表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女が真龍に仕掛けた我儘戦争(仮です。迷走中です。少し変えるかもです)  作者: 漆本李彩(しつもと りあ)
第二章 冒険者学校は才女だらけ?!
233/235

第231話 おら、お前等! 殺してこいっ!

「おら、お前等! 殺してこいっ!」


 2匹の黒い虎が跳びかかってくる。

 ポンチョのついた奴は、近くにある木と茂みの方へ着地して暗闇も相まって姿が見えにくくなった。もう1匹は頭上に高く跳んで、建物の壁に張り付いてこちらを見ている。


「タツキ、服アリの奴が見える?」

「いや、正確には捉えられない」

「なら、服無しの奴を見て。向こうはオイラが対処する」


 服無しの奴でも早くて目で追いきれない。だが、夜目が効くシェンユがポンチョ付きを見た方が良いだろう。


 俺は視線を上げて、伸びる体毛を壁に絡ませてクモみたいに建物に張り付いている黒い虎を捉えた。


「痛っ!!」


 右足の太腿に激痛が走って身体を屈めた。


 痛みのある部分からは血が噴き出ていて、触ってみると何かが突き刺さっていた。


「タツキ避けてっ!」


 気配を感じて視線を戻すと、服無しの黒虎が壁を蹴って急降下し、俺の方へと向かってきている。

 最悪の体勢なうえに足を攻撃されて、どうにも対処できず、背中に着地されるのを避けようが無い。その巨体と勢いでの質量攻撃は強烈で、地面へと押し潰されて意識を失いそうになる。

 

 体内に大ダメージで吐血する。肺が押されて息ができない。叫び声さえも出せない。

 潰されたカエルの様に地面に伏せながら、茂みの方を睨む。少し光ったような気がして、何かが飛んでくるのが分かった。


 おそらく、足にダメージを与えた攻撃だと予測はできたが、避けなれない。向かってくる飛翔体を、睨むしかできない。


 だが、それは俺に到達することは無かった。

 目の前にシェンユの左手が現れ、飛翔体を受け止め握りしめる。そのまま、その拳を振り抜いてバックナックルを放つ。

 残念だが、拳は空を切った。だがおかげで、俺の背にいた服無しの黒虎は、離れていってくれた。


「タツキ、立てる?」

「はぁ、はぁ、少し、時間をくれ」

「そのまま休んでて、あのネコ共はオイラが殺す」


 マズイ。シェンユがキレている。

 俺が止めないと。抑えられるのは俺しかいない。けれど、身体はいう事をきかない。動かない。


「オッサンは終わりじゃん! エーコ、楽にしてあげなよぉ!」

「ニヤァァァアア!」


 クソ野郎の煽りと共に暗闇から雄叫びがあがる。

 どうやら場所を移動したようだが、今ので分かってしまった。戦い慣れてないのか?


 シェンユが腕を動かす。また何か飛んできたようだ。俺の足は貫いたってのに、なんでシェンユは掴めるんだ?


「そいつ…… は、何だ?」

「う~ん、毛玉かな? 魔力で固めて撃ち出しているけど、オイラには効かないね」


 シェンユは撃ち込まれた3発目も掴むと、握っている拳を開いて、捕まえた物を目の前に落としてくれた。


 地面に落ちると少しバウンドした真っ黒な縮毛を固めたような物は、触ってみるとスポンジのように柔らかいが、形はライフルの弾丸のような円錐形をしている。

 コイツが鉄みたいに固くなるなら、人間の足なんて貫くだろう。


 詳しくは分からないが、シェンユは魔力を帯びたものに触れる事で、別の形の魔力に変換できる能力がある。

 この毛玉弾丸が触れた瞬間に魔力を変換して、フワフワ毛玉になったのを握ってるのか。


 4発目はシェンユが上手く軌道を変えて、クソ野郎に向かって飛ばす。すぐに服無しの黒虎が間に入って、毛による盾を作って防いだ。


「あっぶね~。エーコっ! 俺を殺す気か! もっとよく狙え! カゲトラと協力してアイツ等を殺せっ!」


 このクソ野郎って普通に喋るな。奴隷紋を通して指示を出した方が良いんじゃないのか?


 うむ…… なんか、違和感を感じるな。


 カゲトラって奴は、完全獣化の優れた肉体に高い身体能力があり、体毛を操って伸縮させて硬化させる事ができるようだ。

 エーコって奴も同じく完全獣化ができる。そして体毛を魔力で固めて弾丸のように飛ばせる。

 どっちも個体としては凄い強さを持っている。だが、俺もシェンユも致命傷は受けていない。奴隷使いのクソ野郎は殺意が高いのに、そこまでピンチでは無い。


 部隊の中で2番目に強い。とか言ってたけど、大して強くないように感じる。

 思ってるよりも弱いのかもしれん。


 あと、さすがに名前を覚えてしまった。


「ふぅ~」

「えっ? 大丈夫なの?」


 何とか、生まれたての子鹿のように立ち上がる。


「シェンユ、次の攻撃で服無しを倒す。俺が合図したら全力の魔力で打ち込んでくれ」

「……さっすが、気づいてるのね」


 説明しなくても、2人で背中合わせになる。シェンユがエーコの方を向き、俺がカゲトラの方を向く。

 互いに信頼して背中を預ける。シェンユはエーコの毛玉弾丸攻撃は効かない。しかし、俺はカゲトラを目で追いきれないし、右足を庇い、くの字に曲がったまま立っている、さらに右腕は構えているが、左腕は肩を噛まれたせいで力無くぶら下がっている。


 コイツはぁ。よくこんな状態の俺を信頼してくれるぜ。


 様子を伺ってるカゲトラに視点を合わす。その後にいるクソ野郎は、イラついているみたいだ。

 と観察していたら、クソ野郎がカゲトラの尻に怒鳴りながら蹴りを入れた。


 奴隷とはいえ、仲間じゃないのか? 扱いがちょっと酷すぎる!


 カゲトラと目が合った。何秒が見つめ合ったままのような感覚になったが、そんなハズは無い。

 気づけば奴は姿勢を低くして俺に向かって動き出す。


 軽快に左右に跳びながら、突進してくる。


 このタイミングを狙ってたのか、背後で動く気配がした。おそらくエーコの奴が挟撃してきたんだろう。

 毛玉弾丸が襲ってくると分かっているが、気にしない。シェンユに任せてあるから大丈夫だ。


「えぇ!? 4発同時だって!?」


 シェンユの驚く声が聞こえるが、俺はカゲトラから目を離さない。


 奴は2メートルほど手前で、俺の右側にある茂みへと跳んだ。


 攻撃に備えて左手に拳を握り力を込める。身体を右へと傾けて、左腕を振り上げようとした時、カゲトラの姿が視界の左へと、ありえない動きで移動した。


 なんとか視界の端で捉えて分かったのは、奴は体毛を伸ばして建物の壁に絡ませ、自身を引き戻したのだ。


 俺は身体を反転させるのに踏ん張って、少しだけ動けなくなる。その隙に、無防備な左側をとったカゲトラが牙を剥いて跳びかかってきた。

 振り上げる途中だった左腕に深く牙が食い込んで、両前脚の勢いで倒されそうになる。さらに対応しようとした右腕も、伸びてきた体毛が絡みつき使えなくなる。


 狙い通りだ!


 俺は両足に力を込めて地面を掴む。相手から掴んでくれてる右腕を上手く使い、全身の筋肉を最大限に活用する。カゲトラ自身の跳ぶ勢いもを利用して、その巨体を引き寄せる。


 俺の事を負傷している、ボロボロだと思っただろうが、残念ながら、これぐらいのダメージは神より授かりし能力によって修復される。


 やはり、素早い相手には、攻撃の時に捕まえさせて、それを利用して投げるのが有効だ。チャイラ怪人との戦闘で実証済みだからな!


 けど、背負い投げで地面に叩きつける程度では倒せない。それも分かってる!


「シェンユー!」


 カゲトラを投げる先。俺の身体の背面にはタイミングを合わせたシェンユが待っている。


 シェンユは魔力を帯びた毛玉弾丸の魔力を、打ち消し変換をしていた。その変換された魔力はどこにいったのか? それは当然、シェンユの身体強化へと還元されている。

 毛玉弾丸8発分の魔力を帯びた両手の掌打が、空中で無防備になっておるカゲトラの脇腹へと撃ち込まれた。


 その威力は凄まじく。

 一瞬だけ呻き声を上げた巨体の黒い虎は吹き飛び、隣の建物に激突して壁や柱や窓などを破壊した。壁には穴が空き、少し床にめり込んで動かなくなったカゲトラだが、死んではいないようだ。

 口から大量の血を吐いて、さらに泡も吐いている。打たれた左の脇腹は拳大の大きさに陥没している。おそらく肋骨は何本か折れ、内臓にもダメージがあるだろう。

 それでも、鋭い琥珀の眼で俺とシェンユを捉えているのは、さすが完全獣化できる虎獣人だ。


「もう、アイツは動けないね。にしても驚いたよ。タツキが、まだ、あんなに動けたなんて」

「タフなのが俺の強さだからな。あの程度の攻撃なんぞ、大ダメージにはならん。少し時間があれば動けるようになる」


 う~ん。誤魔化せているかな? 流石に噛まれた左肩と左腕が修復されるとマズイなぁ。


「あぁ。あぁぁぁあ」


 幽霊みたいな奇声を出しながら、暗闇からもう1匹が近づいてきた。

 どういう訳か、ポンチョ1枚の人型の姿になっている。


「ギニャァァア嗚呼!」


 突然、奇声が悲痛な絶叫に変えて走ってくる。


 俺とシェンユはすぐに迎撃体勢を構えたが、襲ってくるのは大きな虎ではなく、もはや、パニック状態の少女という印象になっていた。


「姉ニャぁぁ! 死なないで姉ニャぁぁぁあ嗚呼!」

 

 エーコが目の前まで近づいて来て、シェンユが殺気を纏っていたが、俺はそれを止めた。

 そのまま眺めていると、俺とシェンユの間を駆け抜けて、死にそうに掠れた息をする黒い虎へ寄り添った。


「姉ニャぁぁぁぁー。うわーん、姉ニャぁぁぁー。主っ! 主ぃぃ! 魔力を送って下さいっ! 姉ニャに魔力を与えて下さいっ! このままだと、姉ニャが死んでしまいますぅぅ。ぅぅううう」


 大粒の涙と鼻水を垂らして、悲痛な訴えをする少女の姿を見て、俺は戦う気を失ってしまった。

 それどころか、少し申し訳ない気持ちになり、カゲトラを助けてやりたい。と思ってしまった。


「バカヤロー! 何してんだエーコっ! さっさと、そいつ等を殺せ! じゃなきゃ、カゲトラをこっちまで引っ張ってこいっ!」

「姉ニャがいないと出来ないですニャぁぁあ。姉ニャがいないと、姉ニャがいないとぉぉぉおお。お願いですニャぁ。何でもしますニャぁぁあ! 魔力を与えて下さいニャ、姉ニャを助けて下さいニャぁぁぁああ」

「ふざけんなっ! カゲトラは瀕死じゃん。あんな大怪我の治癒に莫大な魔力を持ってかれたら、俺が死んじまうじゃん!」

「それじゃぁ、姉ニャが死んでしまいますぅう」

「んな事は、分かってる! だから、早く連れてこい。奴隷契約解除しなきゃなんねぇ! カゲトラが死んだら奴隷紋の呪いで俺まで死んじまうじゃん!」

「……ニャ? ニャぁぁああ!? 嫌ニャぁぁぁああ嗚呼」

「このっ! クソ猫がぁ!」

「ニャッ!?」


 泣き叫ぶ虎獣人の少女は、一瞬だけ大きく身体を震わせると痙攣しながら倒れた。おそらく、かなり強めな躾を発動させたのだろう。


 俺は、歩を進める事にした。


「あ。タツキ、どこ行くの?」


 なんとなく分かってた。

 奴隷使いってのは、自分では戦えないから、自分よりも強い奴隷獣人を使役して、代わりに戦わせている奴が多い。

 そして、コイツもその内の1人だろう。って。


 カゲトラを倒せた俺とシェンユよりも強い。って事はありえないと思ってた。


 そして、それが何故か今、確信に変わった。


「くっ。エーコ、起きろっ!」

「お前が動けなくしたんだろ」

「あぁ!? はっ! いいじゃん、やってやるぜ? 足も左腕も使えねぇお前がぁ、俺を倒せると――ゴフゥっ!」


 俺の力を可能な限り左腕に乗せて、奴の腹を突き刺すつもりで殴った。

 カゲトラがシェンユから受けた1撃と同等になるように、全身全霊全力で拳を振り抜いた。


 くの字に曲がったクソ野郎は、口を開けたまま急に黙って動かない。頭が良い位置に下がり隙だらけなので、せっかくだから回し蹴りをプレゼントして地面にキスさせてやった。


 頭を狙ったのがいけなかったのか、くの字のまま地面に倒れてピクピクと痙攣している。


 軽く蹴り飛ばして、仰向けにしてあげる。

 そのまま馬乗りになって、とりあえず右手の拳で顔面を振り抜いてやった。


 クソ野郎は何も言わない。

 これから、情報を引き出さないといけないってのに、こんなんでは困る。


 なので、次は左手の拳で顔面を振り抜く。

 そしてもう1回右で、次は左で、また右で。左……


「ちょっと、ちょっと!」


 気づいたらシェンユが後ろから、俺を羽交締めにしていた。


「タツキ、冷静になって! 殺す気なの? 情報を得られなくなっちゃうよ!」

「あっ」


 あぶない!

 危うく、俺が人を殺してしまうところだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ