツ姿から普通の格好へと着替えた大神さんが僕達を見てポロリとこぼした。
「そうですか?」
「そうですとも。成長速度三倍と言う恩恵を与えておいてなんですが……いや~バケモノ揃いですね」
この野郎……笑顔でバケモノって言いやがった。
心の中に黒い感情が渦巻きながらも、大神さんの話しを聞いていく。
「ただの物理攻撃なら、涼様が一番ですね。さすが『最上位職』と言ったところですか」
大神さんの言葉に武さんはニヤケ面になりながら照れているけど、そんな事よりも気になる事がある。
「最上位職って?」
僕の質問を聞いた陽向も疑問の目を大神さんに向けている。
「『最上位職』とは、読んで字の如く冒険者が就くことが出来るJobで最高ランクのものなんですよ」
答えは僕の横にべったりとくっついている神崎さんから来た。この人も既に着替え終えており、大神さんと同じ服を着ている。
「そんな話し聞いてないぞ」
陽向が大神さんを睨み付けるが、当の本人は何処吹く風といった感じに飄々と答える。
「いや~私もまさか一年でここまで上がる何て思ってもみませんでしたからね~」
大神さんは笑顔のまま説明を続ける。
最上位職とは簡単に言えばそのクラスのマスターレベルでステータスもスキルもダンチらしい。ちなみに、僕が取得した『ビショップ』はプリーストの上位職になるそうだ。
「普通は一生涯かけて修行をしてもなれるのは一握りの人達だけなのですが……」
「いや~オレ神だし?」
大神さんの鋭い視線も何のその、武さんは笑ってスルーしている。ある意味大物だ。
「それはそうと、よく三つもJobを取得してそんな最高ランクになれたな」
陽向がしみじみと呟く。考えてみればそうだ。僕は四つのJobを取得したからひとつにかけれた時間はおよそ三ヶ月。三つだとしても四ヶ月しか時間がとれないことになる。武さんはいったいどんな修行を行ったのだろう?
武さんの方をみると焦点が合っておらず脂汗だろうか、だらだらと汗をかいている。
「おい、たけぞー。まさかとは思うが……」
「他にとっていないなんて言わないよね?」
陽向に続き僕も声をかけると武さんは明らかに目線をそらし口笛を吹き始めた。音は出ていなかったけど。
「涼様が取得したのはあとクルセイダーのJobですね。それもほとんど育っていないようですが」
そんな誤魔化しも通じる訳もなく、大神さんがあっさりとゲロった。まぁ隠していても直ぐにばれただろうけど。
「たけぞー……」
「武さん……」
僕達が揃って残念なものをみる目を向ける。武さんはその視線に気づいたのか急に席を立つと声を荒げる。
「なんだよ! 絶対三つとれなんて言われてないだろう! それに最上位職なんだから文句はないだろう!」
言われてみればそうなのかもしれないのだが、逆ギレされて言われるとなんだか腑に落ちない。
「確かに単純な物理攻撃は涼様が一番ですけど、スキル技、それもバックアタックに限定すれば陽向様の方が強いですよ」
大神さんは出されたお酒を飲みながら普通に話してくる。しかし、武さんにとっては衝撃が強かったのか目が点になりポカンと口を開けている。
「それに魔法攻撃なら和泉様の右に出るものはいませんね。なんせ人間辞めてますから」
大神さんがこれ以上ないって程の爽やかな笑顔を向けてくる。この人は僕が人間を辞めたのがそんなに嬉しいのだろうか?
「それは誤解ですよ、和泉様。和泉様が人間を辞めたと聞いた時は……ぷっ……おっと失礼」
心配する振りして笑いやがったな! この野郎~確実に楽しんでいるじゃないか!
「いずんちゅぇ……」
「和泉さん……」
大神さんに非難の目を向けていると、二人からは先程以上に残念なモノをみる目を向けられた。
「いや! やめて! そんな目でみないで!!」
僕は視線から逃れるために机の下に潜ってしまう。お酒のジョッキを持つことは忘れずに。
ジョッキをちびちびと傾けながらどうやって仕返しをしようか考えていると机の上から勝ち誇ったような声が聞こえる。
「ほらみろ! バックアタックなんて卑怯な手段を使う奴や人間辞めたオカマに比べればオレの方がマシだろう?」
どことなくカチンと来る発言だ。友達じゃなかったら消し炭にしているところだ。
「なら一番強い奴がリーダーで問題ないな」
「え?」
陽向から発せられた台詞に武さんが凍りついた。どいうやら先程の発言にイラっと来ていたのは僕だけじゃなかったようだ。
ついでに面白そうなので便乗しておくことにする。
「そうだよね~人間辞めたオカマにリーダーをさせる訳ないよね? 最上位職さん?」
「え? は?」
「じゃこの世界でのリーダーはたけぞーと言うことで」
「意義な~し」
ここに多数決という名の数の暴力が執行された。
「え、あ……うん」
武さんも勢いに押される感じで了承してしまう。まぁオカマ云々は置いておいて、ナイトが主役でいいと思うよ。
その後納得がいかない感じの武さんを放置し、宴会は進んでいった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
不貞腐れた武さんの機嫌がなおった頃、大神さんがまた口を開いた。
「そう言えば忘れていましたが、魔王はまだのようですよ」
「「「はい?」」」
え? 何この人『そのゲームはまだ出ませんよ』的なニュアンスで言ってるの?
あまりにも簡単に言うものなので頭がついていかない。
「魔王なんて城で威張っているものじゃないのか?」
いち早く立ち直った武さんが大神さんに質問するが、大きなため息しか返ってこなかった。
「どこのRPGの話しですか?」
お前が言うな! と思ったが、ここは大神さんに説明してもらおう。本来の担当者は僕の横でぐでんぐでんに酔っているから。
「では少し説明しましょう。この世界の魔王とは簡単に言ってしまえば……バグです」
「「「バグ?」」」
火を起こしたり水を出したり、この世界で普通に使われている魔法。万能の力は生活に根付き、なくてはならないものになっている。
ではこの魔法はどのような原理で発動しているのか。僕達が答えられたのは魔力があるからといたって普通なモノだった。
「ではその魔力って何だと思いますか? はい、和泉様」
いきなり指名されると焦ってしまう。
「うぇ? え~と……不思議な力?」
「「いずんちゅぇ……」」
そんな顔するなら自分たちが答えればいいじゃない!!
武さん達を睨み付けていると、大神さんが拍手をくれた。
「いや~実に和泉様らしい答えですよ」
それは誉めているのかな? あまり釈然としないがとりあえず、話しを聞くことにする。
その“不思議な力”は使えば使うほど世界に“歪み”を生むのだという。まぁ何もない所に火を出したり、水を出したりする事を考えればわからない話しでもないか。
一回一回は大した歪みではないが世界中の人間が使い続ければやがては大きな歪みとなる。そこでこの世界を作った神々は歪みを一ヶ所に集め『魔王』というバグを作り、『勇者』というワクチンで退治しようと考えたそうだ。
「今まではうまくいっていたんですよ? コレが余計なことをしなければ」
大神さんは笑顔でへべれけ状態の神崎さんを叩き始めた。それほどまでにストレスが溜まっていたのだろうか。
「あろうことか倒され続ける魔王が“かわいそう”と言い出しましてね」
大神さんはため息混じりに説明を続けた。どうやら神崎さんは生まれては殺される魔王に同情し、今回の魔王に少し手を加えたそうだ。それも強化の方向に。
「ただでさえ勇者の取得に失敗していると言うのに……まったく上司として恥ずかしいばかりですよ」
大神さんは眉間にシワを寄せながら神崎さんを殴り続けた。それにしても結構な強さで殴られているのに一向に起きない神崎さんも凄いな。
「まぁそんなことでまだ魔王の情報がつかめないのです。見つけ次第直ぐに連絡をいれますので皆様はこの街で待機しておいてください」
大神さんは頭を下げながら締め括った。
この街で待機か……まぁ不自由はないかな。
「それだと色々と準備しないといけないな」
「オレは宿舎があるから大丈夫だけどな」
「僕はどうしようかな……ずっと宿屋にいるわけにはいかないし」
どうやら武さんは騎士の宿舎を借りているようで既にすむ場所は確保しているようだ。となると残りは僕と陽向だけど……。
「あ、いたいた。ほらエリー、まだここに居たよ~」
考え込んでいると入り口から聞きなれた声が聞こえてきた。顔を向けるとそこにはロレッタとエリスリナが立っていた。
「ママー!」
「「ママぁ?」」
勢いよく飛び込んできたエリスリナを抱き止めると二人から揃って変な声が出る。
「ごめんね、アガサさんの所でちょっとイズミの話しをしたら会いたいって言い出して……」
遅れて僕の横についたロレッタが申し訳なさそうな顔で謝ってくれる。
「ロレッタのせいじゃないから気にしないで。エリーもごめんね、寂しかった?」
口を開き固まっている二人を放置してエリスリナとロレッタと話し続ける。今この二人に比べれば武さん達なんて道に落ちている石ころも同然だ。
「イズミ、この人達は?」
しばらく話していると視線に気がついたのロレッタが耳打ちしてくる。今まで普通に話していたのだからそのまま無視してても問題ないんだけどね。
「ああ、こっちの場違いな鎧を着ている方が涼、そんでこっちの暗殺者風が陽向。僕の友達で同じ故郷なんだ。二人ともこちらはロレッタ、僕のプリーストの修行に付き合ってくれた先輩だよ」
指差しながら紹介すると武さんはぎこちない動きで頭を下げ、陽向は頭を下げた格好だけした。
「あら? そちらの、えっと……ヒナタさん? は一度協会で会いましたよね?」
お互いの自己紹介が終わるとロレッタは陽向の顔を見るとそんなことを言い出した。そういえばモンクのJobを取得するときに協会へ行った様な話しを聞いたな。
「……ああ、あの時の……少しの間だったが世話になった」
陽向は素直に頭を下げるた。一体何をやったのだろう? 気になるが、たぶん教えてくれないだろうな。
「それよりもだ。和泉さん、その子は?」
武さんは先程から僕の膝の上でおつまみを食べているエリスリナを指差していた。
「この子? 僕の娘」
「「やっぱり」」
渾身のボケだったのだが、二人は疑う素振りも見せずに納得してしまった。
「まさかロリコンが高じて本当に娘を産むなんてな」
「変態も極めればここまでいくのかぁ」
言いたい放題言ってくれる。
とりあえず二人には養女だと伝えておいた。元の世界へ戻ったとき有ること無いこと言われても困るし。
「幼女の養女とか……」
「和泉さん、笑えないわ~」
「笑かす為に引き取った訳じゃないからね!?」
何でこう変な方へ持っていこうとするかなぁ……。僕はため息混じりにエリスリナの口元をハンドタオルで拭ってあげる。この子はこの子で話しを聞いているやらいないやら……。
その後、全員で食事をしながら今後の事について話し合いが行われた。
大神さんと神崎さんは引き続き魔王の調査を行い、反応があれば直ぐに知らせてくれる手筈となった。
「さて、後は住む場所だが……」
陽向がそこで言葉を区切り、僕達を見回す。
「いずんちゅはどうせ女と暮らすんだろう」
どうせとか言いやがりましたよ、この人。まぁ否定出来ないけどね!!
「オレは宿舎があるから」
「「さっき聞いたからいい」」
「ちきしょい!」
武さんの申告に陽向と声がハモる。そのせいで武さんがやけ酒を仰いでいるが、知ったこっちゃない。
「とりあえず和泉様と陽向様は家探しですね」
何処までも冷静に大神さんがまとめてしまった。ますます武さんがいたたまれない。
そんな武さんに声をかけようとしたところで玄関のドアが勢いよく開けられる。あまりの勢いにその場に居た全員が喋るのを止め、振り向いた程だ。入ってきたのは騎士の格好をした若い男だった。醸し出す雰囲気がイケメン臭を放っており、一目で敵だとわかる。
ギルドに居る全員の視線が集まるなか、入店した当の本人はまったく気にする素振りを見せずに辺りを見回して大声で話し始める。
「この場にイズミ、リョウ、ヒナタと言う名の冒険者は居るか!!」
あらやだ、どうやらあのKYボーイは僕達をお探しのようだ。
「たけぞー関連だろう。何とかしろ」
「あれは正規の騎士隊の制服だ。オレとは関係ない。それよりも最初に名前を呼ばれた和泉さんじゃないのか? 何やった?」
「失礼な、陽向が変な薬をばらまいたんでしょ?」
三人が互いに責任を押し付け合う。まったく成長が見られない。
三人であれやこれやと騒いでいるとKYボーイがこちらに振り向いた。
「貴様らがイズミ、リョウ、ヒナタの三人だな? この俺が声をかけたんだ、直ぐに返事をしろ。愚図が」
何コイツ、陽向並みに口が悪いよ。
反感を覚えたのは僕だけではなく、武さんと陽向もこのKYボーイを睨み付ける。
「ふんっ不服そうだな。まぁお前らの事なんぞどうでもいい。姫様がお呼びださっさと来ないか」
言う事だけ言うとKYボーイはそのままギルドを出て行ってしまった。どうやら僕達を待つという事は考えていないようだ。
傲慢な奴に従うのは癪だが、ノンナが呼んでいると言うのなら話しは別だ。僕達は会計を済ませるとお城へ向かう為にギルドを後にした。




