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45話 VS DQN

 カンシュザーキ教会の訓練用グラウンドでの魔王軍との戦闘も、今は睨み合いが続いている。


 街の守護隊を率いるリーダーのヒューゴは相手の雰囲気に圧されているのか、自慢の巨大な片手斧を手にしているが一歩が踏み出せない様だ。

 対する魔王軍の右腕の部下と言う何とも微妙な立場の魔族であるDQNは今も僕達を威嚇する様に荒ぶる御大将のポーズをとっている。全裸で。

 いや、何を言っているかわからないと思うけど、実際に目の前で起きているのだからしょうがない。僕の補助魔法で強化されたヒューゴの一撃はボロボロだったDQNの衣類を吹き飛ばした。そう、衣類をだ。そして体には傷一つ無いのが不思議過ぎる。ヒューゴに脱衣のスキルがついているとしか思えない。


「くっくっくっ……」


 睨み合いが続く中、不意にDQNが笑い始めた。


「何が可笑しい!!」


 ヒューゴはDQNに斧を突き付け怒鳴り返す。


「いや何……この状況が楽しくてな……」


「全裸でいることが!?」


「違うわ! 戯け者め!!」


 普通に怒られてしまった。全裸の男にガチで怒られるとか……死にたい……。


「これ程までに我をたぎらせたのは貴様らが初めてよ……感謝するぞ!!」


 DQNから発せられる威圧感が今まで以上に強くなった。纏っている魔力も色を増している気がする。


「真っ裸でたぎるとか……変態じゃん」


 ポーズを決めたまま高笑いする姿を見ているとふとそんな言葉が口から出てしまう。しかし、この状況なら仕方ないことだ……だよね?


「貴様は! 裸体にしか興味が無いのか!?」


 地獄耳なのかDQNが再度ツッコミを入れてくる。そんなに律儀にしなくても良いのにね。


「そうか、わかったぞ。貴様、発情しておるな?」


「はぁ? 何言ってるのさ」


 DQNが何やら訳のわからない事を言い出した。そりゃ人間だもの年中発情期だけれども、残念ながら男に発情する回路は僕には搭載されていない。


「フハハハ、そう照れるで無い。貴様さえその気なら其奴を殺してからじっくりと遊んでやっても良いぞ?」


 DQNは未だに動けずにいるヒューゴを一瞥すると、いやらしい顔を向けてきた。


「誰があんたなんかと! それに冗談は股間のモノだけにしてよね!!」


 今でも隠すことなくフルオープンに晒されているオンブルの息子を指差す。彼のは遠目で見ても小さく、そして重厚に守られていた。何にとは言わないけど。


「ねぇヒューゴさん。オンブルって何歳?」


「何でそんな事を聞くんだ? 後、俺の事は呼び捨てで構わないぞ」


 僕の質問の意図がわからないのかヒューゴは首を傾げる。まぁ別に意図も何も無いんだけどね。


「いいから、教えて」


「? オンブルは確か今年で三十歳だったはずだが?」


 やっぱり、思った通りだ。三十歳で魔法使いと来れば……。


「お前DQNのくせにDTだな!!」


 僕は指を指し誇らしげに宣言する。が、グラウンドの空気はまたもや凍りついた。


「イズミ、なぜ三十歳で魔法使いだと、その……女性とのそういった行為が無い男性になるのだ?」


 ヒューゴは頭の上に目に見えない『はてな』が浮かんでいるような顔で質問してきた。


「え、だって魔法使いになる定義ってそれでしょ? ねぇ?」


 自分がウィザードのJobを得たのを棚にあげ、元いた世界の常識? を言ってみる。そして同意を得ようと後ろを振り返りロレッタにも質問をするが。


「知らないわよ!」


 ロレッタは顔を赤らめて怒鳴り返してくる。

 あれぇ? これって常識じゃないの?

 でもしっかりとエリスリナの耳を押さえている辺り聖職者なんだぁと思う。


「ふん、まぁいいや。DTなんてお断りだよ!」


 って言うか男とお付き合いする気は全く無いんだけどね。


「嫌よ嫌よもと言うからな、貴様この体に惚れたな?」


 一瞬DQNが何を言っているのかわからなかった。しかし、奴が言った意味を理解すると同時にプツンと頭の中で何かが切れる音が聞こえた気がした。


「《ブレス》……《アクセル》……《サンクチュアリ》」


 僕の言葉に合わせて足元へ三重の魔方陣が形成される。《ブレス》は基礎力上昇、《アクセル》は速度上昇の補助魔法で《サンクチュアリ》は設置型の回復魔法である。


「ぬぅ……!」


 魔方陣から発せられる聖属性の魔力の気圧されたのかDQNからは緊張した声が漏れる。


「イズミ……?」


 真横にいるヒューゴからも声をかけられるが、今は印を組むので忙しいから無視させてもらう。


「させぬぞ!!」


 発動するモノがヤバイと感じたのか、DQNが魔法で妨害してくる。墨汁を流し込んだ様に真っ黒な珠が何個も手元に浮かぶと一斉に円錐形へと変化し僕に向かって飛んで来る。


「吽形」


「ワン!」


 たった一言名前を呼んだだけで理解してくれた吽形は僕の前に防御壁を作り出す。完全に防ぐことは出来ず最後の珠が当たると同時に砕け散るがこちらにダメージが無ければ問題ない。


「ふざけおって……!」


 攻撃を防がれたDQNは次の魔法の詠唱に入るが、それよりも先に僕の魔法が発動する。

 足元の魔方陣が消えると同時に光の幕が僕達を囲む。エリスリナを中心に広がった幕は僕とヒューゴをギリギリ囲む大きさに調整してある。


「小癪な!」


「攻撃よりも防御に専念したら?」


 さらに攻撃を加えようとしたDQNに一声かける。ここで殺しちゃったらヒューゴに悪いしね。


「貴様、その髪……!」


 光の幕に遮られているのにDQNにはの髪が変色したことに気付いた様だ。


「青……いや、紫か?」


 隣にいるヒューゴがボソッと呟いた。

 驚いた。バレない様にうまくやったと思ったけど、ヒューゴにはわかったようだ。


「死ね。水遁・水神弾 弥都波能売神みずはのめかみ


 突き出した右手から放たれた水の龍は真っ直ぐにDQNを目指して飛ぶ。


「ふんっそんな直線的な攻撃なんぞ!」


 DQNは左手を付き出すと自身を覆う様に黒い幕を張る。しかし水の龍はお構い無しとその幕ごと一口で奴を呑み込んでしまう。


「おい……あれは大丈夫なのか?」


 目の前で繰り広げられる光景に心配になったのかヒューゴから声をかけられる。


「さぁ? でも腐っても魔族なんだし、大丈夫なんじゃない?」


 適当に答えつつ次の準備をする。この攻撃をするのは里で吽形の試験を受ける時にやった以来なので少々不安が残るのだが、今はそんなことを言っている場合じゃない。DQNを倒さなければ……。


 僕の気が収まらない!!


 DQNの全身を水龍が囲んだ瞬間を見計らい、左手で準備していた忍術を解放する。


「火遁・炎神弾 火之迦具土神ひのかぐつち!」


 里の時と違い放たれた火の玉は僕の左手を焼きながら水龍に捕らわれているDQN目指して飛んでいく。

 水に包まれている敵に炎の魔法なんて……なんて思っているのだろう。ヒューゴの顔は理解が出来ないと物語っている。しかし僕は知っている。水に非常に高温になった物質をぶつければどうなるのか……その答えは。

 火の玉が水龍に接触した瞬間、耳をつんざく爆音がグラウンド中に響き渡り、大量の水蒸気が視界を奪う。


 水に非常に高温な物質が接触して起こる現象。それは水蒸気爆発だ。

 火山の噴火の原因の一つとされていて、火山大国である日本人なら一回は聞いたことがあるだろう。

 身近なところでは引火した天ぷら油に水をかけると爆発する。

 良い子のみんなは真似しちゃダメだぞ。

 

「うぅ……」


 なんてバカな事を考えて気を紛らわしていたが左手に襲いかかる激痛に耐えきれず、思わず呻き声が漏れてしまう。こうなることを予想して《サンクチュアリ》を発動していたのだが、思ったほど回復量は多くないようだ。


「イズミ? どうしたんだその腕は!!」


 呻き声を聞いたヒューゴが慌てた声をあげる。


「大丈夫。ただのフィードバックだから……」


 問題ないと言い聞かせる様に笑いながら答える。しかしちらりと視界の片隅に映る焼けただれた左手を見ると当分の間は動きそうに無さそうだ。


「直ぐにヒールを……!」


 ヒューゴが回復するように言ってくるが、僕は静かに首を横にふる。


「もう魔力が限界なんだ。一回位は出来そうだけど、その後魔力切れで倒れちゃうよ」


 正直立っているのもツライ状態だ。何回か魔力切れを経験しているけど、中途半端に残すより全部使いきって気絶した方が楽かもしれない。


「やってくれたな、人間共め……」


 爆心地の煙が晴れ始めるとボロボロの状態だが、先ほど以上に怒りと魔力のオーラを漂わしたDQNの姿が現れる。魔法ではなく、自然現象の爆発をモロにくらったというのにまだ生きているなんて……。


「化け物め……」


 ヒューゴがポツリと呟く。もはや仲間の命とか言ってられないだろう。どうやって目の前の敵を倒すか……。今頭にあるのはそれだけだった。


「殺してやる……殺してやるぞ! 忌々しいゴミ共め!!」


 相当頭にきているのかDQNの口調までも変わりつつある。右手の中指を立ててこちらを挑発してくる姿はなんと言うか……小物感が半端ない。さすが魔王の右腕の部下!

 ある意味感心して見ていたのだが、急に違和感を覚える。DQNの右手首に装着されたブレスレットが太陽の光を反射している。着ていたものも無くなり真っ裸の状態なのに何故右手首のブレスレットだけが無傷なのか……。これはやってみる価値があるかもしれない。


「ヒューゴ。一分……いや、三十秒だけDQNの注意を引き付けられる?」


「それは出来なくもないが……策があるのか?」


 質問をしてきたヒューゴに笑いかける。しばらく見つめ合うとふっとヒューゴの顔から笑顔がもれる。


「正直、俺にはオンブルの奴を生きたまま助ける策がない。ここはイズミに賭けてみよう」


「失敗するかもよ?」


「その時はその時だ。それに俺は仲間を殺る覚悟は出来てるさ」


 やだ、この髭面格好いいじゃんない。ならこっちも覚悟を決めようかね~。

 アイテム欄から一つの丸薬を取り出す。久しぶりに使う里の秘薬だ。


「それは?」


「元気になるお薬。反動が大きいからあんまし使いたく無いけど……」


 丸薬の見た目は黒真珠は思わせる光沢のある黒色で、大きさはチョコ◯ールより少し大きい位。味は……丸薬、秘薬と呼ばれる類いのモノだ、察してほしい……。

 意を決して丸薬を口に含むと一思いに飲み込む。喉を大きなものが通る感覚の直後、腰から力が抜けその場に座り込んでしまう。


「イズミ!?」


「ふん、貴様の魔力も限界だったようだな」


 ヒューゴとDQNから同時に声がかかる。まぁ片方の嘲るような声だったけど。


「大丈夫。それよりこのまま聞いて」


 DQNが思いの外油断している。この好機を逃す手はない。僕はヒューゴの手を取るとそのまま支援魔法をかけていく。手を通して直接流し込むイメージだ。


「後数秒で《サンクチュアリ》の効果がきれるから、その後奴の注意を引き付けてくれる?」


「それはいいが、この魔法は……?」


 ヒューゴは左手を握ったり開いたりして感触を確かめている。


「だから、元気になるお薬って言ったじゃん。そろそろ消えるよ」


 僕達を囲んでいた光の幕が水に溶けるように消えていく。さぁ最後の一仕事だよ。


「うぉおおおおおおお!!」


 完全に幕が消えるのを待ってからヒューゴが雄叫びをあげながらDQNに突っ込んでいく。後から聞いたのだが、この雄叫びも戦士系Jobの歴としたスキルなのだと。


 ヒューゴは見事にDQNの注意を引き付けてくれている。僕は座り込んだ姿勢のまま自分の影に潜っていく。正直チャンスは一度だけだと思っている。


 影の中を右手首が狙いやすい場所へ移動する。現状はヒューゴがDQNを圧倒している。まぁ戦士系でがっちり鍛えているヒューゴが、ヒョロヒョロのDQNに遅れをとるとは考えられない。

 なら圧されているDQNが形勢をひっくり返すにはどうするのか、答えは……。


 影の外を見るとヒューゴに良いようにやられていたDQNが魔法を使う為に右手を・・・突き出していた。


 ここだ!

 僕はDQNの魔法が発動するよりも前にヒューゴの影から飛び出すと、狙っていたブレスレットを切り落とす。


「イズミ!?」

「バカな!?」


 驚きの声が二つ聞こえるが気にしない。

 DQNの驚きによって集中力が途切れたのか発動前の魔法はそのまま霧散した。


「くそっ! 何故気付いた!!」


「真っ裸のくせにブレスレットだけ無傷って不自然じゃない?」


 僕は笑顔にウィンクまで付けて言ってやった。


「我はダーク・キュア・ナイトであるぞ! こんなことで死ぬ訳には……!」


「往生際が悪いね~さっさと逝け!」


 僕は地面に落ちたブレスレットを盛大に踏みしめた。


「…………!!」


 単なるモヤと化したDQNの最後の声は届かなかった。十中八九怨み言だろうけどね。

 こうして僕は魔王の手下の手下に勝利した。

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