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38話 最後のJobは?

 意気込んでドアを開けたはいいけど、食堂にはまだ多くのお客さんが居たので閉店するまで時間を潰す事にした。イルマさんにはこの後話しがあると言って残ってもらっている。

 閉店するまでの間、暇なので僕はエリスリナを連れてお風呂へ行くことにした。特にこれと言ってやる事が無かったと言うのが大きい。


 エリスリナの服を脱がすと真っ白な肌が目にはいる。結構外で修行とかしているのに一向に日焼けする気配がない。まぁこの真っ白な肌も好きだから別にいいけどね。

 エリスリナの服を脱がすと今度は自分の服を脱ぐ。この時エリスリナはある一点を見つめる。そう、僕の相棒だ。そして自分の体と見比べ始める。

 これは、あれか。子供が親にする答えずらい質問の一つか!


「ねぇ何でママは女の人なのにちん〇んがあるの」


 身構えていた僕の斜め上を行く質問がエリスリナの口から放たれた。

 エリスリナの中じゃ僕は女の人だったんだ……そりゃ“ママ”って呼ぶよね……。


「いいかい、エリスリナ。僕は女の人じゃないんだよ。男の人なんだ、だから相棒を持っていても問題ないんだよ」


「ええ~嘘だ~」


 ははは……そんなにきっぱりと否定しないでもいいのに……。

 そりゃね、大神さんに骨格レベルで女の人に近い体型になってしまったけど心は男なんだよ! 心はいつでもタイガーぜよ!!(意味不明)


「でもママはママだからいいや!」


 それでいいのか娘よ! まぁ彼女が良いならいいんだろうな……いつか解ってくれる日は来るかな……無理か。


 お風呂から上がりエリスリナの髪を拭いてあげているところでメリッサが呼びに来てくれた。

 エリスリナを着替えさせてから一階へと下り食堂のドアの前で自然と足が止まってしまう。これから話す内容を考えると手が震えドアノブを握れないのだ。暫くドアの前で躊躇しているとエリスリナがギュッと手を握ってきた。その力強さに思わずエリスリナを見てしまう。彼女はにこっと笑うと僕の手を引っ張るように食堂のドアを開け中へと入って行った。

 まさかこの年で娘に手を引かれるなんてね……。


「やっと来た。遅いわよ!」


 食堂に入るとメリッサが声を掛けてくる。声の方向を向くとパーティーで使った円卓に全員が座って僕を待って居てくれた。ドアの前で躊躇しちゃったからね、大分待たしちゃたかな?


「話しって何かな? イズミちゃん」


 結構待たしてしまったはずなのにイルマさんは気にした様子もなく質問をしてきてくれた。僕は席に座ると一回大きく深呼吸をしてから全員の顔を見ながら話し始めた。


「実はこの街を出ることにしたんだ」


◇◆◇◆◇◆◇◆


 メリッサには一回話してあったけど、改めて友達がラグズランドで待って居る事。街を出て友達に合流すること。そのための試験を今日受けてきた事などを全部説明した。彼女達は僕の話しが終わるまで黙って聞いてくれていた。


「そう……それじゃあの時の学園長はイズミちゃんとの試験で……」


 全部を聞いたイルマさんの第一声だ。そうなんです、僕が学園長をブッ飛ばしました。


「ねぇ……学園はどうするのよ」


 メリッサはずっと下を向いたまま質問をしてきた。


「学園は続けるよ。と言うか校外学習の延長のようなものだよ。年一回のレポート提出と顔出しが決まりだけどね」


「……そう……」


 答えを聞いてもメリッサは顔をあげてくれなかった。どうしていいのかわからずオロオロしているとイルマさんが助け舟を出してくれた。


「イズミちゃんがそう決めたのなら行くべきよ。その為に学園長に挑むなんて無茶もやったんでしょ?」


 まぁそうなるかな。イルマさんはそのまま背中を叩きながら頑張りなと気合を入れてくれた。思えば学園に入る事になってからイルマさんにはお世話になりっぱなしだったような気がする。


「イルマさん今までありがとうございました。まぁマーリンさんにも言いましたけどちょくちょく帰って来る予定なので……」


「イズミはいつもそうやって私の前を歩いて行っちゃうんだ……」


 僕のセリフを遮る形でメリッサが喋りだした。


「メリッサ……」


「私がどんなに勉強していると思っているのよ。どれほど特訓していると思っているのよ!」


 顔を上げた彼女の目には大量の涙が溜まっていた。僕はその涙を見ると何も言えなくなってしまう。

 何も言わないでいると今度はメリッサの方から席を立ち僕の前に立つと胸倉をつかんでくる。


「入学の時からそうだわ! 私の一歩前を常に歩いていて……何なのよ! 勝ち逃げなんて許さないんだからね!」


 胸倉を掴まれたまま強制的に立たされると今度は握った拳で僕の胸を叩き始めた。


「まだ私の気持ちだって伝えられていなんだから! それなのに……それなのに!!」


「メリッサ……ごめんっ!?」


 謝りかけた所を彼女自身の唇で塞がれる。横から見ていたマーリンさんとイルマさんが驚いているがいきなりキスをされた僕の方が驚きでは勝っていると思う。エリスリナは何が起こっているのかわかっていない様子だ。よかった。


「……ぷはっ! わかった!?」


「何が!?」


 いきなり唇を奪われて何をわかれと言うんだい? いや、まぁ大体わかるけど……。

 混乱している顔を見たメリッサは顔を真っ赤にし、声を張り上げた。


「私がイズミを好きだって事!」


「「何だって!!」」


 僕とイルマさんの声が重なる。マーリンさんはショックが大きかったのか石化したまま瞬きすらしていない。


「メリッサ、イズミは女の子なの……」


「あ~イルマさん。それがですね。僕……男なんです……。今まで黙って居てごめんなさい」


 イルマさんに向って頭を下げる。といっても胸倉をメリッサに捕まれているのでちゃんと頭を下げれなかったけど。僕の告白を聞いてイルマさんは今度こそフリーズした。


「メリッサ? 僕前に話したと思うけど六人も妻がいるし、これからも増えるかもしれないんだよ?」


 フリーズしてしまった二人を置いておいて僕はメリッサの目を見て話しかける。メリッサは僕の目を真直ぐ見つめ返してくれた。


「知っている。イズミの話しを聞いてからずっと考えていたの。あの時のドキドキを恋と勘違いしているんじゃないのか?って。でもいくら考えても私の気持ちは変わらなかった。

 “私はイズミが好き”この気持に嘘はつきたくないわ」


「……そうか。嬉しいよメリッサ」


「それに私も前に言ったと思うけどたとえ他に奥さんが居たって私がイズミの一番になればいいのよ!」


 先ほどまで目に涙を溜めていた子とは思えない発言だ。でもそんな彼女の強さを僕は羨ましいとさえ思う。

 その後何とかフリーズから立ち直ったイルマさんとマーリンさんを交えて話し合いが行われた。思えば彼女を貰うために彼女の家族と話しをするのはこれが初めてかもしれない。そう思うと変に緊張してしまいうまく話せなくなってしまった。


 街を出ることに関してはマーリンさんもイルマさんも別に反対はしていなかったのですんなりと終わった。ただ寂しいと言ってもらえた事が嬉しかった。

 一方メリッサに関しては彼女が学園を卒業するか僕みたいに学園長に挑んで校外活動を認めてもらうまではダメだと満場一致で決まった。最初は反発していたメリッサも外での活動の過酷さをイルマさんとに嫌と言うほど聞かされたのが効いたのか大人しくレベルアップに努める事を約束した。


「卒業まで待っていられないわ! 絶対に直ぐに会いに行くからね!!」


 メリッサは両目に涙を溜めながらも宣言してきた。なんて言うか、可愛い。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 翌日、マーリンさん達に見送られて僕達は街を出た。その際、マーリンさんから我慢できなかったらメリッサを攫いに来てもいいと言われたど、あれは冗談だろうか……冗談だよね?


「お待ちしていましたよ。和泉さ……誰ですか! その子!」


 街を出て暫く歩くと例によって例の如く担当者の神崎さんが茂みの中から現れた。以前と変わらない服装だが、首元には僕が送ったネックレスが光っている。大事にしまっているかと思ったけど、何だ着けてくれているじゃん。

 そんな神崎さんだが、エリスリナの姿を見るや否やいきなり奇声を上げた。そう言えば神崎さん今年に入って初めて会うからこの子の事知らないんだ。


「僕の娘だよ」


「む……娘ですって!? 何時産んだんですか! 誰の子ですか!!」


 僕が生んだ事前提か。


「僕が産むわけないでしょ。男だよ僕」


「知っていますよ。でも! そんなにベッタリとくっ付いちゃって!! 私だってまだキスまでなのに!!」


 神崎さんは両目一杯に涙を浮かべ僕ではなくエリスリナを睨みつけていた。

 いや、子供相手に本気で泣かないでよ……。


「ママ? このおばちゃんだれ?」


「ママ!? おばちゃん!? ちょっと和泉様! どういう事ですか! 私まだピッチピチの二〇〇歳ですよ!!」


 神崎さん二〇〇歳だったのか。てかピッチピチって……。


「マーリンさんが三四〇だから……リーチ?」


「リーチって何ですか! 神族とエルフを一緒にしないで下さいよ!!」


 神崎さんって神族だったのか。初耳だよその情報。


「いいお嬢さん。私は和泉様のお嫁さんになる予定なんです。だから貴女のお義母さんになるんですよ」


「え~ママは一人でいいよ~」


 子供をマジで説得し始めたよこの人。あ、人じゃないのか。

 神崎さんは暫くエリスリナと話しをしていたが、彼女の首が縦に振られることは無かった。神崎さんは力なく地面に跪いている。


「まだです。まだ時間が……」


「いや、もういいから移動しようよ」


 こんなにも傷ついているのにまだ諦めてないんだ……逞しいね。


「……そうでした。それで、どこに行きましょう?」


「まだ約束の日まで時間があるし、ギルドカードも一枚残っているからね」


「それではプリーストはいかがです? ギルド本部もラグズランドにありますし、移動も楽ですよ」


 神崎さんは支援職を推してきた。まぁ元から支援職の候補は合ったし、いいかもしれないね。


「それじゃラグズランドに行こうか」


 僕の一言がそのまま鶴の一声となりラグズランドへの移動が決まった。



 そして神崎さんの転送魔法でラグズランドの城門前に移動する。何か一区切りあると必ずここに戻ってきている気がする。

 僕達三人は歩いて門番さんの所まで移動する。久しぶりなのに門番さんは変わっておらずその場に立っていた。服装は厚手のものに変わっていたけどね。

 久しぶりなのに門番さんは僕達の事を覚えていてくれた。凄いな門番さん。


「やぁ久しぶりだね。確か、ブラックスミスになるって言ってたけど、無事合格したのかな?」


「はい、無事合格しましたよ」


「それは良かった。それで……その子は?」


 門番さんは笑顔で祝福してくれた。でもエリスリナの顔を見ると直ぐに仕事の顔に戻る。多分こういう事が優秀なんだろうな。


「この子は娘です」


「む、娘!?」


「ママの娘のエリスリナです!」


 門番さんが驚愕の声を上げるのと同時にエリスリナが元気よく手を上げた。まぁ出て行って一年足らずで五歳児くらいの娘が出来ればそりゃ驚きますわな。


「そ、そうですか。登録はされておりますか?」


 あ、そう言えば聞いて無かったや。どうなんだろう? ユンさんに聞いておけばよかったよ。


「エリスリナ、こんなカード持っている?」


 僕は自分の懐から自分のギルドカードを取り出しエリスリナに見せてみる。


「ん~ん。持って無い……」


「その子ってもしかして孤児ですか?」


 門番さんの問いかけに僕は素直に頷く。すると門番さんは何か納得した表情を見せた。


「それでしたらこちらに名前を頂けますか? そしてお嬢さんの登録ですが、中で出来ますのでなるべく早めに行ってください」


 門番が取り出した記録簿にエリスリナの名前を書き通行料を支払う。それらを確認し終わった門番さんから通行の許可を貰う。

 それにしてもエリスリナの登録か、すっかり忘れていたよ。


 無事門を超えとりあえずこれからの事を決める為に何時もの居酒屋に行くことにした。

 このお店も随分と久しぶりなのだが、内装は変わっていなかった。


「それにしてもエリスリナの登録の事をすっかり忘れていたよ」


「登録していなかったんですね、エリーちゃん」


 神崎さんと向かい合うように椅子に座りとりあえず一番大事だと思われるエリスリナの登録について話し始める。ちなみにエリスリナは僕の膝の上だ時たま神崎さんが睨んでくるけど気にしない様にしよう。


「でもどこで登録すればいいんだろう?」


「エリーちゃんは人間……ではなさそうですね。でしたら冒険者ギルドで登録するのが一番だと思いますよ」


 龍族ともなれば戦闘力は普通の人間には遠く及ばない程強い為、普通に市民としての登録は厳しいとの事。それならば僕の娘兼パートナーとして登録した方が後々面倒にならなくていいと神崎さんから教えてもらった。戦闘に参加させる気はまだないけど、いずれはしなきゃいけない事なら今のうちに準備だけはしておこうかな。


「それじゃまず冒険者ギルドへ行こうか」


「それがいいと思います」


 よし、それじゃまずは冒険者ギルドだ。

 僕は注文したアスポールを飲み干そうとした所で気になった事を思い出したので神崎さんに聞いてみる事にした。


「それにしても神崎さんって神族だったんですね」


「何故それを!?」


 神崎さんの目がこれでもかと開かれている。いや、自分で言ったじゃん。さっき、アルヴ・ヘイムの森の中で……。


「私そんなこと言ってました?」


 顔面蒼白になっているところ悪いと思いながらも僕は首を縦に振った。すると神崎さんはそのまま消えるように姿を消した。どうやら神族という事は僕達には内緒だったようだ。


「まったく、うっかり者にも程があるよ。ね~エリスリナ」


「かんざき居なくなっちゃったの?」


 僕はエリスリナの頭を撫でながら適当に誤魔化しておく。そして彼女は自分の飲み食いした分を支払わず消えてしまった事に気が付いた。

 まったく、ここの支払いは僕持ちなのかな?

 次あった時に回収しようと心に誓いながらアスポールを飲み干した。

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