44話 VS ダーク・キュア・ナイト
まさか今まですっかり忘れていた魔王の手下の手下が出てくるなんて……。
「くそっまさかダーク・キュア・ナイトが現れるなんてな」
「知ってるのか、ライデン!」
僕と同じ事を呟いたヒューゴ合わせてボケてみたがきょとんとされるだけだった。鉄板ネタだと思っていたのだが、異世界では通じないらしい……。
「ライデンと言うのはわからないが、奴は魔王の右腕と評されるグランドシャドーの手下だ。ああやって他人の体を使って攻撃してくる嫌な奴だよ」
ヒューゴは困惑しながらも丁寧に教えてくれる。ただ、斧を振り上げた格好で鎖に縛られているのが残念でならない。って鎖を解いてあげれば良いだけか。こいつはうっかりだったね(テヘペロ)。
「おい、ちょっと待て」
ヒューゴと話しているとダーク・キュア・ナイトから攻撃ではなく言葉が投げ掛けられた。それもひどく驚いている様な声だ。
「最初に我を攻撃した黒髪の少女よ、貴様だ」
「僕?」
どうやら敵さんは、僕と話したい様だ。僕は話すことなんて何もないのだけどなぁ?
「貴様……我が魔王軍の者だと知っていて攻撃したのではないのか? 先程我が名乗ったとき他の奴等と一緒に、いやそれ以上に驚いておった気がしたのだが……」
グラウンドの音という音が消えた……気がした。
「そ……そんなことないし! 知ってたし!! お前の気のせいじゃないの!?」
慌てて取り繕った感が半端なく出てしまったけど何とか誤魔化せれたと思う。……多分。
「イズミぇ……」
「ご主人様……」
「主よ……」
ダメだった!! 背中に刺さる仲間からの視線が痛い! てか阿形は何時の間に後ろにいるんだい?
「そうよな、戦い前に変な事を聞いた。すまなかった」
誤魔化せてるよー!! マジか? 魔王軍、頭悪いんじゃないの!?
背中からダラダラと冷や汗をかいていたが、何とか一番誤魔化さなければならない奴が騙されたようで一安心だ。
「我に放った魔法はどれも即死性の高い魔法だったのでな、普通の人間なら死んでおったぞ。まぁまさか勇者と呼ばれる者が一人の人間を攻撃する為だけにあれほど強力な魔法を放つ訳が無いとは思うが……。もしそうだとしたら頭が狂ってるとしか言い様が……貴様何故膝をついているのだ?」
さすが魔王軍だね。精神的なダメージで追い込んでくるなんて……。
敵の口から放たれた言葉は鋭利な刃物となって僕の心をこれでもかと攻撃してきた。
知っていますか? 言葉の暴力は傷が見えづらいだけに性質が悪いんですよ。
「なにさ! 魔王軍のくせに“キュア”とか言っちゃってさ!! 何を癒してくれるって言うのさ!」
両目から垂れ流しになっているしょっぱい水を無視してダーク・キュア・ナイトを指差す。
決して泣いている訳じゃないんだからね!
「いや、そこは“癒す”と言う意味のキュアではなく“奇妙な”とか“怪しい”とかのキュアではないか?」
鎖に縛られているヒューゴがとても残念なものを見る目で優しく話しかけてきた。
「『Cuer』 じゃなくて『Queer』の方か……。紛らわしい言葉を使うんじゃないよ!!」
だいたいそんな単語一般的に出てこないでしょうよ! ……たぶんだけど……。
「大体、ナイトなら騎士らしく正々堂々と戦いなさいよ!!」
「イズミ、あのね。その“ナイト”も『騎士』のナイトじゃなくて、『夜』のナイトじゃないかしら?」
ロレッタが申し訳なさそうに訂正をしてくる。
「あのね、想像なんだけどね。姿が見えないって言う特徴から『騎士』って言うよりは『夜』って方が合っていると思うの」
「そうだな。我の名のナイトは確かに“夜”を意味している」
ロレッタの説明を裏付けるように本人が肯定してしまった。
なんだよ……『dark」で「Queer」な「night」って……。
ん? DarkでQueerなNight? 頭文字をとるとD……Q……N……。
「DQNじゃないのさ!!」
「DQ……! 人様の名前を勝手に略すな!」
DQNが何か言っているようだが、ここは無視だ。散々恥ずかしい目に合わせてくれちゃって……これだからDQNは嫌いなんだ!
「集え! 地獄に在りし罪人を裁く業火よ!」
僕の言葉と同時に右手に魔力が集まり、そのままバスケットボールぐらいの炎の球へと変化していく。
DQNは僕が発現させた炎を見ると嫌らしい笑みを浮かべると、わざと両手を広げ挑発をしてきた。
「この体は貴様らの仲間のものだ。それでもこうg……」
「焼き尽くせ!ヘルフレイム!」
DQNが言い終わる前に右手を付きだし魔法を発動させる。発射された炎の球は真っ直ぐにDQNへと飛び……。
着弾、爆発。
「うぉい! 何普通に魔法を撃っているのだ!?」
熱風が頬を叩く中ヒューゴが焦った感じで言葉を投げ掛けてくる。何故撃ったのかと言われてもなぁ。
「敵は殲滅しなきゃでしょ?」
「あの体は俺の仲間だと言っていたではないか!」
ヒューゴの悲痛な叫び声に僕は言葉を失った。
………………(ポク)
…………(ポク)
……(ポク)
(チーン)
「…………てへ」
適切な言い訳が見つからなかったので、とりあえず本日二度目のテヘペロをしておいた。これで大丈夫だろう。
「うをぉい!!」
これまたダメだったようだ。だって頭にきたんだものしょうがないと思わない? でも尊い一人の犠牲で魔王軍を退治できたのだから結果オーライだよ。
「ハァハァ。魔族である我の魔力をこれほどまで削るとは……貴様本当に人間か!?」
砂煙がなくなり視界がよくなった場所にボロボロのローブに身を包んだDQNの姿が現れた。
あ、こっちもダメだった。もう空気読んでよね~。じゃ次の魔法を……。
「待ってくれ! 俺にも戦わせてくれ!」
今度は左手に魔力を溜めているとヒューゴが今までで一番真剣な眼差しでこちらを見ていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
あまりにも突然な申し出に僕は数回瞬きをしてしまった。
何言っているの? 自分で自分のパーティメンバーを討伐しようっての?
思わず口から出そうになった言葉は彼の目を見た瞬間口から出ることは無く、ため息へと変わっていた。それほどまでに彼の目は『仲間を助けたい』その一言に尽きていた。
「仲間だったんでしょ? 攻撃できるの?」
「覚悟は出来ている」
「うまく倒せても、手遅れかもしれないんだよ?」
「ならせめて俺の手で殺らせてほしい」
「……何故そこまでこだわるの?」
「それは俺がリーダーだからだ」
ヒューゴは僕の問いかけに全て僕の目を見て返してきた。彼の決意はそこまで固いのだろう。
横目でDQNの様子を見ると未だにダメージから回復しきれていないようだ。
「はぁ……しょうながいな、もう」
再度ため息をつきつつ、右手で咲耶を抜くと横一文字に振るう。すると寸分たがわずにヒューゴを拘束していた全ての鎖を断ち切った。
「これは……」
「別に、ヒューゴの気持ちに折れた訳じゃないもん。僕が人殺しにならなくてすむからだもん」
恥ずかしいと言うかなんと言うか……言葉に出来ない感情が渦巻き何故かヒューゴの顔を見ることが出来ない。
それにしてもなにか忘れているような……。
「すまない。恩に着るぞ、少女よ」
「……和泉」
思いの外ぶっきらぼうな言葉が口からこぼれた。ヒューゴは言葉の意味がわからないのか首を傾げている。
「僕の名前。いつまでもそれじゃ呼びづらいでしょ?」
僕はDQNの方を見ながら先程の言葉の意味を説明する。って言うか、今までロレッタが散々呼んでたじゃん。察してよね。
「そうか……そうだな。これから一緒に戦うのだ、名前は大事……ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!!」
突然横から発せられた叫び声に二人を包んでいた心地よい雰囲気が霧散した。そしてその叫び声で忘れていたなにかを思い出した。
そうだ、プリズンチェーンには追加効果があったんだ!
【プリズンチェーン:闇魔法の一種。闇の力で作られた鎖が対象者の動きを封じる。術者が解除する以外の方法で鎖を外すと対象者に闇属性のダメージを与える】
無惨にも膝から崩れ落ちるヒューゴを慌てて抱き止めようとするが、いかせん体格が違いすぎる。
それでもこれ以上ダメージを与えないようにゆっくりと地面に寝かすと治療を開始する。
「ヒール! まだ? ヒール!! まだダメなの!? エクストラヒール!!」
「……貴様ら本当に仲間なのか?」
DQNは呆れたのかため息混じりに質問を投げ掛けてくる。
「っさい! 治療の邪魔すんな!!」
右手でヒューゴを治療しつつ左手で雷の忍術を使う。左手より放たれた雷は龍の姿になるとDQN をめがけ飛んでいく。
「ぬおぉぉぉ!! またかーー!!」
先程のダメージからまだ立ち上がれていないDQNであったが、こちらの攻撃を防いでいる。腐っても魔王軍と言ったところか。
「ぐっ……一体何が……」
治療のかいあってかヒューゴが目を覚ました。
「よかった……本当によかった……」
僕の口から自然と言葉が漏れた。
本当によかった。殺人犯、しかも仲間になった瞬間を狙い不意討ちで殺したなんて絶対に世間様から後ろ指を指されちゃうよ!
「心配をかけてしまったようだな。それにしても不意討ちを狙ってくるとは……なんて卑怯な奴だ!」
「ソウデスネ……ユルセナイデスネ……」
この事は墓場まで持っていこう。
僕は全力でそう心に決めた。
「聞け、ダーク・キュア・ナイト! 貴様の様な卑怯な奴は必ず俺の手で葬ってやる!」
ヒューゴが片手斧をDQNに向け格好よく宣言する。そんなヒューゴの姿を見て奴は何故か首をかしげた。
「確かに我は今まで様々な手段を用いて来た。しかし、今の攻撃は我ではなく……!?」
「サイレント!!」
DQNの台詞を遮るように詠唱妨害の魔法をかける。一定時間魔法を使えなくする魔法だが、副作用で声もでなくなる。奴に本当の事を言われるわけにはいかないのだ。
「サポートは僕に任せて、ヒューゴは戦闘に集中して!」
僕はヒューゴに覚えている補助魔法を片っ端からかけていく。サポートと言ってもよくわからないので取り合えず向こうでやっていたMMORPGでの支援と同じ事をやってみたかたちだ。
あんまし支援職ってやったことないけど。
「……!…………!!」
DQNがなにか言っているようだが、サイレントの魔法効果がまだ切れない為さっぱりわからない。
「今楽にしてやるからな……オンブル……」
ヒューゴは俯き小さく呟くとDQN目掛けて距離を詰めていく。雄叫びにしか聞こえない声を発しながら走っていく姿は映画のワンシーンのようだ。それにしても移動速度上昇の補助魔法をかけているとはいえ金属製の鎧を着込んでよくあれだけの速度が出せるものだと関心してしまう。
猛スピードで駆けていくヒューゴの右手に握られた片手斧がまた金色の輝きを放ち始める。
「さっきは不発だったが、今度は決めさせてもらうぜ! ゴールデンスラッシュ!!」
ヒューゴが斧を降り下ろすとその軌跡を追うように金色をした三日月形の衝撃波がDQN目掛けて飛んでいく。
「衝撃波とか初めて見た……すげー」
さっきまで散々魔法をぶっぱなしていた自分を棚にあげ素直に感動している。
「…………ぉぉおおお!!」
迫り来る三日月を前にDQNの口から雄叫びが発せられる。どうやらサイレントの魔法がきれた様だ。説明ではもう少し効き目が長かったと思ったけど、魔族には効力が弱まるのかもしれない。
そんなことを考えているとヒューゴが放った金色の衝撃波がDQNに直撃した。距離も近かったし、第一体の持ち主であるオンブルが魔法使いと言うこともあり回避は難しかっただろう。
「やったか!?」
「あちゃーそれはダメだよ……」
勝利を確信したヒューゴが土煙をあげる地点を見て大声を出すが、それは失敗フラグにしか聞こえない。僕は気を抜かず土煙を睨み付ける。
「やってくれたな……人間めが!!」
案の定土煙の中からDQNの声が聞こえる。しかもかなりお怒りの様子だ。
「許さんぞ! 貴様達は八つ裂きにして魔王様への供物にしてくれる!!」
土煙が晴れたそこには怒りと魔力の黒いオーラを纏ったDQNの姿が現れた。
両腕にはめたブレスレット以外何も身につけて居ない格好で……。
「って裸じゃないのさ!!」
魔法使いらしく鍛え抜かれていない貧弱ボディを大衆に晒しながらも、堂々と立つその姿は歴戦の戦士を彷彿とさせる。
「隠せよ!」
「ふんっ所詮は借り物の体。別に恥ずかしくも何ともないわ!!」
なんだその“パンツじゃないから恥ずかしくないもん”的な発言は!
お前の気持ちの問題じゃないんだよ! 周りで見ている方がキツイんだよ!!
心の底から沸々と沸き上がる怒りを抑えようともせず、全てを目に込めて睨み付けてやる。
「先ほどよりいい目になったではないか……では、死合おうか!」
全裸のDQNは楽しそうに言い放つと、荒ぶる御大将のポーズをとった。なぜそのポーズをとるのかは不明だが、全裸と合わさり言い表せれない雰囲気を醸し出している。
「気を付けろよイズミ……今の奴はただ者じゃないぞ」
DQNの迫力に気圧されたのか、気付けばヒューゴが隣に立っていた。
かなりシリアスな雰囲気を出しているところ悪いのだが、相手は全裸でポージングしているDQNだ。何て言うか……文字にするとなんかイヤだね。
二人が睨み合いを続けるなか先ほどの怒りが霧散してしまった僕がいた。




