43話 闇堕ち
爆発と同時に巻き起こった土煙で爆心地の様子は未だにわからない。彼処にはさっきまで話していた少女がいるはずだ。
俺は何も出来なかった。気が付いたときには横を特大の火の玉が通りすぎていた。確かあれはオンブルが得意としている火属性の中級魔法だったはず……。
「何をやっているんだオンブル!!」
魔法を放った張本人であるオンブルに掴みかかるが当の本人は何処吹く風といった感じだ。
「何って命令通りにドラゴンを討伐しただけだぜ?」
「彼らにはギルドの証明書があった。まだ話し合う余地はあったはずだ!」
「おいおいリーダーしっかりしてくれよ。こんな場所にドラゴンを隠して飼っているような連中だぜ? その証明書も偽物に決まっているだろう」
オンブルはそう言うと俺の手を振りほどき爆心地へと歩いて行ってしまった。
オンブルの奴……露店で買ったブレスレットを着けてから人が変わってしまった様だ……。
「さ~てと逝ったかな~」
「相手はレッドドラゴンだ。この程度の魔法では傷もつくまい」
「ちげ~ね~」
オンブルに合わせてセオドアの奴まで近付いて行ってしまう。
「全く俺のパーティはどうなってしまったんだ」
そう呟いた時だった。目の前の土煙が消えると同時に強烈な殺気が発せられると、何かが俺の横を通りすぎていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
やってくれたね……まさかリーダーが囮となってその隙に魔法を撃ってくるなんて……。
とりあえず僕たちを守ってくれた子にお礼を言わないとね。
「ありがと吽形、助かったよ」
「間に合って良かったです。お怪我はありませんか? ご主人……様?」
吽形の言葉に頷きで返す。
さてと、次は腕の中の子達を確認しないとね。
「エリスリナ、大丈夫?」
「うん、だいじょうぶ」
エリスリナの頭を軽く撫で、次に一緒に抱き寄せたロレッタに注意を向ける。
「ロレッタは? 怪我してない?」
「ええ、大丈夫よ……ってイズミ、どうしちゃったの!?」
ロレッタが何かに驚いているようだけど、後回しだ。二人が無事が確認出来ればそれでよし。
さてと……次はあっちかな。
僕は右手に魔力を集めると、こちらに向かってのこのこと歩いてくる奴に向かって魔法をぶつける事にするとしよう。
「吹き飛ばせ“禍津風”」
さぁお仕置きの時間だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
僕が放った風の魔法は安易に近付いて来たオンブルと呼ばれた魔法使いを土煙と一緒に吹き飛ばした。
「オンブル!!」
髭面の男が飛んでいった仲間に声をかけている。腐ってもパーティのリーダーと言ったところか。
まぁこれからフルボッコにする人の事とかどうでもいいや。
「貴様! よくもオンブルを!!」
声のした方を向くと几帳面そうな細身の男がレイピアを抜いていた。
「武器を手にしたって事は……覚悟は出来ているんだよね?」
降りかかる火の粉は払わなきゃいけないよね?
僕はアイテム欄から二本の脇差しを取り出して構える。最近久しく出番の無かった咲耶と磐長だ。
「ほう、オレを相手に剣で挑むか……髪と服の色が変わる奇妙な奴だと思っていたが……なかなか面白い!」
レイピアを片手に男が突っ込んでくる。僕は男を視中に納めたまま右手の咲耶を地面に突き刺した。
「もらった!」
「闇口・鰐魚」
男の叫び声と僕の呟きが重なる。男のレイピアが僕の喉を貫こうと迫るなか、男の足元で異変が起きる。男の影が盛り上がったと思ったら文字通り鰐の顎を彷彿とさせる姿となりそのまま男を呑み込んでしまった。
「セオドア!!」
少し後ろから髭面の叫び声が響く。だがその声に応えるものはなく、主を失ったレイピアだけがただ地面に突き刺さった。
「相手の土俵で勝負するバカが何処に居るんだろうねぇ」
僕は呟きながら改めて自分の姿を確認する。闇属性が活性化しているため髪の毛が黒色に変色している事はわかるけど、セオドアと呼ばれた細身の男が“服の色”も変わったと言ったからだ。
教会の制服であることには代わり無いが色が真っ黒になっている。
そうか、それでロレッタも吽形も驚いていたのか。漏れた魔力が多すぎたかな?
僕は制服を気にしながらも地面に突き刺さったセオドアのレイピアに向けて左右の手を振るった。咲耶と磐長は何の抵抗を感じる事なく装飾を施した柄と刀身を切り裂く。
「持ち主もいなくなったし、あるだけ邪魔でしょ?」
「貴様ーー!!」
壊れたレイピアを蹴り飛ばすと、髭面が鬼の形相で突っ込んできた。ご丁寧に片手斧まで振り上げている。正面から見るとちょっとビビるね。
「何さ、そっちが真っ先にしかも不意討ちに近い形で攻撃してきたのに自分達がやられるのは気に入らないって事?」
男が距離をつめる前に闇傀儡で作った人形を間に入れ突進を防ぐ。そして髭面と影人形の壮絶な撃ち合いが始まった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「くっ……」
影人形を相手にしている髭面から苦悶の声があがる。相手は実体の無い影人形だ、いくら髭面の攻撃が強烈でも一撃で影人形を倒さない限り何度でも再生するように作ってある。
「カミラ、回復を!」
「させると思う?」
さすがに髭面も疲れてきたのか、カミラへ回復要請をする。が、そんなことを許してあげるほど僕は優しくはない。
「阿形! あのプリーストを押さえて」
僕の呼び掛けに白い狛犬が飛び出しカミラを押し倒した。ちなみに吽形は先ほどからエリスリナとロレッタを背にし髭面を睨み付けている。きっと周辺には強力な結界が張られているだろう。
「主よ、この娘はどうする?」
阿形は前足でカミラの背中を押さえつけている。押さえ付けられたカミラは手足を必死に動かしもがいているが二メートルを越える阿形の前足はびくともしない。
「頭からガブリといこうか?」
「い……いや……助けて! ヒューゴさん!!」
阿形の問い掛けにカミラは涙を流しながら仲間にに助けてを求める。多分“ヒューゴ”と言うのが髭面の名前なんだろう。
それにしても何だかこっちが悪いことをしている気分だね。
「やめなさい、その子には回復魔法を使わせなければそれでいいよ。そうだね……ペロペロまでは許す」
「な……なんだと……ペロペロだと!? 我輩、俄然やる気がみなぎってきたぞーー!」
「キャー! イヤーー!!」
グラウンドにカミラの叫び声が響く。しかし阿形がペロリと頬を舐めるとそのまま気絶してしまった。少女には刺激が強すぎたかな?
「くそっ! カミラまで!! ウオォォォォォ!!」
ヒューゴは気合いを込めた攻撃を放ち、影人形を一撃で切り裂いた。彼はそのままの勢いで僕に斧を降り下ろす。しかし斧は目の前数センチのところでピタリと止まる。
「このっ!」
ヒューゴは何度も何度も繰り返し斧を振るうが全て僕の手前で防がれる。どうやら怒りに狂ったヒューゴでも吽形の結界は壊せれないようだ。
「無駄だと気付かないかな?」
「黙れ!! 仲間の仇!」
ヒューゴは一旦距離を取ると手にした斧に魔力を込め始めた。魔力を込められた斧はだんだんと刀身を輝かせ始める。
「あらやだ、綺麗。でもそんな技が通じるとでも?」
「うるさい! くらえ!!」
相当頭に来ているのか、ヒューゴは僕の言葉に聞く耳を持たず一気に距離を詰めてきた。
「ゴールデン……」
「縛れ“プリズンチェーン”」
ヒューゴが言い終わる前に僕の魔法が発動する。ヒューゴの影から飛び出した四本の黒い鎖はそのまま彼の四肢を絡めとり動きを封じる。
「なんだと! こんな鎖ごときで……!」
ヒューゴは鎖を引きちぎろうと力を込めるが、鎖はびくともしない。
「無駄な努力はやめた方がいいよ。その鎖の強度は僕の魔力に比例しているからね。いくら貴方が力持ちでもそう簡単に切れないよ」
実際に龍族化した僕の魔力は通常の人間の約五倍強にまで膨れ上がっている。そんな鎖を引きちぎれるなんて最早人間ではないだろう。
「くそっプリーストのクセに魔法まで使いやがって、お前は何者だ!」
「あらやだ、こんな可憐な少女を目の前に何者だもないものでしょ?」
「え? 少女?」
「ご主人様……それはちょっと……」
後ろから何やら疑問を含んだ声が聞こえてくるけどここは無視だ。それにしても全員で否定するなんて、酷い仲間達だよ。
「さてと……気を取り直して……」
僕は磐長を逆手に持ち変えると、そのまま印を結び始める。
一つ一つ印を結んでいく度に磐長へチャクラが集まる。集まったチャクラは水へと変化し蛇の様に絡み付いてくる。
「ふっ残念だったな! 俺に水魔法は通じない!!」
磐長に絡まる水の蛇を見てヒューゴは勝ち誇った様に笑う。よく見ると彼の体からは青色のオーラが浮かび上がっている。
なるほど、彼は水属性の魔力を持っている様だ。
「貴方を攻撃する時は風属性を使ってあげるよ」
僕はヒューゴに対して笑顔で答えると、彼の後ろにいる最初に攻撃した魔法使いのオンブルを見据える。ヒューゴも僕が見ている先が何なのか理解したのか慌てた様子で叫び出す。
「待て! あいつはもう戦闘出来る状態じゃない! やるなら俺をやれ!」
「貴方は後でじっくりやってあげる。あ、そうか。ごめんなさい、気が付かなくて」
僕は咲耶を鞘へと戻し、空いた右手を動かし鎖で拘束されているヒューゴを百八十度回転させた。
「リーダーだもんね。仲間の最期くらい見守りたいよね」
僕が微笑みかけると彼は顔を青くし、今まで以上に鎖の拘束から逃れようと暴れ始めた。
「やめろ、悪魔! それでも冒険者か!!」
僕は笑顔のまま近付くとヒューゴの顎を掴み力任せに目を合わした。
「騙し討ち同然に小さい女の子に中級魔法をぶちかますのが冒険者のやり方?」
「それはっ!」
ヒューゴが何か言いかけるが僕は無視して磐長の鋒をオンブルへと向ける。
「じゃあね、バイバイ」
僕は磐長に絡み付いていた蛇を解き放つ。
「やめろーーーー!!」
「喰らい尽くせ。水遁・蛟龍」
ヒューゴの言葉を遮るように磐長から解放された水の蛇はオンブルを飲み込むべく大口を開け一直線に飛んでいく。
しかし、蛟龍の牙がオンブルに届くその瞬間オンブルから黒い霧が吹き出し蛟龍の牙を防いだ。そして水の蛇は文字通り霧散してしまう。
目の前で起こった事態が信じられず僕は言葉を無くした。それはヒューゴも同じ様で先程から暴れるのをやめている。
「くっくっく、我の存在に気付くとは……さすが勇者と言ったところか」
オンブルは喉を鳴らしながら起き上がると僕達を睨み付けながら話しかけてくる。
「いや~先程の風魔法は効いたぞ」
「お……」
「お前はオンブルではないのか?」
僕の声を遮るかたちでヒューゴがオンブル(仮)に問いかける。
いや、いいんだけどね……別に……。
「オンブルに間違い無いぞ。ただ、今は我の体として使わせて貰っているがな!」
オンブル(仮)はそれは愉快そうに答える。
「貴様……!」
僕をほったらかしにして二人だけで会話が続いていく。僕、要らないなら帰っていいかな?
「これほど容易く体を奪えるとは……人間の精神とは脆弱よな」
「もういい! これ以上仲間の声で喋るな!」
オンブル(仮)の挑発にヒューゴはあっさりとのっかり声をあらげる。
でもさいくら格好いい言葉を言っても鎖で縛られているんだよね~。哀れ、ヒューゴ。
「威勢のいいことよ……。そんなに仲間が大切か? ならば我を倒してみせよ! 勇者よ!!」
「言われなくても殺ってやるさ!」
鎖で縛られたヒューゴが怒りを露にしながら答えている。
ヒューゴさんや、もう君が勇者で良いよ。今もオンブルの言葉に普通に返事しちゃっているし。
「ハーハハハ! 実に結構!! ではゆくぞ勇者よ!
我こそは影の魔人『グランド・シャドー』様が一の家臣ダーク・キュア・ナイトである。貴様らを殺す者の名だ、しかと心に刻み込め!!」
「「 なんだって!? 」」
オンブル改めダーク・キュア・ナイトが名乗りをあげると、グラウンドにいたエリスリナを除く全員が声を揃えた。




