39話 聖職者になりませう
とりあえずエリスリナの登録をしに僕達は冒険者ギルドを目指し歩き出した。学園都市とはまた違った趣のある街並みにエリスリナの興奮も最高潮だ。
エリスリナの度重なる質問攻撃に全部答えていた為、通常の倍以上の時間がかかってしまった。
「懐かしいなぁ。エマさん元気かな?」
ギルドの建物を眺めると思わず言葉が口から出てくる。
「ママ~ここで何するの?」
「ここで、エリスリナが僕の娘だよって証を出してもらうんだよ。こういうカードでね」
エリスリナの質問にギルドカードを見せながら答える。エリーはママの子だよ?と首を傾げて聞いてくるので抱きしめながらさらに答えてあげる。
「そうだね~そのことを他の人にも知ってもらう為でもあるんだよ」
「ふ~ん。へんなの~」
いまいちわかっていないエリスリナを抱きかかえたまま僕はギルドのドアをくぐった。
カウンター前のテーブルには数組の冒険者がお酒を飲んでいたが、全員が僕の姿を見るとお酒を飲む手を止めた。まぁ酒場に子供を抱いた人が入ってきたら驚くよね。いや、ここは冒険者ギルドだった。
「やぁ元気だったかい?」
カウンターへ移動すると受付業務をしていた男性が声を掛けてきてくれる。何処かで見たことがある顔なのだが、どうも知り合いと一致しない。僕は適当に挨拶をしてエマさんを呼んでもらった。
暫くすると奥の部屋からエマさんがやや駆け足気味でカウンターまで来てくれた。
「イズミあんた何時結婚したの!?」
「まだですよ! ってか何でそんな話になっているんですか!?」
いや、元の世界じゃ結婚してるんだけどね。この世界じゃしてないよって意味だからね。って僕は誰に弁解しているんだ?
「さっきレオナルドさんがイズミが子供を抱いているって言うからてっきり……」
「レオナルドさん? いました?」
はて、レオナルドさんは一目見れば直ぐわかるのに今日は会った記憶がないぞ。
「酷いなぁ忘れてしまったのかな?」
その時エマさんを呼びに行ってくれた男性が苦笑いしながら近付いて来た。そうそう、そう言えば貴方は誰なんでしょう?
「まぁ私も大分“いめちぇん”……でしたか? しましたし直ぐにはわからないでしょう」
「え~と、ごめんなさい。ちょっと思い出せないのですが……」
親しげに話しかけてきてくれる男性とはどうやら顔見知りのようだ。
ん~何か思い出せそうで思い出せないこの気持……気持ち悪いよ!
「そうですか……わかりませんか」
男性は自分が忘れられたと言うのに意外とうれしそうだ。何だろうそれほどイメチェンがうまくいったのかな?
「彼がレオナルドさんよ」
はぁ?
エマさんの言っている事が理解できなかった。多分助け舟を出してくれたと思うけど。この人がレオナルドさん? いやいや、嘘言っちゃいけないよお嬢さん。レオナルドさんはメタボでバーコードのおっちゃんだったじゃない。今僕の目の前に居る男性は痩せてるし髪の毛だってある。第一歳がだいぶ若いよ?
「エマ君が言っている事は正しいよ。私が君の初心者講習の時に担当教官だったレオナルド・アンダーソンですよ」
僕は開いた口が閉まらなかった。ついでにエリスリナを落としそうになって慌てて抱き直した。
「え? 嘘ですよね?」
「ふっふっふっそれが嘘じゃないんですよ。君の友達の……え~と、ヒナタ君……でしたか? 彼がアルケミストになったと報告に来たときにですね貰った薬を飲んだらご覧の通りですよ」
何やってるのさアイツは!!
友人の所業に思わず目の前が暗くなった。まさかおっさんを青年に変える薬を作る奴だったなんて……いや、あいつならやりそうか。
とりあえずレオナルドさんが気にしていない、いやむしろ喜んでいるようだしこの事はもうかかわらないことにしよう。
「彼に会ったらお礼を言っておいてくれないか? 私がたいへん感謝していたと」
「あ、はい……伝えておきます」
そう言うとレオナルドさんは元気に仕事へ戻って行った。暫く無言で見守っていたがエリスリナに声を掛けられて本来の目的を思い出した。
エマさんにこの子の登録をしたいと伝えると「訳ありね」と何やら楽しそうに個室へと案内してくれた。特にこれと言ってないんだけどなぁ。
「それで、どっちの子なの?」
個室に入るなりエマさんは訳のわからない質問をしてきた。
「どっちとは?」
「とぼけなくていいわよ。リョウ? それともヒナタ?」
なんてことでしょうエマさんは完全に僕と奴等の子だと思い込んでいるようです。そんな気持ち悪い想像はさっさと撤回させないと後々厄介な事になるでしょう。
「やめてください、気持ち悪い。この子はですね」
僕はアルヴ・ヘイムであった事を説明した。ついでにエリスリナの正体も合わせて伝えておいた。
「と言うわけで、僕はこの子の親になった訳です」
「なんだ~つまらないの」
「いやいや、僕が彼奴等の子供を産むとか勘弁して下さいよ。ってか僕、男ですよ」
「あっはははは、そこまで言わなくてもいいのよ。イズミちゃんは何処からどう見ても女の子なんだから」
ダメだ、信じてもらえない。もう訂正するのもめんどくさくなってきたよ。
その後エマさんが納得するまで質問に答え、エリスリナの登録をするまで実に一時間以上の時間を要した。はぁ何かどっと疲れた。
その後書類を作り登録料を支払いエリスリナを正式に僕のパートナーとして登録できた。残念ながら娘としての登録は出来なかったけど、彼女が“ママ”と呼び僕がそれに応えれば周りはそう見るだろう。
登録が終わるとエマさんがお茶を用意してくれたのでそのままお茶会となった。話題はブラックスミスの試験が終わってからの事をが中心だった。
「それで、何でイズミはアルヴ・ヘイムまでいったのよ」
「え~とですね……」
これは素直に言ってもいいのだろうか?
何処まで言っても大丈夫なのか考えていると頭の中に神崎さんの声が響く。
(ある程度は大丈夫ですよ。ただ、私達の事は内密にお願いします)
なるほどね、召喚された事はいいけど大神さんや神崎さんが絡んでいることはNGと……
「イズミ?」
急に黙り込んでしまったのを心配してくれたのかエマさんが声をかけてくれる。ついでにエリスリナも抱きついてくる。可愛いなぁもう!
「あ、ごめんなさい。えっと……去年ノンナ……様が召喚の儀式をなさった事は知っていますか?」
「ええ、知っているわ。何でも三人の勇者が召喚されたって話しだけど……」
「その一人です」
僕が自分を指差すとエマさんは一回目を見開いたがすぐに苦笑いをした。
「嘘でしょう?」
「本当ですよ」
「……え? 冗談じゃなくて?」
「冗談だったら良かったんですけどねぇ」
「…………もしかしてリョウとヒナタも?」
「そうですよ。一緒に喚ばれてこっちに来ました」
質問を重ねる毎にエマさんの顔から笑顔が消えていった。知り合いが『実は異世界人でした!』何て言っても信じられないよね~
「ちょっと待ってね、頭が混乱してきちゃった……。
え~と、それで何でアルヴ・ヘイムに行っていた話しに繋がるわけ?」
混乱してしまったエマさんにもわかりやすい様に細かく丁寧に説明したのだが、更に混乱してしまうという結果になった。
結局また日を改めて説明する事で折り合いをつけ僕は冒険者ギルドを後にした。エマさん今日は仕事にならないだろうなぁ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
さて、無事エリスリナの登録も完了し、今日の目的の半分は達成された。
「さて、和泉様。早速プリーストのJobを習得しに行きますか?」
ギルドを出てエリスリナとふらふらと散歩していたら神崎さんが現れた。
「かんざきのおばちゃんだ!」
「エリーちゃん? 私の事は“お義母さん”、もしくは“神崎さん”と呼んでくださいね?」
「え~」
エリスリナの中ではすでに神崎さんは“おばちゃん”に分類されてしまったのだろう。かわいそうに。
さて、立ち話もなんだからと僕達は移動を開始した。ちょうどお昼時だった事もあり、いつもお世話になっている『菜食主義の狼亭』に行くことにした。と言っても一回しか泊まってないんだけどね。
「いらっしゃーい! ってお客さん久しぶりですね!」
お店で出迎えてくれたのは初めて入った時にも出迎えてくれた女の子だ。
「今日もお泊りですか~?」
「あ、いや今日は食事なんだ」
「かしこまりました! それではこちらへどうぞ~」
女の子は元気に食堂まで案内してくれた。この子はいつも元気で羨ましいよ。
メニューは豊富にあったが、今日はランチを三人前頼むことにした。エリスリナがまだうまく食べれない為食べさせてあげていたのだが、まさかいい大人である僕の担当者が涎を垂らしガン見してくるとは思わなかった。頼まれても神崎さんには『あ~ん』しませんよ。
その後何事もなく食事を終え、ようやく残りの目的であるプリーストについて話し合う事になった。
「プリ―ストになるならこの街にあるギルド本部に行く必要があります」
「今までの所もそうだったよね。なんでわざわざ言ったのさ」
「いえ、なんとなくです」
この担当者……。まぁいいや、まだお店の中だ。まだだ、まだ慌てる時間じゃない。
「そ、それでですね。そのギルド本部なんですが、ここの教会なんですよ! ビックリじゃないですか?」
「まぁプリーストと言うくらいだし。宗教関係だよね」
「……そうなんですけど~何か物足りません!」
いまいち説明役として機能してなかった為か神崎さんが唇を尖らしている。
そんなこと言ったって、わざとらしく驚いた方がよかったかな?
拗ねてる神崎さんをなんとか宥め話しの続きを促す。と言ってもそれ以上の情報は特に必要なく簡単な場所の説明などであった。じゃ何で拗ねたんだ?
「今から行きますか?」
「そうだね~行くだけ行ってみようかな」
僕たちは代金を支払い(何故か僕持ち)、早速教会を目指して出発した。
教会は街の北西に位置しており城と目と鼻の先だ。反対側には騎士団の詰所があり、武さんが修行していたのも多分そこだろう。
教会の建物は大きく、冒険者ギルドと比較しても引けを取らないつくりだ。ルーズガス神聖帝国の首都であるラグズランドにあるだけのことはある。
入口を開けると何とも不思議な、厳かとでも言えばいいのかそんな空気が支配していた。暫く入口で待って居ると奥から神父だろうか、修道着に身を包んだ男性がゆっくりと歩いきた。
「カンシュザーキ教に何か御用ですか?」
「はい? 神崎教?」
僕は思わず聞き返してしまう。
だって、ねぇ? 神崎教って……。
「いいえ、カンシュザーキ教ですよ。この世界の主神、カンシュザーキ様を崇める宗教です。それでお嬢さんはどのような御用件でいらしたのでしょう?」
男性は優しく微笑むと再度要件を聞いてきた。
ん~優しさの中に迫力のある笑顔だ。ただ優しいだけじゃなさそうだね。
「あ、えっと……プリーストのJobに就きたくて……」
僕は正直に理由を話すと男性は更に嬉しそうに微笑んだ。入会者が少ないのだろうか?
しかし、その笑顔は直ぐに曇ってしまった。
「入門の方ですね! 折角来て頂いたのに申し訳ありません。今司教様は所用で出かけているのです。もしよろしければまた明日、来ていただけませんか?」
「あ、はい。わかりました」
男性はお待ちしていますと言いながら軽く頭を下げ扉を閉めた。
なんて言うか、息が詰まる場所だな。
「明日まで時間が出来てしまいましたね」
「そんなことより聞きたい事ができたよ」
僕が笑顔を向けると神崎さんはさっと顔を逸らした。やはり聞かれたくない事があるのだろう。
「さてと、それじゃ宿に戻って洗いざらい吐いてもらいましょうか」
「あ、私急用を思い出しました」
逃げようとする神崎さんの腰に左腕を回し強制的に抱き寄せる。くっつき過ぎて歩きずらい体勢だが、効果は抜群だ。
「はわわわ」
「行くよね?」
「はい~行きましゅ~」
茹でタコよりも真っ赤じゃないかと思える程顔を赤くした神崎さんが力なく頷いた。既に呂律もまわっていないようだけど、何がそんなにいいのだろうか?
まぁ効果が効いているうちにさらに腕に力を込めて宿まで歩きはじめる。エリスリナは右腕に抱きつくようにくっ付いてくる。傍から見ればちょっと怪しい集団だ。
お昼を食べた『菜食主義者の狼亭』へとんぼ返りすると受付で女の子に苦笑いされた。
「お泊りですか?」
「うん。ごめんね、二度手間になっちゃって。三人お願いできる?」
「は~い三名ですね。部屋は……」
「シングル二つ……」
「ツインでいいです!」
今まで骨抜き状態だったのに電光石火の早業で神崎さんが部屋のタイプを指定する。女の子も視線で確認してくる。まぁいいんだけどね。
女の子にそれで大丈夫だと伝え、鍵を貰い部屋まで移動した。
何かいっつもこのやり取りをしている気がするよ。
さてと、部屋に行ったらキリキリ吐いてもらいましょうかね。あの宗教の名前とか?
僕は部屋までの階段を上りながらそんなことを考えていた。




