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37話 VSダーヴィット

 学園から外に出る為にダーヴィットを探していたのだが、彼は意外と簡単に見つけることができた。

 僕は早速試験を受けたい旨を説明する。


「そうか、学園の外へ出たいのじゃな」


「はい、友達も待って居ますし……出来れば外での冒険者として活動することを認めて欲しいんです」


 僕は学園長に向って頭を下げると、彼は少し考え始めた。

 どれほど学園長の言葉を待っただろう。それは三十分もしなかったと思うけど学園長が沈黙を破った時は思わず膝から崩れ落ちそうになった。


「よかろう。少し相手をしてやろう」


 断られると思っていたがなんとダーヴィットはあっさりと試験を了承してくれた。


「イズミの成績は優秀じゃしな。外の世界を知るのもいい勉強になるじゃろう」


 僕は再度頭を下げたのだった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 それから数日後、試験をすると言いながらも何も連絡が無いまま時間だけが過ぎて行った。この日も何も無いだろうといつも通りに午後の修行を受けに中庭まで移動すると、そこには何故かダーヴィット学園長が腕を組仁王立ちしていた。

 別に仁王立ちしているのは構わないけど、何故ダーヴィットがここにいるんだろう? 今日は普通に午後の修行日だったはずなんだけどなぁ……。


「待っておったぞ。さて、これより試験を始めようかの」


「今からですか?」


「決まっておろう。イズミは街の外に出てモンスターに襲われれた時今日は準備をしてないので明日にしてくれとモンスターに頼むのか?」


 そういってダーヴィットはこちらの意見も聞かずに地面に軽く杖の先を当てる。すると辺りの雰囲気が一変した。

 真上から押し潰す様なプレッシャーが僕を強襲する。普通に立っているだけで辛く、膝が笑い始める程のプレッシャーだ。正直ダーヴィットをなめていた。


「ふむ、“立っているのがやっと”と言った所かの」


 ダーヴィットは涼しげな表情でこちらを見てくる。本当にこれ程のプレッシャーを放っているのが目の前の老人なのかと疑いたくなる。


「イズミ~気張れ!」


「イズミ! 戦う前から相手にのまれてはダメですよ!」


「イズミちゃん! そんなジジイやっつけちゃえ!!」


 挫けそうになった時、三人の声援が聞こえてくる。ついでにダーヴィットのワシが契約主なんじゃけどな……と言う寂しそうな声も聞こえてきた。

 そうだ、僕は何をビビっているんだ。嫁のお気に入りの白いワンピースを色物と一緒に洗ってしまった時を思い出せ、大事に残してあったプリンを食べてしまった時の無言の抗議と威圧感を思い出すんだ!

 その時のプレッシャーと殺気に比べれば目の前の老人なんて屁でもないやら!! それに……


「ママ~頑張って~」


 愛娘が見ているんだ、不様な格好なんて見せられるか!!


 身体中に魔力を纏わせ気合いを入れると今まで感じていたプレッシャーが嘘の様に霧散した。今なら誰にだって負ける気がしない!


「ほう……なかなかやりおるわい。ならば!!」


 ダーヴィットは右手を前に突き出し魔力を込め始める。そして横に一閃させると僕とダーヴィットの間に炎の壁が出来上がった。


「お主への課題はこれじゃ。この壁を越えてワシに一撃でも当ててみせよ」


 炎の壁は横に三メートル弱、高さはニメートル強あると思われる。初期魔法のファイアウォールをここまでの強さで放ち尚且つ詠唱を行わなかった所が流石学園長と言ったところか。


「制限時間は三十分でいいかの。では……始め!」


 ダーヴィットの掛け声を聞き、まずは試しと右手に魔力を溜めていく。


「ウォーターボール!!」


 右手に出来上がった水の玉を炎の壁に向かって放つ。しかし壁に到達する前に蒸発してしまう。


「む~」


 初歩魔法が効かないとなると、もっと強い魔法が必要か……。


「フリージングアロー! 並びにアイスランス!!」


 数発の氷の矢と氷で出来た西洋槍が壁を強襲するが、矢は全て溶け槍は半分迄突き刺さったがそこまでだった。


「ほっほっほ、無駄撃ちすると魔力が尽きるぞい」


 学園長は何が嬉しいのか笑いながら忠告をしてきた。その余裕な態度がムカつく……。

 しかし困った……これ以上レベルが高い魔法はまだ制御出来る自信がないし……。しょうがない、ここはアレを使わせてもらおう。


「師匠~あっちを使ってもいいですか~?」


 早速ユンさんに使用許可をもらうために声をかける。一応師匠から禁止されているので許可と言う免罪符が欲しいのだ。


「しょうがないね~存分にやりな!」


 しばらく待っているとユンさんから許しの言葉をもらう。師匠が許可したんだ、思いっきりやらせてもらおう!


 僕は一度呼吸を整えるとゆっくりとそして確実に印を結んでいく。印を結んでいくに連れて周りの空気も変化していく。空が暗くなり若干湿度が上がった様に感じる。


「いきますよ~学園長!

 水遁! 大瀑布の術・水槌!!」


 右手を天高く掲げ、一気に学園長目掛けて降り下ろす。その動作と連動するように空から大きな水の塊がダーヴィット目掛けて落ちてくる。


「ぬおぉう!?」


 その圧倒的な質量を目の当たりにしたダーヴィットから驚きの言葉が漏れる。だが自由落下する水の塊は止まらない。そしてダーヴィットを押し潰すギリギリのところで、なんと炎の壁がダーヴィットを守るように形を変えたのだ。

 激しくぶつかり合い辺りに水蒸気を撒き散らしながら僕の水槌とダーヴィットの壁が攻めぎ合う。

 直後、一段と強い光が発生し僕達の視界を奪う。しばらく待ち、回復した視界の正面には先程迄の威力が嘘のような火の壁と無傷のダーヴィットが立っていた。


「なかなかやりおるわい。だが、一歩及ばなかったの」


「…………」


 無傷のダーヴィットが諭す様に優しく声をかけてくる。


「まぁもう暫く学園で学ぶが良い」


「……まだですよ」


 僕はそんなダーヴィットの言葉を打ち消す様に言葉を紡ぐ。


「何じゃと……!」


 僕の手元に集まるチャクラが見えたのだろう。ダーヴィットから驚愕の声が聞こえてくる。

 そんなダーヴィットを無視して最後の印を結び終える。


「これが最後です。学園長、お覚悟!!

 水遁! 水神弾・弥都波能売神みづはのめのかみ!!」


 突き出した両手から放出されたチャクラは水の龍へと姿を変えダーヴィット目掛けて突っ込んで行く。すでに下火となった壁は意味をなさずその勢いのままダーヴィットを押し流した。


「ぬおおおぉぉぉぉ……」


 水龍によって遠くへ流されるダーヴィットを見つめ自然と声が漏れた。


「しまった……やり過ぎた……」


 その後、遠くの方で何かが固いものにぶつかる音と悲鳴みたいな声が聞こえたような気がするけど……まぁいいっか。誰かが実験の失敗でもしたのだろう。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「すごいじゃないのさ! イズミ!」


「アレほどの技が使えるなんてね、正直驚いているよ」


「イズミちゃんスゴーイ!! 最後のアレはシュイの姿を模してくれたのかな? かな?」


 ユンさん達は己の契約主が吹っ飛んだのに一切気にせず僕のもとへと駆け寄ってきてくれた。特に自分の属性を十二分に活用されたシュイちゃんは飛び付く勢いでというか半分飛びながら抱きついて来た。勢いよく飛びついて来たシュイちゃんを受け止めきれず尻もちをついてしまう。

 と言うか自分で言うのもアレだけど、ダーヴィットはいいのだろうか?


「ママ、かみの色がかわってるよ?」


 ユンさん達の勢いについてこれなかったエリスリナは後ろから抱きついて来て僕の髪を手に取り目の前で遊び始めた。

 バジルによって銀色に変色された髪は更に色を変え今はメタリックブルーになっていた。


「何で……?」


「イズミの強い魔力が反応したのだろう」


「目もシュイと同じ色になってるよ~」


 思わずシュイちゃんの目を覗き込むとそこには綺麗な水色の瞳が見てとれる。同じと言うことは僕の瞳も同じ色になっているのだろう。


「魔力の昂ぶりが収まれば色も元に戻るじゃろ」


 声がした方を向くとイルマさんに肩を貸してもらっているダーヴィットが立っていた。先ほどの堅いものに何かがぶつかった音はダーヴィットが学園の外壁にぶつかった音だと肩を貸したイルマさんが説明してくれた。ここから外壁まで飛んで尚且つ叩き付けられたのに肩を借りるくらいのダメージで済んでるダーヴィットも大概人じゃないよね。


「ふむ。イズミの力見させてもらった……お主なら外に出ても問題なかろう。よって校外活動を認める!じゃが、たまには帰って来るんじゃぞ?」


 ダーヴィットから認められた。その言葉を聞いた瞬間体からすっと力が抜けるのを感じた。僕の換わりに喜んでくれていた皆が慌てるような声が聞こえた様な気がするけど僕はそのまま意識を手放した。



 目を覚ますとこの前運び込まれた保健室に寝かされていた。


「目が覚めたかい?」


 ベッドの横にはユンさんが居てくれた。どうやらずっと看病してくれていたようだ。


「僕は……えっと……」


「極度の緊張からの解放と魔力の使い過ぎだって。張り切り過ぎだよ、まったく」


 ユンさんは保険医から受けた説明をそのまま教えてくれた。ダーヴィットからのプレッシャーとあの炎の壁を破る為に使った魔法と忍術。それが一気に疲労として襲ってきたそうだ。


「どうだい? 少しは楽になったかい?」


「ええ、大分楽です。ありがとうございます。それでエリスリナは?」


 いつもなら真っ先にとんで来る少女の顔が見れない為、何か知っているだろうユンさんに質問した。


「あ~あの子ならあたい達の部屋で待って居るよ。急にイズミが倒れるからビックリしちゃったんだろうね」


 そうか、エリスリナには悪い事をしちゃったな。早く言って謝らないと。


「もう動いていいのかい?」


「ええ、エリスリナに寂しい思いをさせているのにこんな所で寝てられませんよ」


 ベッドから這出た僕はユンさんと一緒にエリスリナの待って居る学園長室まで急ぐことにした。



「エリスリナ!」


 学園長室に入ると部屋の主であるダーヴィットへの挨拶も程々にエリスリナの名前を呼ぶ。彼女は始めて会った部屋でフェンさんとシュイちゃんに囲まれて大人しくお茶を飲んでいた。


「ママ……?」


「おや、気が付いたようだね」


「イズミちゃん大丈夫?」


 皆一斉に僕に気が付いて入口に立つ僕の方を見てくる。お世話掛けましたと頭を下げるとフェンさんとシュイちゃんは気にするなと手を振ってくれた。そしてエリスリナはと言うと両目に涙を為文字通り飛んで来た。


「マ゛マ゛~! 死んじゃうがどおぼった~!!」


 僕はそのままエリスリナを受け止める。そして精一杯の気持ちを込めて抱きしめた。


「ごめんね、ちょっと気が抜けて倒れちゃったよ。次からは気を付けるね」


 何とか泣き止むようにあやすがエリスリナは一向に泣き止まない。もしかしたら自分の両親が亡くなった時の事を思い出してしまったのかもしれない。


「エリスリナ。僕は君の前から居なくなったりしないから。大丈夫だから」


「……本当……急にいなくなったりしない?」


「ああ、本当さ何があっても君だけを残して居なくなったりしないよ」


 僕は自分の気持ちを込めてエリスリナを抱きしめた。その後何とか泣き止んだエリスリナだが、髪の色を赤くしてほしいとぐずり・・・始めた。僕としては折角元に戻った髪なのでこのままでいたかったのだが彼女への謝罪の意味も込めて火の魔力をたかめ髪を変色した。しかし元が銀色の為どうしてもメタリック系の色になってしまう。


「うう~エリとちょっと違う~」


「それはしょうがないよ、元の色が違うんだもの。だからこれで勘弁してくれませんかね~?」


 何とかエリスリナに納得してもらうと、今度は学園長との話しになる。外に行くに当って、ギルドカードを更新してくれると言うのだ。僕はまだノービスになっているギルドカードをダーヴィットへ手渡す。ダーヴィットは受け取ったギルドカードに魔力を込めると物の数秒で更新してしまった。

 ダーヴィットはギルドカードを手渡す時、一緒に話しかけてきた。


「時にイズミよ」


「なんですか?」


 エリスリナを離そうとしても今日の彼女は一向に離れてくれなかった。子供を抱きながらだと失礼かと思ったけどダーヴィットは笑いながら許してくれた。


「ああ、そのままでよいよ。それでのその髪と瞳の色が変わる事なんじゃが……自分の手の内を晒す事になるので気を付けるのじゃぞ」


「はい、気を付けます。ご忠告ありがとうございます」


「うむ、また会いに来なさい。ワシもユン達も歓迎するぞ」


 ギルドカードを仕舞った僕は最後にもう一度頭を下げてから学園長室を後にした。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 エリスリナを抱きながら屋台を回りようやく家に着いたときは辺りはすっかり暗くなっていた。


「おかえり~遅かったじゃないk……どうしたんだい? その髪は?」


 カウンターに居たマーリンさんは髪の色が変わった僕に大変驚いていた。魔力の影響と今日あった事を説明すると納得してくれたのか一回大きく頷いた。


「はぁ魔力が髪の色に反映ねぇ……イズミも面白い体質してるんだね~あたしゃてっきりグレタと思ったよ」


「そんなことしませんよ~この子だって育てなきゃいけないんですから」


 僕は笑いながら腕の中にいるエリスリナを見た。彼女は僕の買った串焼きに夢中で話しを聞いていなかったようだ。


「そりゃそうだ。イズミはこれからが大変だからね~」


「あ、そうだ。これからと言えば。ちょっと大事な話しがあるんですけど……」


 僕の雰囲気を察してくれたマーリンさんは顔から笑みを消して聞く姿勢をとってくれた。僕は一呼吸置いてから今日この街を出る為の試験を受けたことをマーリンさんに話した。


「……そうかい、友達が待って待って居るんじゃしょうがないね……イズミが居なくなると寂しくなるよ」


「ちょくちょく戻って来ますよ。その時は……」


「いつでもおいで、何時でも部屋は空けておくよ」


 僕はマーリンさんの言葉に思わずウルっときてしまった。泣くのを必死で我慢しているとマーリンさんが近付いてきて優しく抱きしめてくれる。僕のダムはあっさりと決壊してしまった。

 しばらくマーリンさんの腕の中で泣いた僕は意を決して食堂のドアを開ける。

 さて、次はメリッサとイルマさんだ……。

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